学術・研究

医科2018.02.04 講演

日常診療で使える整形知識(7)
JATEC(外傷初期診療ガイドライン)要点(下)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)

静岡県・西伊豆健育会病院 院長  仲田 和正先生講演

(前号からのつづき)
7.Secondary survey(SS)
「切迫するD(1.GCS≦8、2.GCS2点以上の低下、3.ヘルニア徴候)」がある時はSSの最初にCTを行う。バイタルが安定していること。
・SSの最初にAMPLEを聴取する。(Allergy、Medication、Past history/Pregnancy、Last meal、Event)
・全身観察(head to toe、front to back)の開始。
(1)頭部、顔面
(2)頸部:再度カラー前面をはずして観察。
 「頸静脈怒張なし、呼吸補助筋使用なし、皮下気腫なし、気管偏位なし、頸椎後部正中に圧痛なし、鎖骨異常なし」SSの後で頸椎3R撮影。頸椎CTのみでも可
(3)胸部:「見て、聞いて、触って」ここでEKG12誘導を忘れない(心筋挫傷を見つける)。胸部X線を詳細観察「気胸縦横骨軟チュウ」の順(気管、胸部、縦郭、横隔膜、骨、軟部、チューブ)。
 ここで見つけるべきはPATBED2Xの8外傷。すなわち、Pulmonary contusion、Aortic rupture、Tracheo-bronchial rupture、Blunt cardiac contusion、Esophageal rupture、Diaphragmatic rupture、Pneumo-thorax、Hemothoraxである。
(4)腹部:「見て、聞いて、触って」FASTを再度繰り返す。FASTは繰り返し行うこと。ここでNGtube挿入。必要なら造影CT。
(5)骨盤:骨折の確認は触診でなくX線で行うこと。骨盤X線を詳細観察。X線で骨折なければ恥骨、腸骨、仙腸関節の圧痛確認。
(6)会陰部:「外尿道口からの出血なし、会陰皮下出血なし」
 ここでFoleyカテ挿入直腸指診を行い「肛門括約筋緊張よし、粘膜断裂なし、骨片触知なし、前立腺高位浮動なし、出血なし」
(7)下肢、上肢
(8)背部:log rollで行い背面観察。損傷側を上にすること。頭部保持者の号令で「1,2、3」。この時リーダーの腕が隣の者の腕の下にならないように注意。片腕をフリーにして背部が触診できるように。
 不安定型骨盤骨折がある場合は、flat liftでそのまま上へ持ち上げて
(9)神経:「GCS8点、瞳孔4ミリ4ミリありあり、四肢の動きよし」
8.最後に「FIXES」で処置に見落としがなかったか見直し
 Finger and tubes into every orifice、IV/IM(抗生物質、破トキも)、X線・エコー、ECG、Splint
9.Secondary surveyの総括
JATEC最重要点
1.患者接触、最初の15秒で第一印象。Primary survey(PS)でABCDEの観察と処置を行いバイタル安定化を図る。Secondary survey(SS)で全身観察と処置を行う。1箇所の外傷に気をとられず常に全身に気を配る。
2.全脊柱固定のunpackagingは頭から。
3.カラーをはずす時は必ず用手的に頸椎正中位固定。
4.Cは三つの確認(すき歯から血が出る:Skin、Pulse、外出血)、三つの行動(ハリーポッターは速い:IV、ポータブルX-p、FAST)。
5.またはSHOCK and FIX-C(Skin、Heart rate、Outer bleeding、Capillary refilling time、Consciousness、Ketsuatsu⇒FAST、IV、Compression(圧迫止血))。
6.Primary surveyでTAF3XMAPDの9外傷をルールアウト。
 (Tamponade、Airway obstruction、Flail chest、open pneumothoraX、tension pneumothoraX、massive hemothoraX、Massive hemothrox(重複)、Abdominal hemorrhoage、Pelvic fracture、切迫するD)
7.「切迫するD」は三つの行動(1.挿管、2.脳外科コール、3.CT)
8.「切迫するD」(GCS≦8、GCS2点以上低下、脳ヘルニア徴候)ではSecondary surveyの最初に頭部CTを撮る。PSの最中に撮ってはならない。
9.Secondary surveyの最初にAMPLE聴取したあと全身観察(head to toe、front to back)。
10.処置(chest tube挿入、背面観察、CTなど)の前後には必ずバイタル確認。
11.異常を見つけたら必ずそのつどバイタル確認。
12.GCSは丸暗記。
13.Secondary surveyではPATBE-D2Xの8外傷をルールアウト
 (Pulmonary contusion、Aortic rupture、Tracheobronchial rupture、Blunt cardiac contusion、Esophageal rupture、Diaphragmatic rupture、pneumothoraX、hemothoraX)
14.最後にFIXESで見落としがなかったか想起。
外傷時の輸液、最近の傾向
 ベトナム戦争から1990年代まで出血性ショック患者はリンゲル液や生理食塩水の大量投与が行われてきた。最近、イラク紛争、アフガニスタン紛争で経験が積まれ、何と現在の出血治療の要諦は「早期止血、血液製剤の早期投与、低血圧の容認」であって「大量輸液はやるな!」ということになり大きく変化しつつある。
 大量輸液により凝固因子が希釈され間質浮腫が増加、再環流により炎症が悪化し活性化酸素により組織障害を起こすというのである。
 輸液を行うのは意識障害があるか橈骨動脈を触れない時のみであり、輸液するにしても脈が戻る最小限の量をbolusで入れるだけでよいとのことである。血圧が80から90mmHgあればよしとするのである。
(つづく)