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学術・研究

医科2026.01.24 講演

身体診察おたくの奥義
~頭のてっぺんからつま先まで 増補版~
[診内研より568] (2026年1月24日)

埼玉医科大学国際医療センター 造血器腫瘍科 教授 脇本 直樹先生講演

 一般外来は多彩な症状・身体所見の患者さんが来院するが、初診の症例におけるスクリーニング検査の前に十分な視診、問診を行った上で検査項目を絞ることが重要である。
 身体診察において筆者が留意していることが二つある。一つ目は全身を診るということである。眼は眼科、鼻と耳は耳鼻科、骨と筋肉は整形外科、泌尿生殖器は泌尿器科か婦人科などと、のっけから投げないで、一度は自ら診察する。
 二つ目は記録するということである。診察時に即座に診断はつかないが、何か変だと思う所見があったら、後で調べるために詳細に記録する。こうすることによって、自身の診療のスキルアップも図れるし、患者さんにもメリットがあるものと考える。
 今回の講演では、具体的な症例を提示し、視診の奥義を披露した。以下に主要な部分についてまとめた。
①角膜輪と老人環
 コレステロールが角膜に沈着することでみられる角膜輪は家族性高コレステロール血症に特徴的な所見のひとつである。50歳未満の患者に認められる角膜輪は家族性高コレステロール血症を疑うきっかけとしての診断的価値は高い。
 一方、高齢者にみられる角膜輪は老人環とも呼ばれ、脂質異常症とは関係なく、加齢変化のひとつである。
②眼瞼黄色腫
 眼瞼黄色腫は、高コレステロール血症の所見と言われるが、眼瞼黄色腫を有する人で、高コレステロール血症がみられるのは、約半数に過ぎず、特異度は高くない。腱黄色種あるいは皮膚結節性黄色種(眼瞼黄色種を除く)は特異度が高い。
③診察室における視診による黄疸検出の限界
 室内照明下では、総ビリルビンが2㎎/dL以上で感知されるようになるのに対し、太陽光下では1.8㎎/dL程度で眼球結膜の黄染が感知される。
 頻度の高い体質性黄疸であるジルベール症候群の平均総ビリルビン値は2㎎/dL程度であるので、黄疸はあっても気付かれにくい。
④眼球結膜の毛様充血
 眼球結膜充血は、外見上の所見から結膜充血と毛様充血に分けられる。狭義の結膜充血は、瞳の周囲で充血が強くみられるのに対し、毛様充血では瞳から離れた辺縁部に充血が強い。結膜充血は眼精疲労、異物やコンタクトレンズによる刺激、アレルギー性結膜炎などによくみられるが、毛様充血は血管炎を起こす膠原病でしばしばみられる。
⑤ヘルトゲ徴候(図)
 甲状腺機能低下症では、眉毛の外側3分の1が薄くなる・抜けるという特徴的な症状が現れることがある。これはヘルトゲ徴候と呼ばれている。甲状腺ホルモン減少による代謝低下が原因であるが、軽症例では頻度は高くなく、アトピー性皮膚炎でもみられるなど特異性は低い。
⑥フランク徴候(図)
 フランク徴候は、耳珠切痕下方から耳介外側に伸びた耳垂表面の皺を指し、冠動脈疾患の発症に関連したサインであるとされる。
⑦ハンター舌炎(図)
 ハンター舌炎は、ビタミンB12欠乏症によって起こる舌の炎症で、同疾患の70%にみられる。舌乳頭が萎縮して平坦化し、発赤する。舌が痛んだり、味覚障害を伴うことがある。
 ハンター舌炎は貧血に至らない時期のビタミンB12欠乏症でもみられることから、上記のような症状がある患者は、貧血がなくても大球性赤血球とビタミンB12減少がみられたら、補充療法を考慮すべきである。
⑧巨舌の鑑別診断
 巨舌症とは、舌が何らかの原因によって異常に肥大したものである。比較的多くみられる背景病態としては、甲状腺機能低下症、ダウン症候群、血管腫、リンパ管腫がある。また、頻度は下がるが、先端巨大症、アミロイドーシスでも認められる。
⑨歯肉腫脹/歯肉増殖症の鑑別診断
 歯肉腫脹の最も多い原因は、炎症(歯槽膿漏、歯肉炎)と義歯不適合である。
 歯肉増殖症の主な原因は、①薬物、②全身疾患、③ホルモン異常等であるが、最も多いのは、薬物関連歯肉増殖症である。歯肉増殖症の原因薬物で頻度が高いのは、抗けいれん薬(フェニトインなど)、免疫抑制薬(シクロスポリン)、カルシウム拮抗薬である。ニフェジピンは7~8%と頻度が高いが、アムロジピンは1%でそれほど多くない。歯肉増殖症を惹起する全身疾患として単球性白血病がある。
⑩ミリアン徴候
 ミリアン徴候とは、顔面の丹毒と蜂窩織炎の鑑別に用いる徴候で、耳介に紅斑が認められれば丹毒、認められなければ蜂窩織炎とするものである。これは、耳介は真皮が薄く皮下脂肪組織を欠くため、表皮基底層から真皮表層が病変の丹毒は耳介に波及するが、真皮深層から皮下脂肪組織が病変の蜂窩織炎は耳介に波及できないためである。
⑪左鎖骨上窩リンパ節腫脹
 左鎖骨上窩リンパ節腫脹は、「ウィルヒョウリンパ節」が有名であるが、実は基礎疾患の頻度としては、半数は良性疾患である。また、腹腔内腫瘍に限らず、乳癌、肺癌のリンパ節転移や悪性リンパ腫がみられることもある。
⑫匙状爪
 手の爪の陥凹病変は、匙状爪と呼ばれ、鉄欠乏性貧血の所見としてあまりに有名であるが、鉄欠乏性貧血で匙状爪をみることは意外に少なく、日本人においては5.4%に過ぎないという報告があり、診断的価値は低い。
⑬テリー爪とリンジー爪(図)
 テリー爪とは、爪床の半月部がせり出し、爪の大部分が白く、先端部分のみが正常なピンク色を呈する爪の異常をいう。重症の肝硬変患者に認められる所見として報告されたが、腎疾患、心不全等でも認められる。一方、半分程度が白い状態はリンジー爪といい、慢性腎疾患と関連しているとされる。
⑭ヘバーデン結節/ブシャール結節(図)
 ヘバーデン結節とは、手指のDIP関節にできる結節で、関節の腫れだけでなく、痛み、しびれ、変形をきたすものである。同様のものがPIP関節に起こるものをブシャール結節という。40歳代以降の更年期の女性に多い。関節リウマチに類似し、誤認されるので要注意。
 上記のほか、酒 、口腔内咽頭部カンジダ症、上大静脈症候群、ばち指、肝硬変症にみられる手掌紅斑、マルファン症候群、肢端紅痛症、手足口病、下肢静脈血栓症、低アルブミン血症による下腿浮腫、顕著な外反母趾による転倒のリスク、柑皮症、神経線維腫症Ⅰ型の視診上の注意点、Tips等について解説した。

(1月24日、第629回診療内容向上研究会より)



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