兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2026年8月05日(2139号) ピックアップニュース

[特別インタビュー] 救急医療を守り、地域医療をどう支えるか
-淡路島の医療の現状とこれからを聞く-
県立淡路医療センター院長 久島 健之先生

2139_03.jpg

【くしま たけゆき】1986年神戸大学医学部卒業、1993年同大学大学院博士課程修了。県立西宮病院、県立成人病センターなどを経て、1993年より県立淡路病院に勤務。県立淡路医療センター副院長、診療部放射線治療科部長・放射線診断科部長を歴任し、2026年4月より現職。専門は放射線腫瘍学、放射線診断学

 人口減少や高齢化が進む淡路島では、救急医療を担う基幹病院の経営危機や医師・看護師不足、診療所の後継者不足など、地域医療の維持が課題となっている。在宅医療や介護、レスパイト入院への需要が高まる中、急性期病院と地域の医療機関はどう役割分担し、地域医療を守るのか。兵庫県立淡路医療センターの久島健之院長に、西山裕康理事長、高田裕淡路支部長(洲本市・たかたクリニック院長)、松井祥治理事(順心淡路病院院長)が、淡路島の地域医療の現状と課題、展望について聞いた。

変わる医療需要と病床の未来
 西山 平素は協会の活動にご理解いただき感謝申し上げます。まずは、このセンターが担っている医療の特色についてお話しいただけますでしょうか。
 久島 当院は淡路島唯一の急性期総合医療を担う基幹病院で、地域唯一の災害拠点病院として南海トラフ地震等にも備えています。また、研修医や看護師、コメディカルなどの人材育成も担っています。救急医療では年間7000~8000人が救命救急センターを受診し、救急車も約4000件受け入れています。島内10病院の中でも応需率は99%を超えています。
 高田 人口は減る一方ですが、高齢者はあまり減っていませんね。
 久島 淡路圏域の外来患者数はすでにピークを超え、入院患者数も2025~2026年頃をピークに減少する見通しです。高齢化率は高いものの、急性期医療の需要に直結するわけではなく、今後は介護や在宅医療のニーズが高まると思います。
 高田 介護の担い手や在宅ケアの基盤が不足し、社会的入院に頼らざるを得ない状況もあります。しかし、病院側が急性期以外の患者を受け入れると経営は厳しくなります。
 久島 当院は原則としてレスパイト入院を受け入れておらず、後方支援や回復期病院にお願いしています。ただ、将来的には当院のような病院でも受け入れる必要が出てくると思います。「回復期」が「包括期」に変わる新たな地域医療構想の中で、急性期病院も包括期の初期部分を担う可能性があります。
 高田 在宅で人工呼吸器や胃ろうを使用する重症患者さんを支える家族のためにも、レスパイトのニーズは確実に増えます。受け入れ先が少ないのが現状です。
 松井 当院(順心淡路病院)には空床があります。淡路では高齢夫婦世帯や独居など、在宅だけでは支えきれない家庭が多く、医療を提供できる療養病床のニーズは増えていくと思います。
 西山 地域全体で病床をどう活用するかが課題となる中、医療センターの病床稼働率はいかがですか。
 久島 現在は441床のうち80床ほど空きがあり、稼働率は80%台です。人口減少や受療行動の変化で患者数は減っていますが、救急受け入れには病床の余力も必要です。一方、経営上はベッドを埋める必要があり、難しさがあります。淡路島では6~7月に患者数が減る季節的要因もあります。昨年は島内の病院も一様に稼働率が低かったようです。患者さんが少ないのは皆さんが健康な証拠ですが、病院経営としては厳しいですね。
2139_04.jpg

聞き手
西山 裕康 理事長

2139_05.jpg

聞き手
高田 裕 淡路支部長

2139_06.jpg

聞き手
松井 祥治 理事

基幹病院を維持するための公的支援
 西山 病院の経営改善に向けては、どのような方策を取られていますか。
 久島 診療報酬改定の際に、取得可能な施設基準は確実に届出し算定するように努めています。一方、経費削減はメーカーの値上げもあり難航しています。手術材料の購入価格が診療報酬の評価額を上回り、手術の際に持ち出しになるケースもあります。診療報酬は公定価格で、価格変更できず、それ以外の改善策は限られています。
 松井 ほとんどの公立病院は経営的に非常に厳しい状況ですね。
 久島 普通に経営していれば赤字になる状況です。兵庫県立の10病院もほとんどが赤字で、病院経営は本当に厳しいです。公立病院には不採算部門を維持する役割があります。患者数が減っても小児科の当直体制を365日確保し、24時間救急を守らなければなりません。その影響を受け、当院では今年、1000万円以上の機器更新がすべて中止されている状況です。
 西山 必要な設備投資を通常の診療報酬だけで賄うのは限界があります。国や県は別枠の公的資金を投入すべきです。貴院が機能しなくなれば、地域医療の崩壊に直結します。
 久島 この基幹病院を維持するため、公的支援の必要性を訴え続けたいです。
地域医療を支える人材の確保
 西山 看護師等の人材確保はいかがですか。
 久島 完全な売り手市場で人が集まらず、派遣によっても確保できません。民間の時給が1200~1300円と上昇し、当院の給与規定では太刀打ちできません。収入は公定価格で決まる一方、医療物価はこの数年で20%以上上昇し、人件費も増えています。今回の診療報酬改定の3%程度の引き上げでは到底追いつきません。
 松井 約30年前から医師の当直料や外来スポット勤務の給与もほとんど上がっていません。島外から来てもらう医師には、高い交通費を上乗せして支払う必要があります。
 西山 勤務医の確保はいかがですか。
 久島 決して万全ではありません。診療科の偏在もあり、外科医不足に加え、眼科外来は休診、形成外科も来年から非常勤医師による診療体制になります。眼科や形成外科などは経験を積むと開業する医師が多く、総合病院に長く勤務する人が少ないことも要因です。
働きがいのある病院づくり
 高田 センターが「働きがいのある病院」として全国上位に選ばれたと拝見しました。特徴を教えてください。
 久島 夜勤明けの当日はもちろん、翌日も確実に休むなど、長時間労働をさせない働き方改革を進めています。
 松井 その分、医師の数を増やす必要があり、人件費も上がりますね。
 久島 その通りですが、無理な働き方をさせず、休暇が取れる環境こそ本来の姿です。若い医療者にとって、適正な給与と十分な休息を得ながら成長できることが働きがいにつながります。一人のスーパードクターに依存するより、標準以上の医師が多数在籍し、組織として機能する病院の方が強いと考えています。
 高田 ICTやAIを活用した業務効率化についてはいかがですか。
 久島 バイタルデータを電子カルテに自動送信するなどICTは業務効率化に有効です。また、子育て中の女性医師が自宅で読影できる在宅読影も長年運用しています。
 松井 AIは病変を拾いすぎることはありませんか。
 久島 あります。疑わしいものをすべてマークするため、医師のダブルチェックが必要となり、かえって仕事が増える面もあります。最終的な判断と責任は医師にあります。
 高田 開業医もAIを診断補助に使いますが、最終判断は医師です。年配の医師が多く、電子カルテの普及も5~6割程度で、デジタル化が課題です。
診療所不足と地域定住の課題
 松井 島内のクリニックの新規開業はこの10年でも2~3件程度と少なく、開業医の高齢化と後継者不足も心配です。
 高田 淡路3市には診療所が約140施設ありますが、閉院や診療時間の短縮が増えれば、一次医療の維持が難しくなります。
 松井 南あわじ市では診療所が少なく、小児科も実質1軒だけです。
 久島 小児科がなければ子どもを産み育てる環境になりません。行政とも相談し、当院から診療所へ小児科医を派遣することも考えています。補助金などの支援があれば、経営を悪化させず一次医療の充実に貢献できます。安定した雇用に加え、医療、教育、介護が充実しなければ定住者は増えません。
 高田 地域医療を守るうえで、開業医の先生方との連携をどのようにお考えですか。
 久島 急性期病院にはできない「全人的な医療」を、開業医の先生方が担ってくださっています。在宅や施設で穏やかに最期を迎える方が増えているのも、診療所の先生方やスタッフの支えがあってこそです。開業医の先生方からいただく情報は、当院にとっても大変勉強になります。医療は日々進歩していますので、お互いに情報を共有し、疑問があればいつでも気軽に相談していただける関係を築いていきたいと思います。
保険医協会と若い医師を支える
 高田 先生は個人として協会にご入会いただき、共済をご利用になられていますね。ありがとうございます。
 久島 はい。お世話になっております。
 高田 協会では医師のための多彩な共済制度をご用意しており、医師に向けたライフプランや資産形成のセミナーも開催しています。以前にセンターでも開催させていただきました。
 久島 若い医師の関心に応えるためにも、ぜひまた当院でライフプランセミナーを企画したいですね。
 西山 本日は貴重なお話をありがとうございました。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方