2026年8月05日(2139号) ピックアップニュース
インタビュー 医療的ケア児・者 支援の輪を広げよう
垂水区・あいはら子どもクリニック 相原 浩輝先生
【あいはら ひろあき】1986年福岡大学医学部卒業、神戸大学医学部小児科、神戸大学大学院博士課程修了、高槻病院、豊岡病院、甲南・六甲アイランド病院で勤務後、2000年開業
ケアする家族を支える制度の充実が急務
相原 医療の進歩、ご家族の希望、NICUの不足による空床確保の必要性などを受け、医療的ケア児は増えつづけ、現在、全国で約2万人いると言われています。日常的な家族のケアが前提となっており、ご家族は、3時間おきの吸引や栄養注入などのケアを24時間続けておられ、大きな負担となっています。
患者や医療関係者の声を受けて、5年前の2021年、「医療的ケア児支援法」が議員立法で成立しました。自治体が医療的ケア児が健やかに過ごせる責務を負うことになり、各自治体があわてて対策をとり始めているところです。
森岡 小児科医として私も40年前から医療的ケア児には関わってきましたが、家族の負担は深刻で、改善されているように思えません。
相原 はい、神戸市医師会が2年前に特別委員会を作り、担当理事を拝命したことを受け、患者・家族のお話を伺い、多くの課題を認識できるようになりました。特に大きな課題は、家族の相談先がわかりにくいこと、家族の休息のためのレスパイトケアに対応してくれる施設が不足していることです。
聞き手
宮武 博明副理事長 森岡 芳雄副理事長
宮武 相談先というのはどういうことでしょうか。
相原 子どもが病院を退院した後は、主に病院の主治医と家族、自治体の保健師が相談しながら医療的ケアを行います。しかしながら地域で安心して暮らしていくためには、医療と同時に、福祉や教育の支援者ともつながり、適切な支援が受けられるようにしなければいけません。利用できる制度は医療・福祉・教育の多領域にまたがっており、しかも小児は成長につれて受けられる制度や根拠法が変わっていき複雑なのですが、相談窓口もわかりにくく、医療的ケア児に特化してサポートする体制がありません。国は医療的ケア児コーディネーターという制度を作り、各自治体が養成を担うこととなっており、神戸市内では推定で250人ほどが登録されています。しかし、市は誰がどの施設にいるのかさえ把握しておらず、おそらくほとんどの方が、訪問看護師などとの兼務でコーディネーターとして実働できていないと思われます。
神戸市の委託施設である医療的ケア児の支援センター「神戸医療福祉センターにこにこハウス」でも、人員不足で直接患者家族からの相談を受け付ける体制が確保されていません。家族が地域で相談できる場が必要です。
医療費抑制のもと増えないレスパイト入院施設
森岡 県や神戸市は医療的ケア児のレスパイト入院を受け入れる医療機関への補助を行っていますが、実施する医療機関は多くありません。相原 はい、県内でレスパイト入院を受け入れているのは5病院のみです。どこも経営状況が厳しいなか、受け入れが難しいのが現状です。
森岡 私の病院でも病床使用率を95%以上にしないと経営が維持できないような状態で、医療的ケア児どころか、小児の入院そのものを受け入れる体制はすでになくなっています。それでも、政府は医療費抑制を続け、さらに病床削減、医師数抑制を実施しようとしています。
相原 高齢者が増えてまだまだ医療需要が増えていくなか医師数を減らし、医療費を増やさないというのは、大変な逆風です。
医療的ケア児を抱える親御さんたちは身を粉にしてケアをがんばっておられますが、閉塞感を抱えておられます。姫路では親御さんが外出中に、子どもが痰を詰まらせて亡くなるという痛ましい事故が起こっています。
このような状況のなか、神戸市は今年7月から「在宅レスパイト支援事業」を開始しました。訪問看護を月8時間、年間96時間分まで1時間800円の自己負担で受けられ、訪問看護ステーションには1時間8000円の補助を行うという内容です。ただ、実際どのくらい対応できるステーションがあるのか、これから見ていく必要があると思っています。
宮武 先生の努力があって、厳しいながらも制度は改善しているのですね。
相原 いえ、わたくしは以前から支援を続けている委員会の先生方のご意見を行政にお伝えしているだけです。ただ、他の自治体を見れば、もっと進んでいる自治体もあります。例えば福岡市は、在宅レスパイトを自己負担なしで年間300時間以上可能です。神戸市は要望して何とか96時間となりましたが、自己負担も壁になります。
森岡 子どもの医療費も支援制度も無料で使えるようにすべきですね。
多科の在宅の輪広げよう
森岡 医療的ケア児に対しては、日常的な管理をする医療機関と、緊急時に診る医療機関との役割分担が必要と思います。相原 市医師会の委員会でアンケートをとったところ、「小児の訪問診療が可能」と回答した医療機関が30件ありました。これらの医療機関に中心になっていただけたらと思います。
小児科の先生方からは、在宅に慣れていないし、昼間は予防接種と専門外来とで忙しく時間がとれないとの声をよく聞きます。その事情はよく理解できますが、点数的な評価も一定ついてきており、医療的ケア児と家族のために在宅医療に踏み込んでほしいです。私自身、2年前に訪問看護ステーションから依頼され、初めて在宅人工呼吸器の患者を受け持ち、その子から多くのことを勉強させてもらいました。同じように、小児科医が一人ずつ在宅患者を持てば、意識が変わると思います。
また、小児科だけでなく、総合診療科、さらに歯科、泌尿器科や耳鼻咽喉科、眼科など人工呼吸器の患者さんは多科で診る必要があります。在宅の輪で医療的ケア児を支え、彼らが安心して過ごせ、生き生きと生活できる地域を作っていかなければと思っています。
宮武 小児科だけの問題ではないんですね。
相原 ええ、それに加えて移行期の問題もあります。以前は成人を迎えることが難しかった子どもたちが、医療技術の進歩によって成人できるようになってきましたが、県立こども病院が診る患者は18歳、最大20歳までです。医療的ケア児をその後どこで診るのか。内科は専門が細分化していて、診てくれる先生を探すのが難しいです。
宮武 確かに、診るとなると非常に大変です。
相原 はい、地域の内科の先生方に診ていただけるよう医療情報を地域の医療機関で共有できるようなシステムが、移行期問題を解決するためには必要と感じています。
顔の見える関係つくり地域で連携広げる
森岡 医療関係者だけでなく、教育や福祉などとの連携も重要です。相原 いま神戸市では、医療的ケア児178人が通院・通学していますが一番問題と感じるのは登下校のサポートです。特別支援学校の下校時にはサポートがありますが、登校は親が介護タクシーなどを利用しなければならず、仕事が続けられません。送り迎えとも実施している自治体があり、神戸市には何年も要請しているのに、実現していません。
災害時の対応も大きな課題です。個別避難マニュアル作成、発災後、電源確保ができている受け入れ可能な福祉避難所・病院の不足など対応がまだまだ追い付いていません。南海トラフ地震のような広域災害に備えなければなりません。医療的ケア児・者に対する認知が地域で広がっていない状況では対応は困難と思い、垂水区では、医師会がリードして区内訪問看護ステーションと連携を進め、区内の受け持ち症例報告を持ち寄って、医療的ケア児・者をマッピングできるような準備をしています。
宮武 すばらしい取り組みですね。
相原 災害時対応を含めて、どの課題も専門病院と患者さんだけの関係ではどうにもなりません。地域で対応できるように医療機関・訪問看護ステーション・福祉・学校関係者などの支援者が横でつながる、顔の見える連携づくりを一生懸命進めているところです。
一般の方も含めこの問題を広く知っていただきたいと、看護学校での講義や市民フォーラムなども行っています。今後は保険医協会の力もお借りしたいと思っています。
宮武 少しでもお力になれたらと思います。今回のインタビューでは伺ったお話すべてを紹介するには紙面が足りませんでしたが、10月には研究会を開催し、詳しくお話をいただきます(下)。多くの先生方、医療関係者の方々のご参加をお待ちしております。
神戸支部第47回総会・記念講演 地域医療部共催
会 場 協会会議室&オンライン
講 師 あいはら子どもクリニック 相原 浩輝先生
お申し込み・お問い合わせは、電話 078―393―1807 まで
医療的ケア児の現状と課題(仮)
日 時 10月17日(土)15時~会 場 協会会議室&オンライン
講 師 あいはら子どもクリニック 相原 浩輝先生
お申し込み・お問い合わせは、電話 078―393―1807 まで



