兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2026年9月25日(2143号) ピックアップニュース

国際部特別インタビュー 「多言語センターFACIL」
共に暮らしていくために 公的な医療通訳制度の構築を

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多言語センターFACIL理事長 
李 裕美

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多言語センターFACIL事務局長
山口 まどか

多言語センターFACIL(ファシル)
1999年設立、2006年NPO法人化。阪神・淡路大震災で被災した外国人の翻訳サポートをきっかけに活動を開始。地域住民である外国人が必要とする情報の翻訳、医療など生活現場で必要な通訳者の派遣など、依頼者と翻訳・通訳者を繋げるコーディネートを担う。通訳・翻訳者の登録人数は2100人以上(2026年現在)。

 外国人住民が増加する中、命や健康に関わる医療現場でのコミュニケーションはどうなっているのか。神戸市長田区でさまざまな言語の翻訳・通訳の他、医療通訳のコーディネートを務める「多言語センターFACIL」の李裕美理事長と山口まどか事務局長を、水間美宏理事(国際部長)がインタビューした。

震災時の支援から始まった「コミュニティビジネス」
 水間 先日は移民をテーマにした国際部の研究会にご参加ありがとうございました。それをきっかけに今回インタビューさせていただくこととなりましたが、まずFACILはどんな団体なのか教えてください。
 李 ここ長田区は在日コリアンやインドシナ難民の他、1990年の入管法改正以降は中南米からの日系人の方がたくさん住んでいました。日本語が堪能ではない方も多く、言語や文化・習慣の違いに戸惑いを持ちながら暮らしている時に、1995年1月の阪神・淡路大震災が起きました。
 FACILはカトリックたかとり教会の敷地内にあります。この教会は震災時は救援基地として場所を提供し、がれき除去や炊き出しボランティアなどの拠点として多くの方が集まる場になりました。
 水間 被災された外国の方は言語の壁もあり大変でしたでしょうね。
 李 今と違って災害情報や支援情報は日本語のみでしたから、いろいろなボランティアグループが、例えば仮設住宅申込の情報を翻訳し避難所を回る活動や、コミュニティラジオでベトナム語、タガログ語、スペイン語などで情報を流すなど、多言語での情報提供を続けてきました。
 また、公的な支援を受けるためには身分証明書が必要ですが被災した外国人の中にはパスポートが焼けてしまった人もいました。大使館で証明書を発行してもらいますが、日本語に翻訳しなければ申請できません。
 設立者の吉富志津代はもともと在神戸アルゼンチン領事館などで働いていたこともあり、スペイン語の証明書の翻訳をボランティアで引き受けていました。しかし、夜など空き時間に翻訳作業をする日々で「自分が倒れたらどうすれば?」という思いがあり、ボランティアではなく依頼者から適正な費用をもらうシステムができれば持続可能なのではないかと考えたそうです。
 水間 誰かのためという思いがあっても無償ボランティアだけでは限界がありますね。
 李 はい。コミュニティビジネスというのですが、地域の課題をその地域の人の力を活かしてビジネスとして解決する事業として1999年にFACILを立ち上げ、2006年にNPO法人登記し、依頼者と翻訳者を繋げるコーディネーターとしての役割を担ってきました。民間の助成金などを受けながら、なんとか運営を続けてきました。
 個人の証明書等の翻訳は1枚3500円という値段設定で多くの方に利用いただくようになり、そこから翻訳や通訳を中心としたコーディネート事業として発展、今では82言語に対応しています。
 水間 その翻訳料だけだと、専門職として食べていくのは難しそうですが。 2143_03.jpg

聞き手 水間 美宏国際部長


 山口 震災後のボランティアから出発したこともあり、一般的な翻訳会社より価格は低いです。NPOだから価格も質も低いと思われてきましたが、プロの方が行うので質で劣るわけではありません。
 ただ、この後お話しする医療通訳もそうですが、プロとしての仕事ならもっと高報酬です。実態は有償ボランティアとも言えますが「自分自身も言語で苦労してきたから恩返しのつもりで」と引き受けてくださいます。
 また、私たちはNPO法人ですので、収益は分配せず社会貢献事業に還元することが求められており、医療通訳のコーディネートはその具体的な取り組みの一つです。
医療通訳のニーズを可視化
 水間 私も通訳者を挟んだ診療経験はあまりないのですが、医療通訳を提供する団体や会社は少ないそうですね。
 李 そうなんです。医療は身体や人生に大きくかかわるため責任の問題でなかなか広がりませんでした。
 一方で、日常生活では日本語のやり取りに支障がない方でも、病院での説明は専門用語も使いますから通訳者に来てもらって、正確に知りたい、伝えたいというニーズがあることは私たちの調査でも分かっていました。
 しかし一般的な通訳会社に依頼すると半日数万円かかるので、毎回依頼するわけにはいきません。通訳者がいなければどうしているかというと、「わかったふり」をしてしまっているんですね。
 患者の子どもが同席して通訳をするケースもありますが、医学的知識の不足だけでなく、親に病名を伝えることが心理的負担になる問題もあります。
 水間 適切な治療が受けられていない可能性があるのですね。
 李 身体のことですからきちんと理解することが必要ですよね。そこで医療通訳のニーズを可視化していくことが重要だと考え、通訳者がいると病院にとってもメリットがあると感じてもらおうと病院への同行1回あたり、患者さんから1500円、FACILが毎年助成金を獲得し、そこから3500円を負担して通訳者に5000円の報酬を支払うという仕組みを作りました。
 本来の通訳ならもっと高額ですから、ここでも通訳者の協力と理解が欠かせません。
 山口 自治体にも医療通訳の必要性を呼びかけていたことが実り、神戸市との協働で神戸市民病院機構傘下の3病院が協定病院となり、それまでFACILが負担していた3500円を病院が負担するモデル事業を実施することになったのです。
 ただ現場は懐疑的だったようです。患者さんは「わかったふり」をしてしまっているのですから病院としては「言語で困ってない」という認識だったのでしょう。
 2011年の利用は5件でしたが、年を追うごとに増え3年目には80件を超えました。当初は3年だけという話だったのですが、延長が決まり「やめないでくださいね」とまで言われるようになったんです。
 治療がうまくいかなかった糖尿病の患者さんが医療通訳を通して食事制限の指導内容を理解できたという事例もあり、医療通訳をメリットとして実感したのだと思います。
 李 年々協定病院も増え、2017年には年間1000件を超え、私たちのコーディネートも大変になってきました。本来翻訳・通訳を中心とした事業なので、それが回らなくなってきては困ります。
 そこで民間企業と協力し遠隔での医療通訳も進めてきました。医療機関側に用意したタブレットを操作するだけで簡単に通訳者に繋がります。新型コロナ流行期に多く活用され、今では同行とオンラインは同数くらいです。
医療通訳の「インフラ化」を
 水間 医療通訳に積極的な医療機関はどれくらいあるのでしょうか。
 山口 医療通訳の協定を結んでいる病院は現在10病院で、より多くの人が利用できるようさらに増やしていきたいと考えていますが...私たちのようなNPOや企業の努力だけでは限界があります。私たちは利益を出したいのではなく医療通訳というインフラを作りたいと思っています。
 診療1回あたり医療機関側が3500円を負担することは、大きな病院だから可能なことで開業医の先生方にはハードルが高いですよね。ですから国が環境や制度を整備してほしいのです。
 外国人労働者が多い市立加西病院では、多文化共生社会をめざすという考えのもと、国籍にかかわらず、すべての患者の通訳料無料(=市が負担)の医療通訳を提供しています。神奈川県では予算をつけ、医療通訳コーディネートを支えています。
 李 私たちの目標は医療通訳が医療保険に適用されることです。ぜひ医師・歯科医師のみなさんに医療通訳の重要性を知っていただき、公的な制度とするよう声をあげていただきたいと思います。
 水間 そうですね。誰もが安心して医療にかかれる制度を作るためにともに頑張りましょう。今日はありがとうございました。
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