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学術・研究

歯科2010.11.05 講演

自家歯牙移植(智歯)の臨床的検討
[第18回日常診療経験交流会演題より]

三田市・大槻歯科医院 大槻 榮人
(共同研究 奈良県立医科大学口腔外科学講座、大阪歯科大学高齢者歯科学講座)

はじめに

 永久歯は一度喪失しますと、その欠損を補綴しなければなりません。ブリッジや有床義歯などさまざまな方法がありますが、近年歯科インプラントが広く普及してきました。インプラントは、成功率が高くなってきており、予知性の高い方法です。しかし、インプラントはあくまでも人工物であり、歯根膜を有する天然歯には、及びません。
 一方、患者自身の歯を移植する自家歯牙移植は、元の歯と同様の機能が得られ、成功率も高く、有用な方法であると考えられます。
 今回、抜歯されることの多い智歯を大臼歯部に自家移植した例について、臨床的検討を行ったので報告します。

当院での智歯移植症例

 表は、当院で行った智歯移植症例の一覧です。
 患者の平均年齢は21.0歳で、これはドナーとなる歯は、歯根未完成歯のほうが成功率が高いことによるものです。患者は全員女性で、ドナーは、下顎の8番が6症例、上顎の8番が3症例です。歯根未完成歯が5症例、歯根完成歯が4症例です。
 受容側は、抜歯した側と同じ側の6番がもっとも多く5症例、同側の7番が3症例でした。受容側は、7症例が残根状態で根尖病巣が4症例に認められました。
 移植後の固定方法は、縫合糸のみが6症例、ワイヤーとレジンによる固定は3症例でした。移植後の観察期間は平均14.8カ月でした。全症例とも移植歯の生着状況は良好で、レントゲン上、歯根膜腔が認められましたが、歯根の一部に周囲骨との癒着が認められたものが4症例ありました。

症例1(図1~5)

 患者は22歳女性で、左下6番の充填物脱落を主訴に来院しました。症状はありませんでしたが、残根状態でした。同側に8番がありましたので、8番を6番に移植することにしました(図1)。
 通法どおり6番を抜歯し、同時に8番を6番の抜歯窩に移植し、縫合糸で7日間固定しました。移植した8番は、歯根がほぼ完成していました(図2)。
 術後2カ月と3カ月のデンタルです。この時点では、移植した歯に根管治療を行っておりませんが、臨床症状はなく、周囲骨との癒着や炎症所見は認められませんでした(図3)。
 しかし、術後5カ月時に、咬合面う蝕と根尖の透過像を認め、感染根管治療と咬合面のレジン充填を行いました(図4)。
 歯根完成歯は、歯髄の治癒が期待できないので移植後2週間で根管治療をはじめ、2カ月後根充する必要があると言われています。本症例は、移植後約5カ月で、感染根管治療を行いましたが、歯根完成歯の移植では、移植後早期に根管治療を行う必要があると思われます。

症例2(図6~9)

 症例1と同様に、左下8を左下6に移植した例です。本症例では、左下6番の根尖病巣が認められたため、同歯の抜歯を先に行い、抜歯窩の治癒を待ってから移植を行うことにしました。
 図6下段は、抜歯前のパノラマ写真、上段は抜歯1カ月後の口腔内写真です。
 この症例も、左下8番を抜歯し、6番の抜歯窩に移植しました。6番の抜歯窩は、すでに閉鎖しており、8番を受け入れるために抜歯窩を一部削合しました。また、移植した8番は、ワイヤーとスーパーボンドで21日間固定しました(図7)。
 移植後2カ月で、感染根管治療および根充を行い、9カ月後に歯冠補綴しました。9カ月時のデンタルでは、歯槽硬線が認められます(図8)。
 図9は、術後1年9カ月のデンタルとパノラマです。
 移植した歯は動揺なく、臨床症状は認められませんでした。受容部に感染病巣がある場合、あらかじめ原因歯を抜歯し、抜歯窩の感染病巣を治癒させてから移植を行うことが、良好な結果が得られると思われます。
 デンタルでは、移植歯の遠心根に一部周囲骨との癒着が認められました。これは、固定に縫合糸ではなくワイヤーとレジンのような比較的強固な固定を行ったこと、固定期間が長かったことが原因ではないかと思われます。

症例3(図10~12)

 右上の8番を左の6番に移植した症例です。受容側の6番は、歯根破折しており根尖病巣が認められました。そこで、6番を抜歯し、反対側の8番を移植することにしました。ドナーの8番は、歯根未完成歯でした。
 6番を抜歯し、同時に8番を6番の抜歯窩に移植、縫合糸で6日間固定しました(図10)。
 図11は、術後3カ月のデンタル、術後6カ月の口腔内写真です。いずれも移植した歯は動揺なく、臨床症状は認められませんでした。
 移植した智歯は、歯根未完成歯でしたので根管治療を行っておりませんが、術後5カ月を経て、生着状況は良好です(図12)。

考察とまとめ

 以上のように、抜歯した大臼歯部に智歯を自家移植し、良好な結果を得ることができました。
 自家移植は、古くからある方法で保険でも認められております。これまで自家移植の予後が必ずしもよくないため、インプラントの方が予知性が高く、確実であるという意見があります。
 ところが自家移植は、インプラントにはない歯根膜を有し、元の歯と同様な機能を与えることができます。また、インプラントに比べ患者の経済的負担が少ないのも利点です。
 歯根完成よりも未完成歯のほうが成功率が高く、ドナー歯の歯根膜をできるだけ傷つけないなど、基本的な手技を守れば、移植の成功率は高いといえます。とくに、歯根未完成歯を有する患者では、自家歯牙移植の有用性は高いことが示唆されました。

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