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学術・研究

歯科2012.12.05 講演

歯科定例研究会より 明日の臨床に活かせるエンドの知識とテクニック~エンド専門医の診断と治療~

東京都・吉岡デンタルオフィス  吉岡 隆知先生講演

はじめに
 歯内療法の症例の多くは、基本原則を遵守して無菌的処置を実行すれば、問題なく治療が完了する。しかし、中には痛みがとれない、瘻孔が消失しないなど、治療の効果が得られない難治症例が、少なからず存在する。
 難治症例は、診断も治療もきわめて困難であるため、歯科医師の悩みの種となる。その原因はさまざまで、未発見の根管の存在、垂直性歯根破折、歯根吸収、側枝による歯周炎などが関与している。
 症状が消失しない原因が歯根破折であれば、抜歯を考慮しなければならなくなる。難治症例の原因を早期に見極めるのはとても難しいことであるが、適切に対応できれば、たとえ抜歯となっても患者の信頼を得られるであろう。
 歯内療法の難しさを解決するために、最新器材はいつも注目される。中でも、歯科用顕微鏡、および歯科用CT(CBCT)は診断に大変有効である。
 いずれも高価なため利用しづらいという声も聞こえてくるが、現在ではこれらを利用したデータもずいぶん蓄積されている。従来の検査・診断技術ではわからなかった歯内療法に関わる疾患の原因が、徐々に明らかにされている。
 新しい器材を導入することは、治療成績の向上につながるのであろうか。中には、新しい器材なんか使わなくても治るよ、と実感しているベテランの先生もいらっしゃるのではないだろうか。
 これまでの研究報告によると、アメリカの歯内療法専門医の治療成功率(本稿では歯の生存率の意味)はGP(一般の歯科医師)の成功率よりは有意に高い。しかし専門医であれば、昔教育を受けた通りのままのやり方でやっても、最新の器材を使ってやっても、治療した歯の成功率に差はない。
 歯科用顕微鏡を使用しない場合、再根管治療や歯根端切除手術が必要になったりする。しかし、歯科用顕微鏡を使用して再発した場合には、即抜歯になることがある。根管探索などをやり尽くしているためか、再根管治療を行う余地があまりないためと考えられる。
 新しい器材は、治療の効率化や術者の疲労軽減につながるかもしれない。しかし、治療成績の向上にはなかなかつながらないのである。要するに、正しい歯内療法の知識がベースにあれば、どのような器材を使用すれば良いかとか、どの方法が良いかということは、結果に大きな影響を与えない。
根管形成
 根管清掃・形成は、根管内の汚れを除去して、根管を根管充填できる形態に整えていく作業である。ステップバック法は卒前教育で教えられる基本術式で、細いファイルを根尖まで挿入し、順次挿入ファイルを太くして根尖孔を拡大しすぎずに、テーパーをつけて根管を広げていく方法である。
 これに対して、根管上部を太いファイルで拡大して順次細いファイルを根管内に挿入していく方法がある。クラウンダウン法である。正式にはCrown-down pressureless techniqueという。ゲーツグリッデンドリルと、手用Kファイルを使用する。
 クラウンダウン法では、根管内でファイル先端のみが根管壁を切削する。無理な力をかけないように操作するので、ファイル破折の恐れは少ない。湾曲根管でも、レッジを作るほどの大きな力をかけないで器具操作を行う。
 根管上部を広げていき、根尖孔に到達するファイルは、根尖孔に近いサイズのファイルとなる。ステップバック法よりも、根尖孔のサイズを正確に見積もることができる。使用するファイルも少なくてすみ、合理的な根管形成が可能となる。
根管洗浄
 通常の根管治療の中で、根管洗浄が注目されている。根管洗浄では、次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)のような、軟組織に触れると強い為害作用のある溶液を使用するため、洗浄液の溢出が問題となる。
 根尖部の解剖学的形態は複雑かつ狭小なため、細いニードルの使用、あるいは超音波装置の使用でも洗浄液は根尖部へ到達しにくい。根尖部を十分に洗浄するためには、根管洗浄用ニードルをできるだけ根尖付近まで挿入すべきであるが、相反的に洗浄液が根尖孔外へ溢出しやすくなる。NaClOのような溶液が溢出すると、根尖歯周組織を傷害し、気腫を発症することも珍しくない。
 われわれは、根管治療時に安全に根管根尖部を洗浄するため、洗浄液が根尖孔外に溢出しにくい根管内吸引洗浄法(Irigation with Negative Pressure、INP法)を新たに開発した(図1)。
1705_17.jpg  これは、吸引用ニードルを根尖付近まで挿入して陰圧を生じさせ、根管上部から供給された洗浄液の根尖部への流入を促し、根管内で洗浄液の流れを作ることにより、吸引用ニードル先端から洗浄液を吸引する方法である。
 吸引用ニードルに電気的根管長測定用の電極をつなぎ、根管洗浄液の位置をモニターすることができる。また根管内吸引洗浄法により、根管内は陰圧に保たれ、洗浄液が根尖孔外から溢出することなく根尖部を洗浄することが可能となる。
 従来法での根管洗浄では、根尖部を洗浄しようとすると洗浄液が溢出し、溢出しないように洗浄すると根尖部はきれいにならなかった。
 細い根管でも根管内吸引洗浄法を実行できるように、2種類の吸引用ニードル(iNPニードル、iNP-40およびiNP-60、みくに工業)が開発されている。
 図2は、iNP-40の先端部の拡大写真である。iNPニードルは根管バキュームに装着して使用する。使いやすい長さに折り曲げ、根管内に挿入し、電気的根管長測定器のホルダーをつなぐ。別なニードル(洗浄用ニードル)で、洗浄液を根管内に滴下して供給する。洗浄液は、吸引量を超えた量を供給できないので、ゆっくりと丁寧な根管洗浄をすることができる。
 ラバーダムを用いた無菌的手技を守り、適切な根管形成を行っているにもかかわらず症状が消失しない場合、根拠なく無制限に根管を拡大したり根管貼薬に頼るのではなく、根管洗浄して経過観察するべきである。
1705_18.jpg
根管充填
 根管形成後の形態は、元々の根管形態に大きく依存する。根管上部のフレア形成をして、根管全体の凹凸を除去するのが根管形成で、根尖孔をむやみに広げてはいけない。
 そのために、形成後の根管はオリジナルの形態に応じた形態となる。その形態が細長い、上顎前歯のような形態の歯には側方加圧充填法が、扁平な上顎小臼歯のような形態には垂直加圧充填法が適している。
 根管充填法の選択は、形成された根管形態により選択されるべきである。
まとめ
 歯内療法は、周辺機器の開発と新しい治療コンセプトを両輪として進歩していく。進歩を享受してみると、必ずしも治療が容易になったとはいえず、治療上の問題点・困難性が明らかになり、より難しくなったと感じる。
 今後、歯内療法の新しい技術を利用するためには、歯内療法の基礎が十分に備わっている必要があろう。そのような意味では、誰でもができる診断法、治療法からはますます遠くなる。
 一般歯科医が手がけられる症例と、専門教育を受けた歯科医に依頼すべき症例の線引きは難しいが、欧米先進国のように役割分担が当たり前、という時代になるかもしれない。

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