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学術・研究

歯科2017.06.11 講演

歯科定例研究会より
「くすり・検査値」がわかれば全身が見える ㊤
おくすり手帳・血液検査データから全身状態を推知する

医療法人明和病院 歯科口腔外科 部長  末松 基生先生講演

 地域包括ケアの推進に伴い、様々な統計と予測データが公表されている。今後10年で肺炎死は急増するため、在宅で総合的な口腔管理を必要とする高齢者の潜在的歯科マーケットは急拡大し、2025年には医院へのウォークイン患者は2割減少するという。社会の歯科ニーズは従来の形態回復から機能改善(摂食嚥下)にパラダイムシフトするであろう。イノベーションの鍵は総合診療力と医科多職種との調整力である。地域包括ケアの中では歯科医師はチーム医療の一端を担わねばならない。医科歯科連携をスムーズに行う重要な共通言語が「医科処方薬」と「検査値」であり、講演では「おくすり手帳」「血液検査データ」から疾患を推知する独自の方法論について述べた。医科の薬は日進月歩であり、2年も経てば大きく変化するので、各自updateしていただきたい。後半では実例による演習と10年後の医科歯科連携シミュレーションを行った。
 まず、典型的生活習慣病患者に対する標準処方を表1に示す。なお、以下はあえて商品名を使用し、薬剤名末尾のGは特許切れで相当数が後発品に置換されている薬剤である。
 表1の手帳を見た場合は「高血圧症、高脂血症、糖尿病に加え脳梗塞リスクを抱えており、動脈硬化がある」と読む。引き続き「歯周病リスクが高く、応急的な抜歯に備えて血圧測定と、術後の止血材と縫合の準備が必要」というところまで診察以前に察知でき、スケーリングも出血に注意するよう事前に指示ができる。
A)降圧薬(表2)
 依然ARBがシェアのトップを占めている。また心房細動のエビデンスが整ったことでα/β遮断薬の処方が増加している。ARBとCCBは併用可能なことから先発メーカーの特許切れ対策として合剤が販売されシェアを伸ばしている。アイミクス(アバプロ(ARB)+アムロジン)、ミカムロ(ミカルディス+アムロジン)、レザルタス(オルメテック+カルブロック)など。
B)抗血栓薬(表3)
 国内では抗血小板薬は600万人、抗凝固薬は150万人に処方されている。ワーファリン以外の直接作用型抗凝固薬(DOAC)が50万人以上と見積もられている。プラビックスは2015年国内売上№3の薬剤であるが特許切れで、間もなく後発品クロピドグレルが台頭する。プラビックスは薬効個人差があるので、さらに改善されたエフィエントが今後処方される可能性がある。
 1)抗血小板薬:バイアスピリンのみの場合は脳梗塞予防目的であることが多く、プラビックスが同時に処方されている場合は大抵Dual antiplatelet therapy(DAPT)として、狭心症・心筋梗塞に対するカテーテル治療が過去に実施され、冠動脈ステントが留置されていることを意味する。これらの患者は循環動態が安定しており通常の歯科治療はむしろ安全と言える。表3には挙げていないエパデール、オパルモン(血管拡張薬)も止血を延長させるが臨床的には問題ない。
 2)抗凝固薬(表4):ワーファリンは主に心房細動由来の血栓による脳・心筋梗塞予防、あるいは深部静脈血栓症の治療に用いられているが、注意すべきは心臓血管外科手術後血栓予防目的投与の可能性である。特に人工弁置換術後においては感染性心内膜炎予防に留意する必要があり、術前抗菌薬投与を考慮せねばならない。
 DOACはビタミンK非依存性で効果発現が速く、半減期も短く使用しやすいことから急速に普及している。ワーファリンとは利点欠点が相反するためケースバイケースで使い分けられている。相互作用としてワーファリンはジスロマックとニューキノロン系抗菌薬、DOACはクラリス、また両者とも抗真菌薬で血中濃度が上昇して出血事故につながるため注意が必要である。
 休薬はリバウンドによる凝固系亢進を生じ、1%強の確率で血栓塞栓症が発生しその80%は死に至る。ワーファリンはビタミンK、プラザキサはプリズバインドという中和剤が存在するが血栓形成の副作用もあり歯科医師が処方する薬ではない。他のDOACも間もなく中和剤が上市される。
C)糖尿病薬(表5)
 糖尿病は抗高血糖治療から抗糖尿病治療へのパラダイムシフトが完了した。かつてアマリール+アクトス+ベイスンの併用が定番であったが、現在はDPP-4阻害薬が新患の7割に処方される標準治療薬であり表5の4剤のシェアはほぼ同等である。低血糖になりにくくHbA1cが改善可能であることが根拠であり、メトグルコとのカップリング処方が標準となっている。合剤のエクメットもある。「痩せる糖尿病薬」としてSGLT-2阻害薬が登場したが、今のところ脱水関連の副作用で伸びていない。
 腎臓については確実に問診する。CKDや人工透析の有無をチェックし、抗菌薬とNSAIDsの減量処方の必要性を検討する。またHbA1c値を問診し、術後感染や根管治療・歯周治療抵抗性の可能性を説明する。
(次号へ続く)


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