歯科2025.05.11 講演
歯科定例研究会より
自家歯牙移植の基礎と臨床
~インプラントと自家歯牙移植の棲み分け~(2025年5月11日)
滋賀県長浜市 泉歯科医院院長 泉 英之先生講演
インプラントに対する自家歯牙移植の特徴
近年、自家歯牙移植が再び注目を集めている。とくにヨーロッパでは臨床的にも積極的に取り入れられており、多くの臨床研究が報告されている。高い成功率が報告されており、従来のインプラント治療と並ぶ欠損補綴の選択肢として再評価されつつある。自家歯牙移植は、主に1歯の欠損に対する治療として行われ、インプラント治療と比較されることが多い。適応に関して、インプラント治療は成長期の患者に対しては位置異常のリスクがあるため、原則として成長終了後に行うべきとされてきた。しかし、最近の報告では、成長終了後であっても経年的な顎骨の変化により、インプラントの位置異常が生じることが分かってきている。たとえば臼歯部では、加齢とともにコンタクトの喪失などが起こり、あるメタアナリシスでは約41%の症例でこの現象が認められた1)。一方、自家歯牙移植では歯根膜が存在するため、周囲の骨と自然な形で適応し、こうした位置異常は生じにくい。
また、大きな骨欠損を伴う部位に対しても、自家歯牙移植では骨造成を必要としない。これは、歯根膜が移植後の骨再生を促す役割を果たすためであり、骨造成を行わずに自然な組織再生が期待できる点で大きな利点である。さらに、インプラントではインプラント周囲炎のリスクが常に存在するのに対し、自家歯牙移植ではこのような特有のリスクが存在しないことも、大きな強みとして挙げられる(図1)。
成功率に関しては、10年間の残存率がインプラントで約96.4%2)、自家歯牙移植で94.6%3)(図2)とされており、両者に大きな差はないとされる。異なる研究間での単純比較には注意が必要であるが、サバイバルレートという観点では、同程度と見なすことができる。その上で、インプラント特有のリスクが存在しないという点で、自家歯牙移植への関心が高まっている。
歯根膜と歯髄の治癒
自家歯牙移植の成功には、歯根膜と歯髄の治癒に関する理解が不可欠である。歯根膜が正常に治癒しない場合、炎症性吸収と置換性吸収(アンキローシス)が問題となる。炎症性吸収は、歯髄壊死と歯根膜の損傷が合併した場合に生じやすく、移植後3カ月以内に起こることが多いため、この期間のエックス線によるフォローアップが極めて重要である。対して、置換性吸収には現在有効な治療法が存在せず、経過観察しか手段がない。特に年齢が若いほど進行が早いため、若年者で生じた場合には、早期に抜去や補綴的対応などを検討する必要がある。歯根膜のダメージを防ぐためには、移植操作をできるだけ迅速に行うことが必要であり、1分でも早い移植が望ましい。ドナー歯の一時的保存が必要な場合には、保存液として牛乳が適していると私たちは考えている。
歯髄の治癒は、歯根が未完成の歯において期待でき、特に歯冠歯根比が1:1~1:1.5程度のタイミングが、治癒と予後の両面からみて適切な時期とされている。
術式としては、即日移植と、抜歯後に数週間受容部の治癒を待ってから行う遅延型移植がある。ドナー歯が小さい場合は、即日移植では適合が得られにくく、失敗のリスクが高まるため、遅延型移植が適しているとされる(図3)。さらに近年では、3Dプリンターでドナー歯のレプリカを作成し、事前に受容窩を形成することで、術者依存性(テクニックセンシティビティ)を軽減し、口腔外の時間をほぼゼロにする方法も登場しており、成功率の向上が期待されている。
なお、歯根完成歯における無歯顎堤への自家歯牙移植については、筆者らは成功率が低いため推奨していない。
適切な症例選択
成功率を高めるには、症例選択が極めて重要である。とくに以下の条件が、成功の可否や予知性に大きく関与するとされている:・いかなるときでも、健全な歯根膜は成功のための必須条件である。
・患者の年齢が低いほど、成功率は高いと考えられる。
・歯根の形態が単純なほど、予知性は高いと考えられる。
・抜歯窩への移植は、非抜歯窩への移植より無難であると考えられる。
・40歳以上の患者の非抜歯窩への移植は、適応症とは考えにくい。
このように、自家歯牙移植は確かな診断と適切な症例選択、そして高度な術式の実施によって、非常に有効な治療法となり得る。より詳しい内容については、参考文献4を参照されたい。
参考文献
1)Prevalence of proximal contact loss between implant-supported prostheses and adjacent natural teeth: A systematic review and meta-analysis. Victor Augusto Alves Bento et al. J Prosthet Dent. 2023 Mar;129(3):404-412.2)Long-term(10-year)dental implant survival: A systematic review and sensitivity meta-analysis. Mark-Steven Howe et al. J Dent. 2019 May:84:9-21.
3)Long-term outcomes of autotransplantation of teeth: A case series. Mitsuhiro Tsukiboshi et al. Dent Traumatol. 2019 Dec;35(6):358-367.
4)自家歯牙移植〈増補新版〉. 月星光博【著】. 2014年05月10日.クインテッセンス出版株式会社
(5月11日、歯科定例研究会より)
