兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2011年4月15日(1652号) ピックアップニュース

税経部より 平成22年分 確定申告を終えて  協会税務講師団 浦上 立志 税理士

 貧困と格差社会が深まって、医療機関の経営と生活にも影響が現れています。

収入維持なら健闘 各科の特徴

 本来必要な受診の手控えと長期投薬の間隔が広がったことから、収入が維持されていること自体が健闘と評価できると思います。歯科では例外的に、診療報酬のアップが図られたはずなのですが、受診抑制と相打ちで増加した実感がありません。むしろ、自由診療の大幅減少が目立ちました。
 内科・小児科では各種予防接種の増加で保険外収入が増加して、消費税課税事業者となる1000万円を超えるケースも増加しています。
 また、社会保険の患者さんの比重低下、生活保護や国保患者の増加が見られます。これは、派遣や個人請負・パート・アルバイト形態などの不安定雇用の増加が背景にあるのでしょう。神戸市では、老人の交通費が児童並みの有料となり、年金収入からの逆算生活をする上では、行動範囲の狭小化と消費や受診行動に大きな制約を生んでいるのではないでしょうか。
 窓口で「キレる」患者さんへの応対が割にあるともお聞きしました。負担割合が大きいと「患者さま」意識が強まっていることと、世知辛い厳しい世の中の反映なのでしょう。医療側でも、患者負担と社会保険事務局から公表された平均点数を気にした萎縮も、一部にはあるのではないでしょうか。

経費の特徴

 内科・小児科では公費負担による予防接種収入は増加したものの、原価がアップし、見かけの収入ほどの利益にはなりませんでした。
 レセプトオンライン化のためのレセコンの買換、新型インフルエンザ滅菌装置の購入などによる助成金、エコポイント利用による車や備品買換がありました。しかし、これは需要先取りで次はしばらく節約でしょう。オンライン化は、それ自体で収入増加を生むものではありませんし、予防接種、特定健診や介護保険事業など事務作業の増加もあるのですが、幸か不幸か患者数が少ないからこなせているということかも知れません。

医業外所得

 資産運用ができていた時代の記憶の残像がありますから、長引く超低金利にしびれを切らして、郵政民営化、規制緩和、自己責任投資のかけ声に勧誘され、投資信託・株式・不動産リート・金・FX・匿名組合投資・変額保険など多様な金融商品を銀行・ゆうちょ銀行も扱うようになったところへリーマンショックという、筆者に言わせれば目に見えない「大震災」がありました。ところがその時期以後、さらに相場は低迷しました。結果はたいてい大損というのが「投資家」のありふれた現実でしょう。
 損失続きで個人投資家に手じまいをさせないため、上場株式等・投資信託の損失と申告分離配当所得との損益通算を平成21年改正で認め、古い年から順次の繰越控除を申告した人にだけ、仮に3年以内に儲けたら通算できるとしました。そのため、いつか儲けるかもしれないとして毎年届ける申告書はややこしくなり、添付資料が分厚くなりました。
 もう一つのポピュラーな「投資」は、元の居宅やマンション・アパートの賃貸経営です。これは、町中でさえ、銀行が店舗として借りないから、新築マンションが建ち、古いもの、離れたものには借り手がいない、修繕費がかかる、ローン金利が仮に上がるとやっていけないという不安を抱えています。
 唯一、最高裁判決によって、遺族に対する保険年金の扱い変更がされ、更正の請求によって、保険医年金、日医年金などでは5年間の還付という僥倖を受けることができました。平成23年改正でさらに過去10年まで遡及還付がされる予定です。未請求にご注意ください。

税金よりも社会保険料が負担

 おおむね所得1000万円以下では、税金よりも、社会保険料負担と医療費の現役並み収入認定による3割負担が大きく、税金以上の負担です。もし上場株式等の損失を届け出ると、儲けはなくても、その年に売却代金という収入があったとして現役並み収入と認定されますので、医療費が3割になってびっくりという例もあります。医療費控除のために還付される税金は多くなくても、添付する医療費領収書が束になるので税務署は保管が大変でしょう。それもあって、税務署からいつでも領収書を見せてと言える電子申告が推奨されるのです。

 申告期限間際の3月11日に、東日本大震災が発生しました。被災地外の納税者にとっては、義援金などが寄付金控除に該当するものか、同業者としての見舞金として経費扱いが可能かどうか、生計同一の親族の所有する被災物件の損失の雑損控除は可能かなどを検討するケースがあろうと思います。

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