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兵庫保険医新聞

2012年9月15日(1697号) ピックアップニュース

患者の苦しみ理解しない移転 インタビュー 県立こども病院なぜポーアイ移転(4)

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兵庫ヘモフィリア友の会会長
小山こやま  昇孝のりたか さん

 血友病患者でつくる「兵庫ヘモフィリア友の会」は、「兵庫県立こども病院の移転反対に関する要望書」(左記)を6月24日に表明し、ポートアイランド移転に「異議を申し立て」ている。移転計画に対する患者団体の思いについて、会長の小山昇孝さんにインタビューした。

 ――「ヘモフィリア友の会」について、教えてください。
 小山 会は、血友病患者の会です。血友病は、血液凝固因子第Ⅷ因子、あるいは第Ⅸ因子の欠乏によって、出血すると血液が固まるまでに時間がかかる出血性疾患です。
 欠乏の原因は伴性劣性遺伝によるもの、つまり遺伝する病気で、生まれた時から病気をもっています。ただし、突然変異で病児が生まれる場合が約30%あるそうです。

 ――症状は出血ということですか。
 小山 そうです。関節内や筋肉内の出血が中心で、患者にとっては〝痛い〟病気で、それがいつ起こるかわかりません。頭蓋内や頸部、気道などで出血すれば、場合によっては致命的ともなるので迅速な対応が必要です。慢性症状では、関節拘縮なども起こります。

 ――治療は専門病院でないとできないのですか。
 小山 治療は出血時のできるだけ早期に、凝固因子を注射で補充する補充療法です。在宅での自己注射療法が普及して、血友病の予後は飛躍的に改善したといわれています。
 しかし、病児が小さいうちは、血管も細く、家族ではとてもできません。兵庫県下で専門医がおられるのは兵庫医科大学ですが、こども病院をはじめ他の病院でも治療していただいています。
 もともと患者数が日本全国で5000人、近畿で約900人と少なく、こども病院にかかっているのは10人ぐらいだと思います。

 ――今回、ポーアイ移転に反対されたのはなぜですか。
 小山 血友病は、生まれたときからの病気で、主治医との関係がとても強いのです。医師が何かの理由で病院をかわれば、その医師に患者もついていくのです。
 この春にも神戸市立中央市民病院におられた先生が転勤になり、患者さんがついていくという話を聞いています。中央市民病院は急性期の病院なので、慢性期の治療はできないというのが、転勤の原因だったそうです。
 血友病は病院も医師も限定されるのです。現在、こども病院には、病院の近くまで引っ越して治療を受けている患者が複数おられます。それが移転となれば、また住居を変えなければならないということになります。
 今回の移転は、何の説明もなく、病気を持っている人の苦しみや悩みを理解してもらっているとは思えません。それに地震でポーアイが液状化すれば病院に行けなくなります。そんなときに出血したらどうなるのでしょうか。患者の声をしっかりと聞いて、再検討してもらいたいと思います。

 ――兵庫県は、総合病院との隣接でメリットがあるとしていますが。
 小山 私たちにとっては、何のメリットもありません。それに、中央市民病院は慢性期を扱わないということで、小児科の医師が出ていってしまうぐらいですから。

 ――開業医への注文がありますか。
 小山 血友病の治療は補充療法ですが、近年、早期から定期投与する定期補充療法が行われるようになり、血友病治療の主体になりつつあります。
 しかし、家庭で小学生が自己注射したり、母親が打つのは、不安も大きいのです。ヘモフィリアというと、すぐに専門の病院にとなりがちなのですが、近くの小児科で、困った時の対応などに応じていただけるようになれば、患者家族が安心できます。
 血液製剤は、1本約7万円、また、製剤によっては、1本40数万円するものもあるので、むやみに在庫をかかえられないとは思いますが、そうした患者がおられれば、ぜひ相談に応じていただければと思います。

 ――今日はお忙しいところをありがとうございました。

2012年6月24日
兵庫県立こども病院の移転反対に関する要望書
兵庫ヘモフィリア友の会
会長 小山 昇孝

 先般から兵庫県立こども病院の神戸ポートアイランド移転に関しまして、協議が重ねられてきて、移転が確実になったような報道も聞こえてきます。
 今回の県立こども病院の移転に関して、通院する患者や家族、あるいは地域住民の意見も聞かずに、行政指導で勝手に審議が進められていることに対して、当会として異議を申し立てます。
 ヘモフィリア(血友病)患者は難病指定を受けた疾病で生まれたときからハンディを背負っています。日本全体でもわずか約5000人しか患者がいません。そのため、どこの病院でも診察が受けられるという疾病ではなく、病院も医師も限定されてきます。
 特定の医師がいない地域にお住まいの方は、わざわざ診察してもらえる病院の近くまで引越しして治療を受けています。
 現在、県立こども病院においても、そのような患者が複数おられます。それが移転となれば、また住居を変えなければならないということになります。やっと安心して治療等が受けられると考えて生活されてきたご家族の思いは計り知れません。
 病気を持っている人の苦しみや悩みを理解してもらっているような血の通った事業ではないように感じます。
 今回の移転に関しまして、まずは「住民ありき」、「市民ありき」ではないでしょうか。患者・家族と地域住民等の意見をしっかり集約して、移転について再検討してもらいたいと思います。
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