兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2015年4月15日(1780号) ピックアップニュース

燭心

 本紙が届く頃にはもう散りそめているだろうが、桜が満開である。季節の節目に合わせて咲いてくれる花は、人生の節目も彩ってくれる。〝さまざまなこと思い出す桜かな〟、芭蕉の名句を引くまでもなく、悲喜こもごも、いろんな思いをかりたててくれる▼思い出すのは、東日本大震災と原発事故である。4年前、支援にかけつけた避難所の中学校の校庭の桜は、まだつぼみも固く、じっと耐えているかのようであった。少しして報道番組で被災地の桜の映像を見た。津波ですべてを流された土に咲く桜に、涙を流す人がおられた。20年前、がれきの中で私たちが見た桜と同じだ。愛でる人のいなくなった花もあろうが、避難生活が続く人たちの支えになってくれたらと願う▼戦後70年、あの年の春はどうだったのだろう。忘れてはならない桜があったはずだ。大阪も神戸も焼夷弾が降り注ぎ、沖縄では3月末から地上戦が始まった。おびただしい人が犠牲になった。若者たちは、生きることより、いさぎよく散ることが強要され、死地におもむいた。桜が軍国主義の象徴に使われた時代、決して美化してはいけない過去である▼新たな出発に胸弾ませる人々も多かろう。フレッシュマンたちのスーツや制服がまぶしい。夜桜の下での大騒ぎも、平和な時代ならではの特権である。もとより花は命を次世代につなぐ象徴、問答無用で手折るような無粋なまねはしてほしくない。福島の花も沖縄の花もそう思っているだろう(星)
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