兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2017年12月15日(1865号) ピックアップニュース

追悼 池内春樹先生

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【ご略歴】1947年生まれ。1971年順天堂大学卒業、76年神戸大学大学院(内科学専攻)修了助手、82年三木市民病院小児科勤務。85年姫路市にて開業
協会 理事    1997年6月〜99年5月
   副理事長  1999年6月〜03年5月
   理事長   2003年6月〜15年5月
   名誉理事長 2015年6月〜
   保団連理事 2000年2月〜06年1月
   代議員   2006年2月〜16年5月

 兵庫県保険医協会名誉理事長の池内春樹先生が、11月7日にご逝去された(享年70歳)。池内先生は2003年から12年間にわたって理事長を務められ、保険医運動の発展に尽力された。告別式での西山理事長の弔辞と追悼文を掲載する。

弔辞
「連帯と共生を求めて」
理事長  西山 裕康
 兵庫県保険医協会を代表しまして、池内春樹先生のご霊前に、謹んでお別れの言葉を述べさせていただきます。
 池内先生。先生の突然の訃報に、協会会員、事務局員一同、深い落胆と悲しみを禁じ得ません。今、先生のご遺影を前にすると、先生のやさしい声が聞こえてくるようで、他界されたことが今も信じられない気持ちです。
 私が、先生とお言葉を交わすようになったのは、理事会に出席するようになってからでした。すでに先生は理事長として、9年目を迎えておられました。7000人会員を擁する保険医協会の「理事長」という肩書から、近寄りがたい雲の上のような存在に感じておりましたが、いつも会うたびに、保険医新聞に掲載されていたお写真どおりの優しい笑顔で、「やぁ、西山先生」とお声をかけてくださり、緊張を解いていただいたのを昨日のことのように覚えております。また、今では数少ない愛煙家として、喫煙所で会うたびに、勝手にシンパシーを抱いてもおりました。
 先生は、兵庫協会では、1997年より2年間の理事、その後4年間の副理事長を務められ、2003年からは12年の長きにわたり理事長としてその重責を担われました。
 また、兵庫協会だけでなく、保団連においても2000年から6年間理事を、2006年から2016年までは代議員を歴任されました。
 とりわけ全国課題では、保団連が難しい局面を迎えた大会の選挙管理委員長として選挙を取り仕切られました。様々な意見がある中、史上初となった副会長選挙を公平にさばき、全国の保険医協会の保団連に対する信頼を強くする上で、大きな役割を果たされました。
 また、非核平和部長として「核兵器廃絶と平和の課題を志す先生方に一人でも多く集まってもらおう」と呼びかけ、それまで以上に大きな輪を広げられました。
 これらはひとえに先生の公正無私な人柄のたまものです。
 先生のご実績は、枚挙にいとまがありませんが、心に残るのは、日本国憲法を基本とし、平和と社会保障を一体的に追求されたことで、今も協会の中に確かに受け継がれています。
 先生が平和の課題を大事にされたのは、広島の原爆投下直後、軍医として入市され、被爆者の救護に当たられたお父様・池内光治先生の業績を継ぎたいとの、強い意志があったことも、折に触れて語っておられました。
 また、地域における診診連携や病診連携の重要さを説き、大学病院をはじめとした大病院、行政や医師会との関係も新たに築かれました。マスコミとの懇談会も始められ、保険医新聞を協会ホームページに載せるなど、その先見性と柔軟性、卓越した実行力には目を見張るものがありました。先生のまかれたこれらの種はすべて今につながり、大きな花を開かせています。
 先生は、哲学にも造詣が深く、評議員会での質疑に「アウフヘーベン」というお言葉を使ってご返答されたのには、出席者一同、大変驚かされました。
 ご家庭では、洋子奥様を大事にされ、保険医新聞に投稿された、奥様との会話形式の映画案内では、高い見識の中にもお互いを思いやる気持ちがうかがわれ、夫婦の理想の姿としてあこがれていました。
 このような方を亡くされたご家族のお気持ちを思うと、私どもは言うべき言葉もありません。
 先生のお好きな言葉に「連帯と共生を求めて」があります。メールの署名欄には、いつもこの言葉が添えてありました。私は、いつかこれ以上のフレーズを考えるぞ、と意気込んでいましたが、まだ見つけられておりません。
 私、理事長として、池内先生にはおよばないかもしれませんが、先生の遺志を引き継ぎ、日本の医療、社会保障はもちろん、平和、民主主義のさらなる充実とともに、兵庫協会の発展に向けて、役員、事務局員一丸となって努力することを、先生の御霊前にお誓い申し上げて、送る言葉とさせていただきます。
 どうぞ私たちをお見守りください。心よりご冥福をお祈りいたします。
社会と人への心遣いに満ちた先生
全国保険医団体連合会会長  住江 憲勇
 兵庫県保険医協会名誉理事長、故池内春樹先生への哀悼の言葉を謹んで述べさせて頂きます。
 池内先生は兵庫協会では1997年より理事、99年より副理事長、2003年より理事長、2015年より名誉理事長という重責を担っておられました。この輝かしい協会での経歴を携え、保団連では2000年より理事、06年より16年まで代議員、その間、共済部、非核平和・民主主義担当、そして04年〜06年1月まで組織部長を担っていただきました。とりわけ保団連10万会員達成時の組織部長でありました。ここに改めて先生が協会・保団連で果たされた役割と功績の偉大さに敬意と感謝を捧げるものであります。
 個人的な先生と私との関係は、お互いに兵庫と大阪の理事長として、近畿ブロック等で大いに議論を交わすという以上に、両協会の歴史的な関係から、大阪弁でいう「われ、おれ」の関係性を感じさせていただいておりました。
 ですから、約14年前、私が保団連常駐役員として東京に赴くに当たり、最終的な決断に不安−すなわち私にふさわしいのか、その責を果たせるに足りるのか−を持ち、先生に相談させていただきました。その席で、先生から「住江先生のやりたいようになされば。〝兵庫〟は先生を全面的に支援しますよ」と、何か達観したように遠くに視線を合わせて即断、即答されました。あの夜の、先生の心遣いと励ましに満ちた、奥さんともども3人でのお酒はいまだに忘れられません。
 こういう心遣い、気配りを誰にでもなされる先生です。今の一路改憲・新自由主義国家づくりへの暴走による貧困と格差拡大社会にどれだけ心を痛めておられたことでしょう。先生の遺志を受け継ぎ、医療・社会保障改善、平和・民主主義・立憲主義のさらなる発展に向け、兵庫協会ともども保団連も役割と責任を果たすことを先生の御霊にお誓い申し上げます。合掌
先生のお言葉がたよりでした
姫路・西播支部長  宗実 琴子
池内春樹先生
 先生は今、どこにいらっしゃるのですか?
 宗実が姫路・西播支部で少しずつ仕事をさせていただいた時に、先生がおっしゃいました。
 「協会本部の仕事が回ってきたので、それが終わったら姫路・西播支部はぼくが引き受けるから〝ちょっとだけ〟支部の仕事をしていてくださいネ」でしたね。そのお言葉を「たより(頼り)」にたくさんの皆さまのお助けで、支部長として過ごしてまいりました。
 何ということでしょう。
 先生、ごめんなさい。泣き言から始まってしまいました。そんな言葉に耳を貸さなくてもよくなったのですね。
 温和な先生。次の世界でも平和にゆっくりとお過ごしになられていますよね。
 まもなく、ボツボツと、先生の世界に私どももまいります。その後の協会や地域の、すばらしい活動話をおみやげにたくさん持ってまいります。歓迎してくださいネ。
反戦・平和への強い思い
副理事長  加藤 擁一
 池内前理事長の訃報を聞いた。人間、いつかはお別れの時がくるのは自明のことであるが、まだまだ若く、あまりにも急で、残念である。心からご冥福をお祈りしたい。
 池内先生とは、私が協会の役員をさせていただいた頃からの付き合いなので、かれこれ20年以上になる。古い保険医新聞をめくって思い出をたどっていくと、改めて、先生の足跡の大きさを知らされる。思い出を少し綴ってみたい。
 先生は、保険医運動のいろんな分野に精通しておられたが、やはり、一番力を入れておられたのは、非核・平和運動ではなかったろうかと思っている。「核戦争に反対する医師の会」の常任世話人や保団連の非核・平和部員を務められ、全国の運動に貢献されてこられた。
 何かの折にご家族の思い出を伺ったことがある。先生は、祖父、父がともに軍医にとられ、祖父はフィリピンで戦死されたそうだ。生き残った父も広島で被爆し、後に癌で亡くなられたという。物静かな語り口であったが、自分の生き方のルーツと、反戦への思いを伝えていただいた。
 10年前、京都で開催された反核医師のつどいは、思い出深いものであった。記念講演していただいた、オーストラリアの医師、ティルマン・ラフ氏はICAN運動を提唱、私たちも共に運動することとなった。夜の懇親会では、池内先生らとともに、秋の京都を堪能したのが、まだ昨日のことのようである。
 その後この運動は世界に広がり、今年のノーベル平和賞を受賞したことはご承知の通りである。国連での核兵器禁止条約の採択とともに、非核・平和運動にとって今年のビッグニュースである。池内先生もさぞかし喜んでおられたと思うが、感想は聞けずじまいになってしまった。
 一度、ゆっくり飲み明かしたいと思っていたが、残念ながらこれは天国での楽しみに取っておくことにしよう。志は、みんなで引き継ぎます。どうか安らかにお眠りください。
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