兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2021年3月05日(1967号) ピックアップニュース

燭心

 コロナ禍の影響で延長されていたNHK大河ドラマ「麒麟が来る」が終了し、渋沢栄一の生涯を描く「青天を衝け」が始まった▼渋沢と言えば「官尊民卑」批判。大正初期、『実業之世界』に連載された談話筆記「実験論語処世談」には、「日本の現状で私の最も遺憾に思ふのは官尊民卑の弊が未だに止まぬ事である」とある。続けて、「之に反し、民間にある者は、少しでも不都合な所為があれば直ちに摘発されて、たちま縲紲るいせつの憂き目に遭はねばなら無くなる」。モリカケや菅首相の長男の接待問題など、今の世相を切り裂くような鋭い言葉が並ぶ▼官尊民卑は、私学の雄慶應義塾の創始者福澤諭吉が好んで使用し広めたとされる。民力が下から智識・言論で国を支えることを理想とした福澤は、渋沢を称賛する文章を残している。一方で、渋沢の肖像が入った10円、5円、1円券の紙幣は、明治末期に日本が朝鮮を保護国化する過程で通貨経済を支配した、植民地支配の象徴でもあった▼時の天皇をないがしろにした織田信長を悪役として描き、帝を敬う正義の明智がこれを討ったと本能寺の変を読み解いた「麒麟が来る」に続いて、国に頼らず民間の活力を謳う一方で隣国の経済まで支配した日本資本主義の権化とも言うべき渋沢の「青天を衝け」が連続してNHKで放送されることに作為を感じるのは不遜であろうか。教育勅語の復活を夢見た前首相と、公助よりも自助を推奨する現首相の傲岸不遜ごうがんふそんなコラボ劇を見るようである。(九)
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