兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年3月25日(2033号) ピックアップニュース

主張 「異次元の少子化対策」
出産・育児による過重な負担 政権は理解しているのか

 2022年の日本国内の出生数は、統計開始以来初めて80万人を割り込んだ。岸田首相は年頭に「異次元の少子化対策」を掲げたが、「育休中にリスキリングを」など子育ての現実や負担を理解しない発言が相次ぎ批判を浴びた。
 政府が「少子化対策」に取り組み始めたのは1990年からである。「1.57ショック」と称される1989年の過去最低の合計特殊出生率を受けてのことだった。
 エンゼルプラン、新エンゼルプランなどの計画を連発するも出生率は下がり続けた。2010年の子ども手当や、2019年の消費税率10%引き上げに際して幼児教育の無償化など子育て関連予算は増加した。
 にもかかわらず、この30年間、少子化に歯止めをかけることはできなかった。そもそも、日本の子育てに関わる公的支出(家族関係支出)は出生率の高いスウェーデンやフランスと比較して水準の低さが指摘されている。今までの予算があまりにも低次元だったのだ。
 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、子どもを持たない理由として2002年以降常に最多を占めるのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」との回答だという。2018年における高等教育まで含む公的教育費支出のOECD平均はGDPの4.1%だが、日本は2.8%にすぎない。
 50歳時未婚率は、2000年の男性12.6%、女性5.8%から2020年には男性28.3%、女性17.8%と約3倍に増加している。非正規雇用者や低収入者は夢のある未来を描くことができず、結婚を諦めざるを得ない現実がある。賃金を底上げし、正規雇用を拡大し、男女の賃金格差を是正するとともに、夫婦がともに子育てに参加できるよう働き方を改善することが不可欠だ。
 さらには、夫婦別姓やLGBTQなど多様な生き方を認め、婚外子差別の制度を是正することも重要であろう。
 予算倍増と声高に叫び、首相はその中身を一向に説明しないが、予算を倍増するなら、大幅増が決定している防衛費も使い、まずはすべての世代に安心と希望を与える大学までの教育費と医療費の無償化に充てるべきである。
 「異次元の対策」が、「少子化対策のためなら消費増税もありうる」と国民に対して増税をにおわす前フリであるなら決してこれを許してはならない。
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