兵庫県保険医協会

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専門部だより

環境・公害対策部だより

県内初のPFAS外来・血液検査を実施 予防原則に立ちPFAS規制を

2025.05.05

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兵庫県民主医療機関連合会 東神戸病院・内科 瀧本 和雄先生

【たきもと かずお】1983年神戸大学医学部卒業。同年4月東神戸病院入職。85年4月~87年5月(山梨勤労者医療協会)甲府共立病院で消化器内科の研修。現在、神戸健康共和会副理事長、兵庫民医連理事。兵庫民医連PFAS問題プロジェクトチーム責任者

 近年、全国各地での環境汚染が報じられているPFAS(ピーファス:有機フッ素化合物)。兵庫県でも明石川流域で高値が検出され、その後、他の地域でも高値の地点が明らかになっている。このPFASについて、県内で初めて兵庫県民主医療機関連合会(兵庫民医連)が5月に住民の血液検査を実施する。その取り組みについて、兵庫民医連のPFAS問題プロジェクトチームの責任者であり、昨年からPFAS相談外来を開始した瀧本和雄先生(東神戸病院内科)に、森岡芳雄副理事長(環境・公害対策部長)がインタビューした。

 森岡 まずは、なぜPFAS問題に取り組むのか、お聞かせください。
 瀧本 2007年に大阪府摂津市内の地下水で高値のPFASが検出されて以来、米軍基地周辺などでの指針値超えが報道されてきました。
 地下水のPFAS値が高いことが分かった東京の横田基地周辺住民の血中濃度測定を行おうと、2年前に東京民医連と東京保健会病体生理研究所が検査機器を購入し検査したところ、住民のPFASの血中濃度は他地域と比べて非常に高値であることが分かりました。PFASの一種であるPFOAを製造・使用していた大阪府摂津市のダイキン工場周辺でも、住民の方々の要望を受け、大阪民医連が血中濃度測定を行い、高値が出ました。
 県内でも明石川流域の住民33人に対し、昨年7月に大阪民医連が血液検査を実施しやはり高値が出ています。
 さらに沖縄県の米軍基地周辺や岡山県吉備中央町など各地でPFAS汚染が問題となり、米軍や製造関連工場周辺のみならず、産廃場周辺でも汚染の可能性があることが判明し、汚染の広がりに関心が集まる中、全国組織である全日本民医連が全国的なPFASの血液検査と運動を呼びかけ、これに応えて昨年9月、兵庫民医連でもプロジェクトチームを立ち上げたのです。
 まずは、10月からPFASの相談外来を始めました。同時に、住民や職員向けに学習会を開催するとともに、県内で初めてのPFASの血液検査を5月31日に東神戸病院で実施します。
規制行わない国の姿勢ただす
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聞き手 森岡 芳雄副理事長

 森岡 欧米では、様々な健康被害が指摘され、非常に厳しい水質の規制値が設定されていますが、日本政府の動きは非常に鈍いですね。
 瀧本 はい。2023年にWHOの付属機関である国際がん研究機関は、PFASのうち、PFOAを「グループ1 発がん性がある」に、PFOSを「グループ2B 人に対して発がん性がある可能性がある」にと、発がん性のリスク評価を引き上げました。しかし、政府は「環境汚染ではあるが、健康障害ははっきりしていない」という姿勢で、血中濃度の規制値も定めず、血液検査も行おうとしていません。
 森岡 食品安全委員会の専門委員会での答申案作成過程で、意図的に検討論文を絞り込んで結論を捻じ曲げた疑惑も取り沙汰されています。
 瀧本 実際は、北海道スタディやエコチル調査など、国内でもPFAS曝露と健康被害との関連を示す研究はいくつも発表されていますし、昨年の明石市の住民33人の血中濃度測定結果は、17人(51.5%)がPFOSについてドイツの基準を、18人(54.6%)が米国アカデミーの基準値(6PFAS)を超えていました。
 私たちは小泉昭夫先生(京都大学名誉教授)を中心とする研究グループとタイアップして、全国的に血液検査を実施し、結果を示すことで、政府に対策を迫っていこうと考えています。
腎臓がん・潰瘍性大腸炎 PFASで増加疑い
 森岡 先生個人としては、PFAS問題をどのように受け止められましたか。
 瀧本 診療で感じていた疑問と符合したなという思いを持っています。
 PFASの関連疾患として腎臓がんと潰瘍性大腸炎が指摘されています。潰瘍性大腸炎は難病ではありますが、以前はガイドラインに沿って治療すれば、9割方、病状を落ち着かすことができていました。しかし、最近はそれでは落ち着かない人が増えています。また、以前から腹部エコーの全例をチェックしていますが、昔はそうそう見つからなかった腎臓がんの発見の頻度が上がっています。この原因の一つの可能性として、PFASという環境因子があるのではないかと考えたのです。
 診ている潰瘍性大腸炎の患者さんに「PFASという言葉を知っていますか」と尋ねていったところ、一人の男性は泡消火剤を扱っている会社に勤めていて、20年ほど前から「扱いに気をつけろ」と言われていたと教えてくれました。会社はPFASが危険な物質だとかなり以前から知っていたんだと思いました。
 森岡 被害がまだまだ隠れている可能性がありますね。
血液検査高値の人にPFAS外来を実施
 森岡 PFAS外来では、どのようなことを行っているのですか。
 瀧本 血液検査でPFASの血中濃度が高値だった人を対象にし、現時点(3月末時点)で明石川流域の住民の方4人の相談を受けています。治療中の疾患や検査データなどを聞き取り、腹部腎臓エコー検査など漏れている検査がないか確認し、希望があれば、その日のうちに全て検査し、もう一度診察します。かなり時間がかかるので、予約制で週1回、1日2人まで予約枠を確保しています。
 森岡 今のところは、それほど相談者は多くないようですが、今後の継続的なフォローも必要ですね。
 瀧本 大阪や東京の経験から3~5年に一度程度の頻度で必要かと思っています。
 最近汚染データが公表され、明石川流域だけでなく、西脇市や阪神間など、汚染地域が幅広く明らかになり、今後、相談者が増えてくると考えています。
 森岡 保険医協会にも会員の先生から問い合わせがありますので、不安な患者さんがいれば瀧本先生や民医連に連絡してもらうようお知らせしたいと思います。
県内各地で高値 募金にご協力を
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血液検査を知らせる案内。募金のご協力は、兵庫民医連事務局電話078-303-7351(担当・堤、白石)まで

 森岡 県内各地で汚染が明らかになり、住民運動が広がっています。今後の活動の展望をお知らせください。
 瀧本 住民の運動を支えていきたいと思っています。先日も西脇市で学習会を開催し、5月に行う血液検査もお知らせしています。
 森岡 この血液検査はだれでも受けられるのですか。
 瀧本 東京民医連に検査をお願いする関係で初回は30人までで、汚染地域の住民の方優先としています。今後、2回目、3回目と会場も変えて継続し、広げていきたいと思います。
 検査費用が1万2千円程度と高額なのですが、検査の自己負担は4000円とし、残りは募金を呼びかけています。募金は一口500円からに設定しており、幅広い皆さまに関心を持っていただき、ご協力いただきたいと思っています。保険医協会の会員医療機関の方々や患者さんにもぜひご協力をお願いします。
 最終的には、国の責任で検査を実施し、健康被害について調査させなければなりません。国に「予防原則」の立場に立って、住民の命・健康を守るために行動するよう求めていきます。
 森岡 大気汚染や水俣病、アスベストなど、公害の歴史を見ても、国は健康被害の立証責任を患者・被害者に押し付け、責任を認めようとしませんので、医療団体として行動が必要です。
 保険医協会としても、工場や米軍・自衛隊基地、産廃などのPFASの汚染源への対策を強く求めていきたいと思っています。明石川上流の汚染源は産廃と考えられていますが、現在、環境基準がなく、規制も罰則規定もない状態です。やっと飲料水に関する水質基準だけは決められましたが、これも非常に緩くて問題です。
 PFASは活性炭で除去できます。一部の上水道では、家庭での浄水器取り付けを推奨しているところもありますが、その活性炭が不法投棄され、土壌・地下水を汚染するということもすでに起こっています。一般消費者の行動にまで拡大化しますと、汚染の拡大につながりかねません。他にも、規制対象のPFASの種類を増やすなど、必要な対策が山積しており、政府に継続的に意見していきます。
 瀧本 仰る通り、公害問題や原爆症などで、患者さんは常に辛い闘いを強いられてきました。行政の後ろ向きな姿勢を打ち破れるよう、がんばっていきたいと思います。
 森岡 本日はありがとうございました。


PFASとは?
 有機フッ素化合物の総称。有機物の炭素と結び付いている水素原子をフッ素に置き換えた人工化学物質で、炭素とフッ素、酸の結合の仕方や物質によって4700を超える種類がある。環境中で分解されることなく、残留し続ける「永遠の化学物質」と呼ばれる。撥水・撥油、熱や薬品にも強く変性しにくいため、焦げ付かないフライパン、水をはじく衣類・食品包装紙、泡消火剤、半導体の製造過程などで幅広く使用されていた。
 環境汚染・健康被害の懸念が指摘され、日本では2020年に河川・地下水に対して暫定目標(指針)値を決定し、今年水質基準が設けられた。健康影響として、甲状腺疾患や総コレステロール血症、肝障害、腎障害、潰瘍性大腸炎、胎児への影響などが指摘されている。
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