医科2025.10.11 講演
浮腫のみかた ~Key Wordを手がかりに~
-一般内科医が押さえるべき身体診察と病態理解-
[診内研より565] (2025年10月11日)
社会医療法人財団互恵会 大船中央病院 内科・感染管理室室長兼教育研修部部長 須藤 博先生講演
はじめに
浮腫は日常診療で極めて頻度の高い症候であるが、その背景には心・肝・腎・内分泌・炎症・血管・薬剤など多様な病態が存在する。内科医にとって重要なのは、単に「むくみ」という現象を捉えるだけでなく、"病態生理に基づいて浮腫を理解し、身体診察によって鑑別を絞り込む"ことである。浮腫の本質:Na貯留による細胞外液過剰
臨床的に明らかな浮腫は、4~5Lの細胞外液増加に相当し、本質的にはナトリウム貯留で説明される。しばしば誤解されるが浮腫とは「水が多い」のではなく、「Na≒生理食塩液が多い」状態である(図)。したがって治療の基本戦略は、塩分制限およびナトリウム排泄=利尿薬である。この共通原理は心不全、腎不全、肝硬変など原因疾患が異なっても変わらない。
全身性(両側性)浮腫の鑑別
全身性浮腫は以下の五つの病態を優先して考える。①心不全
・座位で鎖骨上に頸静脈拍動が見える場合、中心静脈圧(CVP)上昇を示唆する。
・心尖拍動を確認して、位置が鎖骨中線より外側に偏位、触診にて持続性に触れる(sustained apical impulse)場合は心機能低下を示唆する。
・S3・S4の触知や聴取、心雑音は心機能低下や弁膜症を示す重要所見である。
②肝硬変
・アルコール多飲、HBV肝炎、HCV肝炎の既往などの原疾患の存在、身体所見で手掌紅斑、クモ状血管腫、脾腫、腹水などが手がかりとなる。検査所見でアルブミン低下、総コレステロール低下も参考となる。
③腎疾患(腎不全・ネフローゼ症候群)
・ネフローゼ症候群では顔面浮腫が特徴であり、蛋白尿が診断の中心となる。
・腎不全ではGFR低下に伴うNa・水貯留が主機序である。
④糖尿病
・糖尿病性腎症からのネフローゼ症候群による浮腫が中心である。
⑤甲状腺機能低下症
・診察ではHypothyroid speech、腱反射弛緩相遅延、皮膚乾燥、T.Cho上昇などが特徴。浮腫はときに非圧痕性である。TSH高値、FT4低値、原疾患(橋本病など)による自己抗体が参考になる。
全身性浮腫では、浮腫以外の身体所見を拾うことが鑑別を大きく進める。
局所性(片側性)浮腫
片側性浮腫では以下が重要鑑別である。①深部静脈血栓症(DVT)
・急性の腫脹・疼痛、リスク因子(手術、不動、旅行など)を確認する。
・Baker嚢腫破裂はDVTと酷似するため注意が必要である。
②蜂窩織炎
・局所の発赤・熱感・疼痛を伴うのが特徴である。足白癬や小外傷を契機とすることが多い。
・下肢の蜂窩織炎では、しばしば深部静脈血栓症と鑑別が困難なことがある。
③リンパ浮腫
・non-pittingで皮膚肥厚が特徴。
・浮腫をきたした部位より中枢側にリンパうっ滞の誘引となる婦人科・泌尿器・乳腺の手術歴が重要情報となる。
鑑別診断に有用な身体診察
●圧痕回復時間(Pit recovery time、PRT)前脛骨部を10秒圧迫して陥凹が戻る時間を測定する。
ペンライトを斜めから当てて、陥凹にできた影が消失するまでの時間を測定する。
・PRT〈40秒:低アルブミン血症による浮腫
・PRT〉40秒:心不全など静脈圧上昇
●心尖拍動・S3/S4の触知
・S4触知は高血圧心・肥大心・収縮不全を示す。
・前腋窩線上に広範囲の視認可能な心尖拍動は重症心機能低下を疑わせる。
高齢者に多い"原因不明"の浮腫
・高齢者では臓器疾患や薬剤による浮腫が否定的な場合、体位(重力)による浮腫、すなわちdependent edemaがしばしば原因となる。・筋ポンプ低下・長時間の座位・低栄養などが誘因である。治療の中心は下肢挙上・弾性ストッキング・活動性向上であり、利尿薬の効果は限定的である。
薬剤性浮腫:貼付NSAIDsの重要性
・Ca拮抗薬、エストロゲン、ピオグリタゾン、ドセタキセルなどが原因薬として有名であるが、見落とされやすいのはNSAIDsによるNa貯留である。・湿布薬(経皮吸収型NSAIDs)であっても作用機序は同じであり、大量に貼付した場合には内服と同等以上の吸収が起こりうる。特にCKD患者では少量でも影響が大きく注意が必要である。
若年女性に多い浮腫:三つの重要疾患
①Parvovirus B19感染(伝染性紅斑)・成人では浮腫・関節痛・網状紅斑が主体となり、「身体中が痛い」という訴えが特徴である。小児の家族内感染が重要手がかりとなる。
②特発性浮腫
・立ち仕事、過度な水分制限、ダイエットなど背景因子が重要となる。
③好酸球性血管浮腫(Episodic angioedema with eosinophilia/Non-episodic EAE)
・浮腫、好酸球増多、体重増加を伴う。多くは臓器障害に乏しく、多くは自然に軽快するがステロイド少量で速やかに改善する。
高齢者の手背浮腫:RS3PE症候群
高齢者に急性発症する圧痕性手背浮腫と滑膜炎を特徴とする。早期関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症(PMR)との鑑別が必要であり、ステロイド反応性が高い。RS3PE症候群では,悪性腫瘍を合併することがあるので検査は行った方がよい。まとめ:浮腫診療のKey Word
・全身性か局所性か・pittingかnon-pittingか
・PRT(〈40秒/〉40秒)
・心疾患、肝硬変、腎不全/ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症
・NSAIDsなど薬剤の使用
・若年女性:ParvoB19・好酸球性血管浮腫・特発性浮腫
・高齢者:RS3PE症候群、早期RA、 dependent edema
終わりに
浮腫は単なる"むくみ"ではなく、多様な全身疾患を反映する臨床指標である。身体診察を丁寧に行うことで、検査前の段階でも鑑別を大きく絞ることが可能である。(2025年10月11日、第626回診療内容向上研究会より)
図 浮腫のイメージ












