医科2025.11.22 講演
いつものアノ病気、アノ状態、"在宅で診るときならでは"のコツ
[診内研より566] (2025年11月22日)
医療法人滋賀家庭医療学センター 弓削メディカルクリニック 本部長 中村 琢弥先生講演
現在の日本の在宅医療の特徴
医療にはヒポクラテスの時代の古来より、大きくは3種類の医療サービスが展開されていた。すなわち、外来、病棟、そして在宅である。それぞれの特徴の多少の時代に合わせた変化はあるかもしれないが、長くこれらのサービスはその本質は変わらず展開され現在に至っている。昨今はこれら3サービスに加えて、新たな技術が可能とした「オンライン(遠隔)診療」が加わり、合計4形態が存在する扱いとなっている。その中でも「在宅医療」の特徴は、究極的には2点にあると筆者は考えている。
1)医療機能や設備に由来する一定の介入制限
外来や入院が「医療に特化した環境下で行われる」ことに対して、在宅医療は「生活空間」にて行われるため、どうしても一定レベルでの制限が入ることとなる。代表的には、医療スタッフの現地到着までの時間ロスだったり、X線撮影やCTなどの大規模な医療機器を用いた診療行為の困難さ、などである。これらは技術の進歩とともにエコーを代表とした機器のポータブル化なども相まってかなり柔軟に実施できるようにもなってきているが、それでもこの格差を意識して診療することは大切となっている。
2)患者固有の生活面への調整
上記と表裏一体の特徴として、患者の生活空間にて行われるが故に、その患者の人となりや趣向、文化などが医療従事者にもすぐに目に飛び込んできて理解できるのは在宅医療ならではとなっている。ある患者の部屋では家族の写真や勲章が飾られ、それらをふと話題にすれば、ぱっと表情が華やぐ方も少なくない。また、医療により関連したことでいえば、環境を確認することでその方に合わせた医療方針も立てやすくなる。患者にとって慣れた空間であれば精神的な安楽や緩和的な効能も期待されるだろう。雑然とした環境や介護力に乏しい患者に対して医療従事者側からの現実味を欠いた指示を出してしまうということも避けられやすい。外来や入院でももちろん留意していることではあるが、在宅医療ではこの面における展開のしやすさは十分に特徴として挙げるべきものと考えている。
現在の日本では在宅医療は増加の一途をたどっている。特に高齢者を対象とした在宅医療の増加は著しい。そんな中で在宅医療をよりよく展開するには、上記の2点をおさえたうえで、その特徴に起因するコツを踏まえて在宅医療を展開したい。今回の場ではそれらをいくつか紹介していく。
訪問診療導入 編
訪問診療の導入時は非常に混乱が多くなりやすいタイミングである。特に他院からの紹介事例では注意が必要で、あらかじめリスト化されたチェック事項を確認しながら確実かつスムーズな導入を心掛けたい(図1)。在宅バッグ 編
在宅バッグは在宅医のこだわりや工夫の宝庫である。「在宅医自身がどのような診療を行いたいか(得意としているか)」を反映するものとなる。しかし、なんでも詰めていると容易にとても重たいバッグとなってしまうため要注意である。常に入れるものや、必要時のみ持ち込むようあらかじめセット化されたもの、車載管理するものなど、事前の十分な検討や分類、パッケージ化の工夫を心掛けたい。特に昨今は機器の進歩もあり、ポータブルエコーの持ち込みや、各用具の紛失を防ぐための「Air Tag(GPS機能で追跡可能とするもの:Apple社より)」なども利用するととても便利である(図2)。在宅医療の診療内容 編
前述のように近年の日本の在宅医療ではその対象は多くは高齢者である。高齢者を効率的かつ効果的に診療する手法として、「高齢者総合機能評価(CGA:Comprehensive Geriatric Assessment)」はおさえておきたい。これは英国の老年科医マージョリー・ウォーレン氏が1930年代に提唱した概念であり、高齢者への全人的ケアマネジメントを体系化・標準化したものである。詳細は成書に譲るが、簡易な覚え方として、「S-CGAとM-CGA」を紹介する(図3)。これは、導入時や状態変化時などの定点で行うべきチェック項目(S-CGA)と、毎回の訪問診療などで行う項目(M-CGA)に分類しており、これをチェックすることで自然にCGAにあたる内容への介入を可能とするものである。またADLやIADLが保たれている方の際に重要となる概念としてAADL(Advanced ADL)の概念も覚えておきたい(AADL:IADLにも含まれない、社会的・職業的・余暇的活動などを指す。通常、その人固有の趣味などが該当し、ADLやIADLが保たれていても、この要素が障害された時には対象者に何か変化があったと考えられ、これが微細なADL障害をつかむきっかけとなる)。
在宅医療マナー 編
在宅医療においては、相手の生活空間に医療者が足を踏み入れるため、その立ち振る舞いは一定の期待のまなざしを浴びていることを忘れてはいけない。これを失念してしまうことで思わぬところで信頼を失うこともあるため注意が必要である。簡単なところでは、挨拶や入室前のノックなどは基本的なところだが、患者宅によっては、医療者などの来訪者に対して「見せたくない場所」があることも覚えておきたい(もちろん、逆に来訪者に対して見せたい場所や物があるケースもある)。医学生などの初学者を訪問診療に随伴させるケースではこうしたマナーを正し、常に留意してもらう目的で、まず「入室したら必ずきちんと靴をそろえること」を指導している。最後に、在宅医療におもうこと
現在の日本において在宅医療は広く普及し始め、ただ実施するだけでは不十分となってきており、在宅医療そのものの質の高さが問われる時代がすぐそこまでやってきている。諸外国では在宅医療は日本のようにそこまで医療政策的に活発ではない地域も多く、結果として外来や病棟に比べると、在宅医療発となるエビデンスの知見蓄積はまだまだ乏しい。その中で今後どのように質を担保し、教育していくかは重要なところとなっている。在宅医療は決して特別に難しいものではないが、とりわけ簡単というわけでもない。多くは少人数かつ密室で医療行為が完結してしまうため、その多くが容易にブラックボックス化してしまい、適切なフィードバックがかかりづらくなってしまう側面には注意が必要である。自身の院所における質改善の仕組みや教育の仕組みが問われるところとなる。
今回のこの講演会と本記事が皆様の学習にとって一助となれば幸いである。
(2025年11月22日、第627回診療内容向上研究会より)











