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学術・研究

医科2025.12.20 講演

Mycoplasma as the great imitator
[診内研より567] (2025年12月20日)

飯塚病院 総合診療科 診療部長 清田 雅智先生講演

はじめに
 そもそも"great imitator"という言葉は、英国のSir Jonathan Hutchinson(1828-1913)が梅毒に対して呼んだものある1)。Mycoplasma(以下マイコ)は、一般にはgreat imitatorとは称されない。若い年齢層の異形肺炎のプレゼンなら多くの医師はマイコを想起するし、検査も近年整備され診断に困らないだろう。しかし、5%~10%程度に起こる肺外症状が目立つとimitatorの臨床像を作る。マイコは、2024年に国内の統計上最大の発生数が報告され2)、この流行時期の珍しい臨床症状から診断したマイコの症例を提示した。
 一方で、マイコはマクロライド耐性株がアジアでは多いことが報告されており、2024年に厚労省が緊急提言を行い、抗菌薬使用の注意勧告がなされた。だが、同じく耐性率が高い中国からの研究でアジスロマイシン±ブデソニド吸入例の比較で、吸入ステロイドが症状の軽快に関与した報告が出てきた。そもそもマイコは抗菌薬を使用せずとも自然寛解しうる疾患であり、抗菌薬の使用が生命予後を変えるようなものではない。抗菌薬だけでない治療を考慮する必要がありそうだ。
マイコの疫学
 日本ではマイコはオリンピックの年に4年に一回流行するとされていたが、これは1984年の東北大学の小児科の研究で、1968年、72年、76年、80年に発生数が多かった知見であろう。しかしながら、その後の全国的に集められた疫学情報から、この因果関係は否定された2)
 2011~12年に大流行があった時、マクロライド耐性株が遺伝子検査で高いことが示され、現場が混乱した。小児科学会はマイコにはマクロライドが第一選択薬で、耐性株でも自然軽快する症例があることから、小児へのテトラサイクリンやキノロンの処方を安易に行わない提言がされた3)。2016年にも流行があり、2024年が最多、さらに2025年も実は2016年と同レベルの発生があることは留意すべきである。2024年の報告例の90%は20歳未満であり、50歳以上は2%程度であるので、小児に流行し、成人例はそこからもらっていると推察される。興味深いことにマイコは終生免疫にならないことがあり、成人で再感染することも知られている。
マイコ発見の歴史4)
 ノカルジアで知られる、フランスの獣医Edmond Isidore Etienne Nocard(1850-1903)らが、1898年に動物の胸膜肺炎(pleuropneu-monia)を起こす病原体として報告した。人体での発症は当時まだ不明だった。
 1935年に米国のHobart Ansteth Reimann(1897-1986:1960年の古典的不明熱の定義で、38.3℃の根拠になっているhabitual hyperthermia、periodic diseaseを報告)が、若い人の比較的徐脈や痰を伴わない咳嗽が特徴のatypical pneumonia(非定型肺炎)を報告した。1943年に非定型肺炎の症例で寒冷凝集素反応が陽性になる特徴がわかった。寒冷凝集素反応32倍まではウイルス感染症をはじめとして様々な疾患で起こるが、米国の感染症科医のBurke A Cunhaによれば、64倍以上であれば、マイコか寒冷凝集素症しかないとしている。マイコではCBCのMCHC上昇がサインとなり寒冷凝集素の存在に気づくことができ、一部の症例では溶血性貧血も起こりうる。
 1944年に米国の微生物学者Monroe D Eaton(1904-1958)が非定型肺炎の患者から病原体を分離した。Cotton ratに感染し、ウイルスフィルターを通過する小さい病原体であり、これをEaton agentと呼んだ。米国のRobert Merritt Chanock (1924-2010)らが、海兵隊の新兵訓練所で発生した非定型肺炎の若い兵士間でのoutbreakの際、Eaton agentの抗体が陽性化したことがわかった。1962年ChanockらはEaton agentの発育をPPLO (pleuropneu-monia like organism)培地で成功し、これの健常人への接種試験を行い、肺炎以外にも水疱性鼓膜炎を起こすことに気づいた。そして1963年に正式にMycoplasma pneumoniaeと命名した。
 米国のレジデント教育ではしばしば知られ、Lawrence Tierney Jr.のpearlにも「若い肺炎患者では鼓膜をみること、水疱があればこれが診断である。」5)とするのは、Chanockらの実験を踏まえた知見である。しかし1980年に小児の水疱性鼓膜炎66例での微生物同定では1例しか関与せず6)、実臨床ではさほど遭遇しないことを物語っている。
マイコの臨床像(図1)と診断法の使い分け(図2)
 1971年にまとめられた臨床経過を示した図1が重要である。咳で有名なマイコは、通常の感冒のような1週間程度の潜伏期ではなく、暴露から2~3週の潜伏期を経て、Day1に"頭痛と倦怠感"からスタートし、Day2に発熱するという経過が特徴である。頭痛、倦怠感、翌日高熱という初発症状はCampylobacterの初期症状と共通するが、その後Campylobacterでは下痢をするが、マイコなら咳が出るかで区別される。そして肺炎としてのレントゲン像が出るのは発症5~10日程度してからである。この時期には抗原検査が陽性になるが、迅速キットのリボテストは即日結果が得られるものの感度が50%台であるので陰性でも除外できない。そして抗菌薬を使用しても改善しないという、時間経過で紹介されると、高額な遺伝子検査よりも安価なPA法の抗体検査が役立つ(図2)。PA法〉64倍なら確定できるが、2週あけてのpair血清での上昇の場合は、時間経過で症状が軽快し診断メリットが乏しいジレンマがある。
マイコの肺外症状(図3)とマイコ肺炎へのステロイド吸入
 マイコの肺外症状は、免疫現象で起こることが大半のため、通常抗体検査が陽性になるようなタイミングに出現する。講演では、maculo-papular rashを来した症例、ぶどう膜炎(+強膜炎)の症例を提示し、いずれも軽度のトランスアミナーゼ上昇を伴う肝障害が起こっていた。他の勉強会などでは、中枢神経症状の症例も報告していた。
 さて、肝心のマイコ肺炎の治療の話であるが、中国から2024年に24の研究のmeta-analysisが出ている7)。小児のマイコ肺炎にアジスロマイシンを投与しつつ、ブデソニドの吸入を加えた群と加えなかった群で比較した。注目すべきはn=2034(国内のガイドラインで引用された研究はn=37, 28などのsmall study)と対象者が多く、国内と同様に中国は2010年のマクロライド耐性率が69%の地域で行われていた点である。結果、吸入ステロイドが明らかに有効にみえる。自験例では、抗菌薬無効とされレントゲンで肺炎像があった成人のマイコ肺炎6名(16~30歳)で、ほぼ1~2日で症状はなくなっており、有効性を実感した。保険診療外の治療になる可能性が高く、十分な配慮が臨床側に必要である。

参考文献
1)Hutchinson J. An address on syphilis as an imitator. Br Med J 1879 Apr 5;1(963):499-501, Apr 12;1(954):541-2
2)https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/graph/weekly/018/myco.html(access date:2025年12月21日)
3)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250422_maikopurazuma.pdf(access date:2025年12月21日)
4)Saraya T. The history of Mycoplasma pneumoniae pneumonia. Front Microbiol 2016;Mar 22:7:364. PMID: 27047477
5)ティアニー先生のベスト・パール2 松村正巳訳 2012年 医学書院 p.030
6)Roberts DB. The etiology of bullous myringitis and the rule of mycoplasmas in ear disease:a review. Pediatrics 1980;65(4):761-6 PMID: 7367083
7)Zhao J,Pan X, Shao P. Meta-analysis of combined azithromycin and inhaled budesonide treatment for Chinese pediatric patients with mycoplasma pneumonia. Medicine(Baltimore)2024;103(24):e38332. PMID: 38875395

(2025年12月20日、第628回診療内容向上研究会より)


図1 マイコの臨床像
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図2 マイコの診断法の使い分け
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図3 マイコの肺外症状
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