歯科2025.10.05 講演
歯科定例研究会より
歯周組織再生療法を成功に導くために(2025年10月5日)
尼崎市・石川齒科醫院 院長 石川 亮先生講演
歯周病治療の"適応の目"
歯周病は、付着を喪失することにともない疾患ステージが進行するという、一方通行の疾患であるため、患者の生涯を通じさらに付着が喪失しないように守り抜くことが、治療の目標となる(図1)。ともすれば、臨床家の興味は、「何の材料を使うのか?」や「どのように切るのか?」という個々の手技に注がれがちだが、現在の歯周病病因論に照らせば、歯周組織再生療法(以下、再生療法とする)を含む歯周治療の成否は歯科衛生士を中心とした患者セルフケアの質の向上にかかっていることは明らかである。
本講演では、材料や手技に先行する"適応の目"を強調した。すなわち、EFP(欧州歯周病連盟)によるStage1〜3の治療ガイドラインを通じて、歯周治療のゴール設定、外科/非外科治療の選択、再生療法の適応症(深く狭い垂直性欠損や多壁性欠損や根分岐部病変Ⅱ度では再生の利益が大きい)について解説しながら、全体の治療の流れを示した。
再生療法の原則
まずはじめに、Wikesjö の理論に基づき創傷治癒が炎症期/増殖期/リモデリング期の3ステージで進むことと、エムドゲイン(EMD)とリグロス(FGF-2)がそれぞれのステージでどのように関わるかについて解説を加えた。また、歯周組織の再生が歯根膜幹細胞の働きによって導かれることは、Signaling moleculesに何を用いるかに関わりなく共通であることから、再生療法の成功には、創面の血餅の保持が最も重要であることを強調し、原則として①創傷一次治癒の達成②スペースメイキング③創面の安定の三点を提示した(図2)。すなわち、血餅は線維芽細胞・血管新生・上皮化の足場となる一次の〝生体材料〟であり、これを機械的に安定させ、新たな細菌感染を避けるため、創面を清潔に保つことがすべての出発点となる。
創傷一次治癒の達成の重要性
とりわけ①の創傷一次治癒の達成が不可欠で、創縁のズレや緊張は微小動揺と汚染を招き、血餅の崩壊=組織学的な後退を引き起こす。したがって切開・剥離は「材料を入れるために行う」のではなく、一次閉鎖を確実に得るための設計でなくてはならない(図3)。具体的には、歯間部保存を基調とする低侵襲フラップに代表される切開デザインの変遷を概説し、創縁の厚み・血行・緊張ベクトルを意識した縫合選択、死腔の最小化の同時制御を提示した。一方、骨欠損が舌側/口蓋側にまで及んでいる場合には、切開・剥離は大きくせざるを得ない。このようなケースでは、結合組織移植(CTG)の併用は、創縁の厚みと血行を補い、テンションフリーな一次閉鎖と血餅の機械的安定に寄与し得ることを症例を通じて示した。
本来CTGは、根面被覆術による審美的改善を目的としているが、CALの改善という大きな目的では、再生療法と通じるところがあるため、近年は、再生療法においても根面被覆術の要点を取り入れるなどして、適応症の拡大が期待されている点も症例を通じて解説した。
材料選択の考え方
Signaling moleculesの選択については、FGF-2とEMDそれぞれの症例を呈示し、私見としての使い分けを述べた。すなわち、EMDは歯根面の生物学的コンディショニングと安定した一次閉鎖が得られる症例で、術式の整合性と相まって良好な再現性が期待できる。一方、rhFGF-2は創傷治癒反応の賦活を狙い、軟組織条件の改善や血管新生を期待した設計と親和性が高いと考えている。いずれも〝魔法の材料〟ではなく、欠損形態(深さ・角度・壁数)、軟組織の厚み、清掃環境、術者の経験といった文脈の中で最適な選択・組み合わせを行うことが前提である。再生療法を支えるチームアプローチ
結論として、再生療法の成果はクリニックの"チーム力"の反映であると述べた。術前からプラークコントロールの徹底、禁煙指導、血糖管理を含め歯周基本治療の完遂を目指すが、これには器具選定の個別化が決定的な役割を果たす。また、術後は機械的プラークコントロールで、創部の細菌学的静穏を守る。これらは外科の"外"に見えるが、実際には再生療法の内在的成功条件であり、決して歯科医師単独では達成できない。さらに、ここでいうチームには歯科医師・歯科衛生士のみならず、受付・助手までが含まれると考えている。
今回は時間の都合で詳述できなかったが、初診電話の受け止めに始まり、通院中の不安や不満の聞き取り、術前説明と同意、SPTのリコール運用、予約確認に至るまで、医院が患者の付着を守る臨床は、前線から後方支援までの連続体である。われわれが目指すのは、単に手術が巧みな医院ではなく、患者の一生の付着を守れる医院である。
そのために、患者セルフケアの質を軸とし、一次治癒を達成するための外科設計と適切な材料選択、そして病因論や治癒に関する学習と技術改善を積み重ねることが、もっとも確実で再現可能なアプローチであると考えている。このようなわれわれの試みを供覧いただくことで、当日ご参加くださった先生がたの臨床の一助になれば幸いである。
(2025年10月5日、歯科定例研究会より)
図1 歯周治療の目的は歯周ポケットの深さを小さくすることではなくCALを維持することである
図2 PDLの持つポテンシャルを引き出すための臨床生物学的要件
図3 Papilla Preservationは一次治癒に効果的である











