歯科2025.11.09 講演
歯科定例研究会より
世界最先端の歯髄保存(2025年11月9日)
東京都・岡口歯科クリニック 院長 岡口 守雄先生講演
従来の歯髄診断とその課題
現在、我が国やAAEの歯髄保存の診断基準は可逆性・不可逆性歯髄炎の二つに分類されている。ヨーロッパ歯内療法学会(ESE)においては2017年のウォルターらが提唱するイニシアル、マイルド、モデレート、シビアの四つに分類されており、従来不可逆性歯髄炎と診断された症例においても、可逆性歯髄炎が含まれている可能性を強調しており、より歯髄保存的な診断になったといえるが、いずれの分類でも臨床症状の強さを基準に分類されている。ドミニコ・リクッチ先生の病理切片から、不可逆性歯髄炎と診断された歯髄であっても歯冠部の一部に壊死部を認めるも、他の歯冠部・歯根部歯髄は全くの健全歯髄であることも示されている。
また、う蝕の進行が歯髄に近接するにともない臨床症状が強くなり、炎症が髄角に及ぶ時期が最も自発痛が強い時期であり、さらに壊死が進行すると臨床症状は弱くなってくることから、歯髄疾患の進行度を示す指標として臨床症状の強さだけでは正確に歯髄の保存を診断することはできない。
そこで私が考える理想の歯髄の診断基準として壊死がどこまで進行しているかを診断基準にすべきであると考える。医科において癌の進行はどの組織まで進んでいるかをステージで表しているように歯髄疾患も同様の考え方が必要である。
歯髄疾患のステージ分類
このような考えをもとに歯髄疾患の進行度を五つのステージに分類した(図1)。・ステージ0:う蝕が進行していてもその影響が歯髄にはなく正常な歯髄の状態である。
・ステージ1:う蝕が象牙質に進行し、それにより冷水痛などの一時的な反応を示し始め、組織学的には歯髄充血状態にある。
・ステージ2:う蝕などの感染源が歯髄の髄角部に及び始め、冷水痛や自発痛も強くなり、組織学的には一部性の歯髄炎状態にある。
・ステージ3:壊死部が歯冠部歯髄に及び、冷水痛や自発痛も強く、打診痛も示し、組織学的には歯冠部歯髄に炎症が波及している状態である。
・ステージ4:歯髄壊死が歯冠部から歯根部にまで波及し冷水痛・自発痛また打診痛にも強く反応し始めて、組織学的には歯根部歯髄にも炎症が波及している。
・ステージ5:壊死が根尖部まで及び、臨床症状は弱くなり、組織学的には全部壊死状態にある。
このように歯髄の壊死がどの部位まで進行しているかをステージで示すことができれば、そのステージごとに対応する治療法も示すことができる(図2)。
・ステージ0:感染源除去後に接着性の修復治療
・ステージ1:感染源除去後に接着性の修復あるいは間接覆髄処置
・ステージ2:髄角部の直接覆髄処置
・ステージ3:根管口部の断髄処置
・ステージ4:根管内の断髄処置または抜髄処置
・ステージ5:感染根管処置
このようにステージ診断に対応した治療方法を示すことが可能となり、診断と治療方針の一致の観点からも望まれる分類であるといえる。
感染源除去と歯髄保存の基本手技
さらに今回う蝕による感染源をどこまで、どのような器具・機材で除去すべきかを示した。例えば、手用の切れるエキスカベーターを用いてう蝕を除去することにより細菌が多く含まれる軟化象牙質は除去できる。また、回転切削器具例えばマニー社のMIステンレスバーやMIステンレスハードバーを用いることにより効率よく軟化した象牙質だけを除去できることがデータより示されている。さらに実際にう蝕検知液で染色される軟化象牙質をこのような器具・機材で切削した削片の中に細菌がどれだけ含まれているかを位相差顕微鏡を用いて調べた結果も動画を用いて供覧した。このような歯髄保存の基本的な考え方に基づいてステージ1から5までの臨床症例を紹介したが、基本的な手技は三つに分けられる。まず始めに最小限のアクセスオープニングを行いう蝕が歯の側面:歯頚部に近い場合にはう窩の外周だけの軟化象牙質を十分除去しコンポジットレジンを用いて隔壁処置を行う。この処置を行うことにより、MTAセメントの充填が容易になり、たとえ露髄したとしても感染のコントロールがしやすくなり、術後のマイクロリーケージの予防にもなる。
次に歯髄に近い部位の軟化象牙質の除去にはマニー社のMIステンレスバーを用いて大まかに軟化象牙質を除去しさらに歯髄に近い部位は手用のOKゴールドエキスカを用いて丁寧に残存する軟化象牙質を除去する。完全に除去できれば、MTAセメントを間接覆髄として用いて充填処置、もし痛みがあり残存している軟化象牙質が全部除去できていない場合には可及的に除去後、同様の処置を行い、約3カ月以降経過後に再度残存する軟化象牙質を除去する。軟化象牙質の除去時に露髄する場合であっても周囲の軟化象牙質を十分に除去し止血するまで待ち、MTAセメントを充填する。
最後にMTAセメントが初期硬化した後にボンディング処置を行い、コンポジットレジン充填処置を行うのが理想である。
ステージ分類の意義
今回、歯髄保存の診断基準としてステージ分類を提唱し、それに基づいた症例を多数紹介したが、これらの症例のほとんどが従来の基準であれば不可逆性歯髄炎と診断されていたと思われるが、そのほとんどが歯髄の保存が可能であった。歯髄保存で最も大切なことは生きている歯髄を可及的に残すことであり、これにより歯を長期間口腔内に機能させることが可能となる。そのために歯髄疾患のステージ分類は有用であると考える。
(2025年11月9日、歯科定例研究会より)
図1 歯髄疾患のステージ分類と臨床症状
図2 歯髄疾患の進行度によるステージ分類












