環境・公害対策部だより
東日本大震災・福島第一原発事故被災地訪問・線量測定レポート(2026年5月3日~5日) 長期間残り続ける放射能汚染 元京都大学原子炉実験所助教 小出 裕章氏
2026.06.25
飯舘村・小宮集落の大久保金一さんがつくる桃源郷「マキバノハナゾノ」で、大久保さん(右3人目)を囲んで。左端が筆者
写真1 大久保金一さん建屋付近
写真2 桃源郷
写真3 桃源郷地面近く
はじめに
膨大な放射能が大気中に放出され、東北地方・関東地方の広大な地域が、日本の法令を守るなら「放射線管理区域」にしなければならない汚染を受けた。放射能の主成分はセシウム137で広島原爆が放出した量に換算すると186発分であった。その半減期は30年である。事故から15年以上の歳月が流れたが、セシウム137は約7割が残っている。
兵庫県保険医協会の方々と一緒に汚染の調査を行ったのは、たしか2018年9月が初めだったと思う。2022年春からは毎年、汚染調査を続けてきて、その都度、調査結果を報告してきた。今年は、5月3日から5日にかけて調査を行った。今回は、その結果を報告する。
使用した機器の応答
空間線量率は平均値38.0nSv/h(0.036μSv/h)、標準偏差6.2nSv/hで安定している。1時間だけの測定だったが、異常値は一度も出なかった。昨年も同様のテストをした。その時のテスト結果と比較するため、線量率の平均、標準偏差を表1に示す。
ここで線量率の値は[nSv/h]で示してあるが、福島原発事故の汚染がない場ではそれの方が見やすいためであり、本報告で使っている[μSv/h]に換算するには1000分の1にすればよい。
5月3日に、松本市を出、在来線の列車と北陸新幹線を乗り継いで大宮に出た。大宮から東北新幹線で福島に行ったが、その途中の車内での測定結果を図2に示す。
大宮から福島までの車内では、昨年と同様おおむね0.02~0.03μSv/h程度の線量率で安定していた。そして、昨年と同じように那須塩原駅を通過した後には、0.1μSv/hを超える場所があったし、0.7μSv/hまで増加した場所があった。トンネル内を通過していた時にそうした値が出たが、これも昨年と同じように、ひょっとするとサーベイメーターの誤表示の疑いをぬぐえなかった。あるいはトンネル内は降雨による洗浄効果がないため、汚染が残っている可能性もある。ただ、新幹線は速度が速く、測定器の時定数の間にトンネルを通過してしまったりして、局所的な汚染を見るには不適切である。
福島現地での測定
車内での線量率は昨年と変わらずおおむね0.02~0.04μSv/hで推移した。市街地を出た山中の道路では時々1μSv/hを超える値が出た。
飯舘村では、毎年訪れてきた小宮集落の大久保金一さんのお宅を訪問した。広大な敷地はますます 「桃源郷」と呼ぶにふさわしくなり、遅咲きの桜や、水仙で埋め尽くされていた。「移染」作業が行われた大久保さんの家屋周辺の空間線量率は 0.1から0.3μSv/h程度で収まっている(写真1)が、ほとんどの場は汚染がそのまま残っている。大久保さんの桃源郷内を測定して歩いたが、0.5μSv/hは当たり前 (写真2)、特に高い場所では7μSv/hを超えた(写真3)。
次に、佐須集落の菅野芳子さん、前田集落の細杉今朝代さんのお宅を訪問した。途中の道路上では 0.5μSv/h程度の場所もあったが、菅野さん、細杉さんのお宅の内部では、おおむね0.03~0.08μSv/h程度であった。「移染」作業の効果であろうが、それでも福島市内に比べれば倍程度高い。
次に、南相馬市に行き、故・若松丈太郎さん宅を訪問、その後昼食をとったが、室内での線量率は0.03~0.05μSv/h程度であった。
その後、常磐道を通って楢葉町の宝鏡寺を訪ねた。移動中の車中で測った線量率はすでに図3に示してあるが、路側帯のモニタリングポストでは1.6μSv/hという表示もあった。
宝鏡寺境内での線量率は前回と同様0.03~0.05μSv/h程度であった。境内にある原発事故・核被害を伝える「伝言館」はお亡くなりになった早川篤雄住職のお連れ合いの千枝子さん、福島原発事故避難者でもある丹治杉江さんが守ってくれていた。
おわりに
今年もまた兵庫県保険医協会のお世話になり、福島原発事故被災地の空間線量率測定を行うことができた。結論を一口で言うなら、「移染」作業で汚染土がはぎとられた場所での空間線量率は下がっているが、そうでないところは当然のことながら汚染が残っているということであった。
汚染の主成分のセシウム 137は100年経つと10 分の1に減ってくれるが、今後長期間にわたって汚染は残る。また、 「移染」して中間貯蔵施設に移した汚染土も消えたわけではない。15年前に発令された 「原子力緊急事態宣言」は今後も長期間に亘って解除できないであろう。















