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第58回総会での理事長あいさつ
2026.06.21
本日はご多忙の中、総会にご参集いただきありがとうございます。 また、日頃より地域医療の最前線を支え、協会の活動にご理解とご協力を賜り、感謝申し上げます。
さて、この一年を振り返りますと、私たち医療機関は「複合的危機」と呼ぶべき状況に直面しました。
長年にわたる「診療報酬抑制政策」に加え、急激な物価高騰、人件費の上昇、人手不足が、地域医療の現場を直撃しています。
さらに、国際情勢の緊迫化は、医療物資や医薬品の供給不足という形で医療現場にも影を落としました。
本会のアンケートでも、約85%の医療機関が「物資の供給に支障あり」と回答しています。 「平和なくして医療なし」を実感した一年でした。
現在、病院・診療所、公私を問わず、多くの医療機関が赤字経営に苦しんでいます。 しかしこれは、個々の医療機関の過剰投資や放漫経営、努力不足によるものではありません。
医療機関の赤字拡大は、国の制度設計が生み出した構造的な外的要因によるものです。
にもかかわらず、今回の診療報酬改定はプラス3.09%にとどまりました。 この改定幅は、私たちが求めてきた「10%増」とは、大きな乖離があり、医療機関の根本的な経営改善には到底及びません。
そもそも診療報酬は公定価格であり、「収入対策」として、民間企業のように価格を引き上げることはできません。
一方で、医療は典型的な「労働集約型産業」であり、「支出対策」としての「安易な人員削減」や「過度な効率化」は、医療の安全と質の低下、ひいては患者さんの命と健康を危険にさらすことに直結します。
経済学には「ボーモルのコスト病」という理論があります。 これは「対人サービス業では、生産性向上には限界がある」という考え方です。
医療現場に、自動車の製造ラインのような機械化や時間短縮をそのまま持ち込むことはできません。
ガソリン自動車が誕生してからおよそ140年が経過した現在、世界の自動車生産数は、1日に約25万台です。
しかし、それ以前に活躍したナイチンゲールの時代から現代に至るまで、患者さんの傷の包帯を交換し、患者さんに寄り添う「時間」を劇的に短縮することはできていません。
現在の高度な外科手術において、術前・術中・術後に必要な人数や時間は、容易に削減できません。
医療現場における「生産性の向上」は、単なる業務効率化にとどまりません。
医療の質や安全性の確保、診療報酬制度との整合性など、経済・財政面を超えた多面的な評価が必要となる極めて難度の高い課題です。
もちろん、私たちは医療DXを否定するものではありません。
現場の負担軽減と医療の質向上に資するものであれば積極的に活用されるべきです。
しかし、患者情報の収集と営利化を目的として、十分な検証や合意形成を欠いたまま医療DXを進め、現場にさらなる負担を強いることは、本末転倒です。
真に精査すべきは、医療現場の効率や生産性追求よりも、現場の現実から乖離した政策決定のあり方ではないでしょうか。
医療現場の経営危機と並んで、私たちが極めて深刻に受け止め、反対していかなければならないのが、国が進める公的保険制度の縮小の動きです。
今年は重大な変化として「一部保険外療養」の仕組みが制度化され、公的保険の範囲を狭める動きが加速しています。
この制度変更は、従来の「評価療養」や「選定療養」などの「保険外併用療養制度」とは本質的に異なり、公的保険への「上乗せ」ではなく、「保険給付」からの「外出し」といえるものです。
政府や財務省は「給付の重点化・効率化」や「セルフメディケーションの推進」と説明していますが、実際には、公的保険診療の範囲を縮小し、患者負担へと転換していく仕組みに他なりません。
これは、単なる「OTC類似薬の保険外し」にとどまらない、これまでと質と次元が違う「健保大改悪」です。
「必要な医療は、国が等しく保障し、公的保険として現物給付する」という国民皆保険の理念が崩されれば、「患者負担の増加」「受診抑制」「早期発見の機会喪失」、さらには経済格差による健康格差の拡大へとつながります。
私たちは、「保険外し」には断固として反対します。
さらに私たちが社会へ向けて強く訴えかけていかねばならないのは、医療や社会保障の総合的、多面的、本質的な価値についてです。
医療は決して経済成長の足を引っ張る「お荷物」ではありません。
兵庫県は、大都市部から中山間地域、離島にいたるまで、日本の地域医療が抱える多様な課題が凝縮された地域です。
病院統廃合などが進められてきましたが、それらが及ぼす影響は、医療提供体制だけに留まりません。
地域において医療機関は、住民の健康と命を守る砦であると同時に、雇用を支え、地域経済を循環させる重要な基盤でもあります。
社会保障は単なる「コスト」や「消費」ではなく、国民の命と生活を支える重要な「社会的インフラ」であり、未来への投資そのものです。
政府は特定の戦略分野への中長期的投資を進めていますが、国民が今最も必要とし、将来世代に安全と安心を送り届ける重要な資産こそ、医療・社会保障の充実です。 この事実を、私たちは社会に向けて強く発信しなければなりません。
一人ひとりでは抵抗し難い医療改悪の波であっても、私たちが声を束ね、連帯すれば、必ず押し戻すことができます。
協会としても、署名活動、国会要請、マスコミ発表などに力を入れ、成果を上げてまいりました。
私たち執行部は、「開業保険医の生活と権利を守る」「住民とともに地域医療の充実・向上をめざす」、これらの達成に向け、今年度も全力を尽くします。
会員の声を集め、事務局と一致団結し「頼りになり、役に立つ協会」として活動していくことをお約束し、私の挨拶とさせていただきます。
兵庫県の地域医療は、会員の皆さまの努力で支えられています。共に未来を切り拓いていきましょう。ご清聴ありがとうございました。




