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プライマリケアのための関節のみかた 上肢編(下)―肩関節の診察 [臨床医学講座より]

西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演

 一般に、肩関節由来の痛みでは三角筋付近に痛みを訴えるが、頸椎由来の放散痛では僧帽筋付近に痛みを訴えるものである(図1)。肩の場合、夜間就寝時に痛みを訴えることも多い。これは就寝時、肩は心臓よりも下になり静脈のうっ血を起こすためと考えられる。
 急性心筋梗塞での肩への放散痛は、左よりも右肩・腕に放散する痛みの方が、急性心筋梗塞のオッヅ比が高い(Harrison's Online, Chapter13. Chest Discomfort)。
 頚椎神経根症による放散痛は、C5あるいはC6の場合は僧帽筋上縁付近に、C7あるいはC8の場合は肩甲骨あるいは肩甲骨間付近に出ると言われる。
 肩の診察には、検者は患者の後ろに立つとよい。触診は、まず胸鎖関節から始める。
 日本でよく見られる掌蹠膿胞症では、胸鎖関節の骨性強直を起こすことがある。鎖骨を外側へとたどる。鎖骨内側は、前方に凸であり外側は凹である。鎖骨骨折は中3分の1で多く、必ず圧痛がある。この場合、近位鎖骨は上へ(胸鎖乳突筋肉で引かれるため)、遠位は重力により下へ転位する。鎖骨の一番の窪みから2cmほど下へ探ると、烏口突起がある。ここは多くの靱帯や筋が付着するので、圧痛のあることが多い。烏口突起炎ということもある(図2)。
 烏口突起のすぐ外側が、肩関節裂隙である。肩関節造影は、ここから注入する。
 肩鎖関節は鎖骨外側と肩峰との間であるが、鎖骨より肩峰の方が下がっているのでここに段ができ、よく分かる。
 肩鎖関節脱臼ではここに圧痛があるし、完全脱臼なら鎖骨が上へ飛び出し押さえると、piano key signと称して、鍵盤のように下がる(正確には鎖骨が上がっているのでなく、肩峰が上肢の重みで下がっているのである、図3)。
肩峰外側から下へ降りると、大結節がある(図4)。肩腱板断裂は、この付近で起こる。突然の激痛とROM制限で発症する石灰化性滑液包炎も、ここに圧痛のあることが多く、局麻入りステロイドを注入すれば劇的に改善する。
 肩を内旋したまま肩を外転してみよう(手の甲を前に向けたまま肩を外転、図5上)。この場合、肩は115度以上外転できない。この理由は大結節が肩峰に衝突するためである。この時、回旋肩板(SITSと覚える:suprasupinatus, infrasupinatus, teres minor, subscapularis)が両方の骨の間に挟まれる。これにより起こる症状を、impingement症候群という。
 肩を外旋することにより(手の平を天井に向ける、図5下)、初めて大結節は肩峰に衝突せずに外転できるのである。外旋障害があれば、必ず完全外転はできない。外旋せずに無理に肩の外転を強制されると、肩峰がてこになり骨頭の前方脱臼を起こす。
 前方脱臼の場合、骨頭が烏口突起の下に来て肩峰が皮下に飛び出し肩章サイン(自衛官が肩に付けている階級章)という(図6)。

Impingement症候群の診断

 肩回旋腱板が肩峰と骨頭の間に挟まれて出る症状を、impingement症候群という。
肩を挙上するだけでなく、前かがみで肩を前に出して草取りなどをしても同じことである。
エコーでは、肩回旋腱板は厚さ6㎜以内であるが、impingement症候群ではそれ以上となる。
Neer's sign:肩をpassiveに挙上して、疼痛が再現される。棘上筋が肩峰の前下縁に当たることによる(図7左)。
Hawkin's sign:肩を90度屈曲し他動的に内旋し、疼痛の再現を見る。棘上筋が烏口肩峰靱帯に当たることによる(図7右)。
Painful arc:外転60~100度で疼痛がある。
治療は、局麻入りステロイドやヒアルロン酸製剤注入、NSAIDs内服等行う。

上腕二頭筋長頭腱炎の診断

 上腕二頭筋長頭腱のある結節間溝は、肩下垂し肘90度屈曲し肩10度内旋したとき真正面にくるので、この位置で触診するとよい。エコーを肩に当てれば、容易に分かる(図8)。
 軟部組織用のエコーでなくとも、腹部エコーのプローブでも充分である(拡大率は最大にして)。エコーでは肩腱板が腫脹してないか(厚さ6㎜以上はimpingement症候群)、あるいは断裂してないか、上腕二頭筋腱周囲に液貯留がないか(上腕二等筋長頭腱炎)などを見る。
 エコーは大変有用な武器であり、これを使うようになってから筆者は肩関節造影を行うことはなくなった。
 三角筋が発達していて結節間溝が分かりにくいときは、肩を少し内外旋しつつ触診すると分かりやすい。上腕二頭筋長頭腱炎はここに圧痛がある。
 Speed's test:前腕回外し(手の平を天井に向ける)60度肩を屈曲し抵抗をかけ、結節間溝付近に痛みが出るか。
 Yergason's test:肘屈曲90度で前腕回外し抵抗をかけて痛みが出るか。特に長頭腱の結節間溝からの脱臼傾向のある時、陽性に出る。
 肩峰から後方へ肩甲棘をたどる。肩甲棘は、第3胸椎棘突起のレベルにあると覚えよう。
 肩甲骨上角は第2肋骨のレベルにあるが、fibrositisを起こしやすくclickを触れることがある。肩甲骨下角は第7肋骨レベルにある(図9)。

肩の不安定性の診断(習慣性脱臼のような)

 Drawer test:骨頭をつかんで前方、後方へと引き出してみる。正常では前方への動きはわずかである。後方へは臼蓋の半分くらいの幅の動きがある。
 Crank test(Apprehension test):肩を外転・外旋し検者の母指で骨頭を後ろから押し、患者の顔に注目する。痛みでなくはずれそうな感じを陽性とする。前方不安定性をみる。
 肩関節鏡が行われるようになって分かってきた概念に、SLAP(Superior labrum anterior posterior)lesionといわれるものがある(図10)。野球のような投球動作で、上腕二頭筋の付着する関節唇の前上方が剥がれかかり、ピッチャーのいわゆる「dead arm」の原因となるものである。ただこれは、理学所見からは診断できず関節鏡診断になるので、投球動作後の肩関節痛の場合はSLAP lesionの可能性も考えたほうが良い。

肩関節周囲炎 frozen shoulder

 突然肩周囲に激痛が起こり、続いて肩関節拘縮が起こり、やがて1年前後で軽快していくもの。器質的異常がなく、肩をあまり使わないような人や手先の仕事をするような人で起こる。
 肩前方の腱板間隙部(rotator interval)や後方の方形腔(quadrilateral space)の炎症、烏口突起炎などが原因と言われる。

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