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学術・研究

医科2010.08.27 講演

プライマリケアのための関節のみかた 下肢編(1)―足を診る(上) [臨床医学講座より]

西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演

足のバイオメカ

 足は大変複雑であるが、メカニズムが解ると大変面白く、犬や猫を見ても頭をなでるよりも足が気になるものである。
 図1は、かつて筆者が愛読していたFOCUS誌に載っていた、プロテニスプレイヤーのモニカ・セレシュが内反捻挫した瞬間の写真である。足関節が底屈位で内反(内返し)しているのがわかる。捻挫は、大方この位置で起こりやすい。この理由は、外果(外くるぶし)が内果(内くるぶし)よりも下にあるためである。自分の足を触れて、これを確認していただきたい。
 足関節が底屈位で不安定になる理由は、図2のように距骨の上の関節面が前で広く後方で狭いためである。足を底屈すると左右によく動かせるが、背屈すると距骨の広い関節面が内果と外果の間に入り、あまり動かせないことでわかる(距骨とその下の踵骨との不安定性を見るには、背屈位で距骨を固定して踵骨を動かせばよい)。ギプスを底屈位で巻かれると、ギプス除去後に距骨の前方の広い部分が入らなくなり、背屈制限を起こすことがある。
 足には土踏まずの縦アーチと横アーチがあるが、図3のように足趾を背屈すると、この縦アーチが上へ持ち上がる。これは踵骨から起こって、基節骨に付着する足底腱膜が前方へ引っ張られるためであり、これをwindlass(巻き上げ機)mechanismという。ヒトの縦アーチは、猿より高い。
 ジャンプなどの繰り返しで起こる足底腱膜炎は、圧痛が踵骨内側の足底腱膜付着部にあり、起床時の最初の数歩を痛がるのが特徴である(図4)。重要なことは、足趾がMTP関節で背屈され続けていると(ハイヒールや小さな靴を常用していると)、PIP関節が屈曲しハンマー趾やかぎ爪趾変形(図3)を起こしやすくなることである。
 これは、内在筋(intrinsic muscle:骨間筋と虫様筋)はMTP屈曲とPIP・DIP伸展を、長・短趾屈筋はPIP・DIPを屈曲するが、MTP背屈され続けていると内在筋不全状態になり、相対的に長・短趾屈筋が優位になりPIPが屈曲するからである(intrinsic minus footという)。ハイヒールで起こるのは、外反母趾だけではないのである。縦アーチがひどく高いのを凹足(Pes cavus)といい、MTP伸展してかぎ爪変形を伴うが、大人ではCharcot-Marie-Toothであることが多い。
 舟状骨はこの縦アーチの頂点に位置し、ここには後脛骨筋が付着しているが、この腱の断裂(PTTD:posterior tibial tendon dysfunction:後脛骨筋不全)を起こすと、このアーチが崩れて扁平足になり太った中年女性でみられる。
 君の彼女または彼に立ってもらって、踵を後ろから観察しよう(図5)。アキレス腱は踵骨(正常では5度外反)に付着するが、爪先立ちになってもらうと踵骨は内側に傾く(内反する)。内反しない場合は、PTTD(後脛骨筋不全)を疑う。
 またリウマチで距骨・舟状骨間(Chopart関節)や距骨・踵骨間などの後足部の炎症を起こしても、この縦アーチが崩れ扁平足を起こす。大人になってからの扁平足を見たら、リウマチかPTTDを考える。
 扁平足になると前足部は外側へ外転して扇形に広がり、このために母趾基節骨は内転筋などにより外側へ引かれて、外反母趾になる。リウマチで外反母趾が多い理由である。扁平足でなくとも、ハイヒールなどの常用でも外反母趾は起こる(外反母趾角:X線で第1中足骨長軸と第1基節骨長軸のなす角度:正常〈15度)。
 静止起立時、体重は踵に5割、母趾球に3割、小趾球に2割かかり、第2、3趾にはほとんどかからない。歩行時の足底の荷重は踵外側にはじまり、第2、3中足骨に進み母趾外側に終わる。疲れると足の横アーチが広がって第2、3中足骨にも力がかかるため、ここに疲労骨折を起こしやすい。
 足趾が扇形に広がって足の横のアーチが低下すると、足底には第1と第5中足骨頭には十分な脂肪(fat pad)があるが、他の3本にはあまりfat padがないので、均等な体重負荷がかかると第2~4中足骨頭にタコ(胼胝:べんち)ができる。
 角質が円錐状に皮内に飛び出して上から圧迫すると痛むのを、うおのめ(鶏眼、hard corn)という。趾間にうおのめができると、汗で浸潤してsoft cornといわれる。いぼ(疣贅、wart)はウイルス疾患であるが、上からでなく横から圧迫すると痛み、黒いポツポツがあることで鑑別できる。

足底の観察

 踵骨下面中央部の痛みは、とくに骨折で免荷後や老人で足底脂肪萎縮(plantar fat pad atrophy)があり、歩行時に常に痛がる。
 踵骨前内側は足底腱膜炎(図6)の際圧痛があり、とくに起床時の最初の数歩を痛がるのが特徴である。こういった腱、腱膜の骨付着部炎をenthesopathyといい、脊椎強直炎や乾癬性関節炎などのseronegative arthropathyの一症状のことがある。
 母趾内側の痛みはたいていbunionと呼ばれる滑液包炎であり、外反母趾と合併しやすい。
 母趾のMTP関節で変形性関節症を起こして骨棘ができると、母趾を反らすことができにくくなり歩行での離踵時に痛みを訴え強剛母趾(Hallux rigidus)という。母趾をつかんで長軸方向にゴリゴリ捻ると(grind test)、症状が再現される。
 痛風発作は、母趾MTP関節に多い。立位で下方にある関節にはわずかに関節液があり、尿酸塩は昼間のうちは血漿の尿酸と平衡しているが、夜寝ると関節液は吸収され尿酸濃度が高くなる。また足趾は、温度が低く尿酸の溶解度が低い。したがって、母趾の痛風発作は夜に出やすい。
 母趾のMTP関節足底の痛みは、二分種子骨あるいは種子骨炎を考える。
 思春期(10~18歳)で第2中足骨頭の圧痛の場合(体重負荷が大きい)、無腐性壊死のFreiberg disease(第2Koeler病)のことがあり、骨頭が変形してくる。小児(3~7歳)の舟状骨の無腐性壊死は、第1Koeler病(放っておいてよい)という。すべての中足骨-指骨関節の腫脹はリウマチに特徴的で、腫れて足趾が開き間から日の光が見えdaylight signという。
 第2、3中足骨骨幹部に圧痛がある時は、疲労骨折を考える(前記)。陸上競技などで見られる。当初は痛みだけでシンチでないと診断できないが、受傷後2~3週で中足骨骨幹部に仮骨ができ疲労骨折と診断できる。
 歩く際、第3、4中足骨間で痛みがある場合や第3、4趾間に放散痛があるときは、Morton's neuromaを考える。第3、4趾間で総趾神経が横中足靭帯で絞扼されて、神経周囲が繊維化してneuromaができる。この時、前足部を両側からつかむと疼痛が誘発され(Mulder's sign)clickを感じることがある。第3、4趾間の知覚低下を調べよう。

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