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子宮頸癌の予防ワクチン [診内研より]

神戸市立医療センター中央市民病院 産婦人科部長 北 正人先生講演

はじめに

 子宮頸癌は、予防できる癌です。その理由は、1.原因が発癌性ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)であると分かっている、2.前癌病変が異形性という病態として存在することがわかっている、3.その前癌状態を早期発見するための有効な検査法が細胞診、HPV-DNA検査として確立している、4.予防ワクチン(HPVワクチン)が実用化されている、以上です。
 しかし、全ての子宮頸癌がワクチンで予防できるわけではありません。したがって、ワクチン接種後も検診は大切です。

早期発見が可能な子宮頸癌

 子宮頸癌は、検診の普及に伴い早期発見が可能となり、早期に発見されれば高い治癒率(0期ならほぼ100%、1期で約90%)が得られることから、近年死亡数の減少が見られます。しかし、子宮頸癌は女性の癌の中でみると、世界中で第2番目に多く発生している癌であり、日本でも毎年約8000人が罹患し、進行期での治癒率はいまだ悪いため(3期で50%、4期で15~20%)、約2500人が子宮頸癌で亡くなっています。
 特に近年、20歳代、30歳代の若年女性の発生数、死亡数の増加がみられ、それぞれの年代において最も頻度の高い癌となっています。

HPV感染が原因

 子宮頸癌は、発癌性ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)の感染が原因です。発癌性HPVは性交渉によって感染しますが、特別な人だけが感染するのではなく、ほとんどの女性が一生に一度は感染すると言われているほど一般的なウイルスです。
 ウイルス感染を起こした女性のごく一部が発癌すると考えられており、感染から発癌までも通常は数年以上のゆっくりとした経過をたどります。発癌性HPVのうち、子宮頸癌から最も多く見つかるタイプは、16型と18型で、子宮頸癌のうち、約8割を占める扁平上皮癌の原因の7割がこのウイルスによるものと考えられています。また、HPVが原因であることは少ないと考えられていた腺癌も、HPVが原因である場合が多いことも明らかにされつつあります。

ワクチンは感染予防

 このたび日本でも発売認可された子宮頸癌予防ワクチンは、この二つの型のHPV感染を防ぎます。ワクチンの型が一致する場合には、100%近い有効率が報告されています。また、感染性のない人工のウイルス様粒子を抗原として用いているので、安全性の高いワクチンと考えられています。
 ただし、このワクチンは感染を防ぐワクチンであり、感染を起こしたウイルスを駆逐する効果はありません。したがって初感染する前に接種する方が有効であることから、100カ国以上の諸外国では9~16歳の女児に対して優先的に接種が行われています。
 日本でも、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本婦人科腫瘍学会が、11~14歳の女児に対して優先的に接種することを勧めています。また、HPVは、自然感染による免疫反応が弱く何度でも再感染することから、15~45歳までの女性に対してもワクチン接種をすることが勧められています。
 医療経済的に検討した場合も、日本で12歳女児全員に無料でワクチン接種した場合、全体で190億円の医療費が抑制されると報告されています。そのため、世界的に全額公費負担で接種を施行している国が多いのです。日本でも、市町村レベルで公費助成の動きが広がっています。

HPVワクチンの問題点

HPVワクチンの問題点としては、以下のような項目があげられます。

1.副作用はないか?
 現時点で公式な重篤な副作用の報告はありませんが、世界的に非常にたくさんの女性が今後受けると予想されるワクチンです。これまでのワクチン接種の経験を踏まえて、世界的な監視・情報開示が必要であり、われわれ医療従事者も常に関心を持ち続けなければなりません。
2.何歳でワクチン接種を行うか?
 医学的効果を考えると中学入学前が理想的ですが、性交渉により感染するウイルスに対するワクチン接種時に、性教育はどうするのか検討されなければなりません。性教育としては中学入学後が適当かもしれませんが、任意接種のままでは経験的に中学生での接種率は上がらないと言われています。
3.有効期限は何年か?
 理論上は20年以上十分な抗体価が持続すると言われていますが、今後、経時的な検証が必要です。どれだけ抗体価が下がると危険かというデータもありません。12歳で接種して、30歳代後半以降に抗体価が下がってHPV感染を起こし、40歳以降で発癌患者が増えるようなことがあってはなりません。
4.誰がワクチン接種を行うか?
 小・中・高校生が受診しやすく、ワクチン接種にも慣れているのは小児科医・内科医でしょう。一方、正しい啓蒙・説明・検診などは産婦人科医でなければできません。接種率の向上とその後の検診を欠かさないためにも各分野の医師の協力が必要です。
5.ワクチン接種をどこで行うか?
 現時点では、接種はクリニック・病院などで行われていますが、接種率を上げるためには、他のワクチン同様、学校での一斉接種が検討されなければなりません。
6.費用負担は?
 公費負担にしないと接種率は上がらないことは、自己負担である韓国が、接種率が1割以下であることなどからも証明されています。地方自治体だけでなく、国レベルの費用援助が必要でしょう。
7.頸癌に所得格差・情報格差が関係する危険性
 ワクチンが公費負担となり、十分な情報提供がなされ、学校などでの一斉接種がなされなければ、所得が少ない・情報が得られにくい人が子宮頸癌にかかりやすい人となってしまう危険性が十分あります。
8.日本人に特異的な型のHPVに対するワクチンの開発
 16型・18型以外のHPVウイルスで発症する残り約3割の子宮頸癌も、さらに追加の型のワクチンが開発されればより発癌率は低くなります。また、発癌性HPV検出頻度は国によって違います。市場規模や安全性の問題がありますが、製薬メーカーには将来的にぜひ取り組んでいただきたい課題です。
9.ワクチンを接種しても検診は必要
 3割の子宮頸癌はワクチン接種でも予防できません。また、抗体が終生維持されるかも未確認です。また、すでにウイルス感染を起こしている子宮・癌化しかかっている、またはすでに癌化している病変を治療することもできませんので、定期的な子宮頸癌検診の受診がこれまで通り必要です。ワクチン接種と検診両方により、子宮頸癌の予防が可能なのです。さらに、ワクチン接種とともに、先進諸国に比べ極端に低い子宮頸癌検診受診率の向上も重要な課題です。
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