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学術・研究

医科2010.09.05 講演

高齢者肥満に対する減量治療最前

川西市 中村整形外科リハビリクリニック  管理栄養士  玉城由美、樺井由美
看護師 岡野孝子、松田名津子 検査技師 柳 良江 医師 中村 巧

はじめに

 2006年から特定健診・特定保健指導が始まり、内臓脂肪の蓄積やメタボリックシンドロームが、さまざまな病気のリスクを高めることが知られてきた。しかし、高齢者に関しては依然として体重減少を防ぐ、栄養をしっかり摂るばかりが重要視されていると思われる。
 2007年国民健康・栄養調査によると、近年、特に男性で60~69歳と70歳以上で肥満が増加傾向にある。

1、当院肥満外来での年齢分布(1104人)

 当院では2003年7月から2009年6月までの6年間で、15歳から88歳までの1104人に肥満外来を行った(図1)。65歳以上は436人で、全体の約40%であった。

2、当院肥満外来での要点

 1)体重・体脂肪・内臓脂肪・筋肉率・腹囲を計測し、エコー検査で皮下脂肪厚や内臓脂肪厚、脂肪肝の程度を測定。
 2)医師からレジメを使って、肥満外来についての説明を行う。
 3)1日2回測定し、グラフ化体重日記をつけてもらう。
 4)毎月1回個別で管理栄養士と医師の両者がアドバイスを行う。
 皮下脂肪、内臓脂肪、脂肪肝、頚動脈エコー検査については、患者に減量開始前と減量途中の経過を実際に目で見て違いを確認してもらう(図2)。
 脂肪肝は点数化して表示し、画像と点数を表示する。0点が正常で8点が高度脂肪肝になる(図3)。
 減量による明らかな皮下脂肪・内臓脂肪の改善を、患者自身の目で確認してもらうと、飛躍的にモチベーションが上昇する。
 2010年版厚生労働省発行の日本人の食事摂取基準と、当院で行っている低炭水化物食の栄養素摂取割合を比較した円グラフを図4に示した。当院では摂取カロリーのみでなく、3大栄養素の摂取割合にも重点をおいている。
 従来標準的な糖質50~70%、たんぱく質15~20%、脂質20~25%の割合に対して、当院では各々3分の1ずつの割合になる(中村・板東式21世紀アンチエイジング・健康食ピラミッド、図5)。
 個別の栄養指導の特色としては、患者とコミュニケーションをとりながら話をしっかり聞き、個人に合わせた減量のやり方を一緒に考え、自発的に減量意識を高めるようにもっていく、認知行動療法をとっている。
 また、京都府立医大の吉田俊秀先生も述べているように、減量においては目的をはっきりさせることが重要になる。例えば、短期目標として腰痛改善、中期目標として若い頃の洋服を着る、長期目標として孫の結婚式に出席したり、海外旅行に行くなどのように、具体的に立ててもらうことが重要である。マズローの5段階評価を行っている。

3、減量率 (65歳以上の436人)(図6)

 65歳以上の436人中95%が減量に成功し、5%以上減量が51%、10%以上減量が19%であった。平均では、男性が元の体重に比べ5.9%、女性が6.5%、それぞれ減っている。

4、減量成功例

 88歳男性、身長160㎝、変形性膝関節症による膝関節痛で来院し、来院時67.3㎏(BMI26.3)が、1年後5.9㎏減量し61.4㎏(BMI24.0)となり、膝関節痛は解消した。
 体脂肪率が28.2%から21.3%に減り、筋肉率が25.8%から28.3%に増え、血糖値・中性脂肪・LDL・尿酸値もすべて改善した。

5、現在通院中123人中疾病別減量成功者データ(表)

 高血圧患者27人中19人が血圧が低下、脂質異常症患者26人中18人がLDL改善、糖尿病患者22人中15人がHbA1cの数値が改善した。

6、考察

 1)肥満や糖尿病に対する低炭水化物食の有用性は、米国や英国で論文として発表されつつあり、抗加齢医学会でも話題としてあがりつつある。
 2)エコー検査による皮下脂肪・内臓脂肪および脂肪肝の半定量評価は、患者の目で見て確認でき、モチベーションを高めるには絶大な効果がある。ぜひ、活用されたい。
 3)認知行動療法により、目的を明確化し、押しつけでなく自発的に減量していく方法を醸成していきたい。
 4)高齢者は、薬を多く服用している人が多い。生活習慣病・肥満には、薬や注射に極力頼らないという信念のもとに、食事と運動を啓発していきたい。

7、まとめ

 高齢者も本人のやる気と適切な方法により、健康的な減量は十分可能である。特に高齢者の肥満はロコモティブシンドローム(運動器症候群)や要支援、要介護へ直結しやすいため、早期に健康的に減量すべきと考える。

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