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学術・研究

医科2010.09.24 講演

認知症の基礎知識 -アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型-

西宮市・つちやま内科クリニック 土山 雅人先生講演

はじめに

 本邦の認知症患者は現在200万人を超えると推定されており、10年後には300万人に達すると言われている。認知症は高齢者に多く見られる疾患で、65歳以上では7~8%、85歳以上では4人に1人が認知症であると考えられている。まさに認知症は、地域のかかりつけ医にとってcommon diseaseである。
 認知症は、「正常に達した知的機能が後天的な器質性障害によって低下して、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」である。認知症の診断には、高次脳機能検査や画像検査なども重要であるが、それ以前に個々の症例における日常の生活場面での変調について情報を得て評価することが必要である。
 「後天的な器質性障害」には、表1に挙げたような種々の疾患が含まれる。慢性進行性の神経細胞の脱落・消失をきたす変性型認知症が全体の70~80%を占めるが、一部には治療可能の認知症(treatable dementia)があることも留意すべきである。今回は、変性型認知症の代表的な三つの疾患について、簡単に解説する。

1、アルツハイマー型認知症(表2)

 一般に側頭葉内側部の記憶中枢である海馬の障害から始まるため、病初期では最近の記憶(数分から数日程度の近時記憶)が思い出せない、新しいことが憶えられない(記銘力障害)などの症状が見られる。しだいに日時や場所、周囲の人物などの認識(見当識)も障害されるようになり、病変が側頭頭頂連合野に広がるにつれて失語、失行、失認などの高次脳機能障害がみられるようになる。さらに前頭葉にも障害が及ぶと、実行機能(物事を段取り良く行う能力)の障害が現れ、抑制機能の障害(行為の保続や脱抑制...)に至る。
 上記の記憶障害や高次脳機能障害などの認知機能障害は、神経細胞の変性による病状の進行に並行した症状で、従来から中核症状と呼ばれている。一方、環境や体調、本人の性格などの種々の因子が影響して生じる精神症状や行動障害(幻覚、せん妄、暴言・暴力など)は、最近では認知症に伴う行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)と呼ばれるようになった。BPSDは本人の苦痛や苦悩になるのみならず、介護者の介護負担を増大させる点からも、その適切な対応(家族教育、環境調整、ケアの工夫、薬物療法など)が重視されている。

2、レビー小体型認知症(表3)

 1970年代に日本で初めて発表された認知症で、その後国際的にも広く認識されるようになり、最近になって診断のためのガイドラインが整備されてきた。認知機能障害の変動が激しいこと、臨場感のある生々しい幻視を伴うこと、パーキンソン症状を認めることが特徴として知られている。抗精神病薬などの薬剤に対する過敏性があるところから、薬物療法は慎重に行う必要がある。また易転倒性や一過性の意識消失発作、高度の自律神経障害、睡眠行動の異常などもあり、ケアにあたっても注意が必要である。
 最近では中脳の黒質にレビー小体の出現を認めるパーキンソン病との関連が注目され、「パーキンソン病」と「認知症を伴うパーキンソン病」、そして「レビー小体型認知症」は一連の線上にある疾患と認識されている。

3、前頭側頭型認知症(表4)

 初老期(64歳以下)に発症することが多く、若年性認知症の原因疾患として重要である。前頭葉は、物事を計画して実行する、物事に対する興味や関心を保つ、反射的・本能的な行動を抑制して理性的にふるまう、他人の気持ちを推し量って行動するなどの「物事を考える」働きをしているため、前頭側頭型認知症では特有の精神症状や行動障害が前面に出やすい。一方、記憶の障害や視空間認知機能の低下は軽度で、身体の活動性が高いことが多い。
 本人に病識がなく、本能のままに行動する傾向(going my way behavior)があり、常同行動(特に時刻表的生活パターン)を阻止されると脱抑制のため短絡的な暴力行為につながることが多い。一方で、ひとつの行為を持続することができず(例えば、診察中にも急に部屋を出て行く:立ち去り行動)、外的刺激に対し反射的に行動する(例えば、介護者が首をかしげると無意識に真似をする、同じ言葉を繰り返す...)ことがみられる。

おわりに
 変性型認知症では、病理学的背景に応じて各病型の臨床像は異なり、各々の特徴に応じた対応が重要である。なお、認知症については代表的なテキスト1)、2)以外にも、専門家による分かりやすい解説書3)がある。
文 献
1)日本認知症学会編:認知症テキストブック.中外医学社,2008.
2)神経内科編集委員会編:認知症診療マニュアル.科学評論社,2010.
3)池田学:認知症 専門医が語る診断・治療・ケア.中公新書(2061),中央公論社,2010.
(西宮・芦屋支部第24回在宅医療研究会より)

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