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学術・研究

医科

プライマリケアのための関節のみかた 腰痛診断(上)[臨床医学講座より]

西伊豆病院(静岡県)院長 仲田 和正先生講演

1、腰痛の多くは確定診断ができない

 腰痛症は大変頻度の多い疾患であるが、MRI等をもってしても、その多くは原因が確定できない。発症時の症状が強烈な割には予後良好であり、90%は1カ月で回復してしまう。
 家庭医を受診した腰痛患者の70%が診断確定できず、椎間板ヘルニアが4%、脊椎圧迫骨折4%、脊柱管狭窄症3%、脊椎辷り症3%、悪性腫瘍0.7%、化膿性脊椎炎に至っては0.01%である。1
 従って、急性腰痛に対して最初から、癌や感染症を目標にした血液検査や画像診断を行うことは適当でない。

2、赤旗兆候(red flags)に注意し、重大疾患を見逃さない

 癌や化膿性脊椎炎、圧迫骨折をルールアウトする赤旗兆候(red flags)といわれる質問事項がある。2,3,4
 一般的なred flagsとして、まず1カ月以上続く腰痛、夜間の安静時痛がある。
 癌を見つけるred flagsは、年齢50歳以上(感度0.77、特異度0.71)、癌の既往(感度0.31、特異度0.98)、説明のつかない体重減少(感度0.15、特異度0.94)、夜間の安静時痛(感度0.90以上、特異度0.46)、化膿性脊椎炎に対しては静注乱用・尿路感染・皮膚感染(感度0.40、特異度NA)、脊椎の打痛(感度0.86、特異度0.60)、発熱・悪寒、免疫抑制状態。
 圧迫骨折に対するred flagsは年齢70歳以上(感度0.22、特異度0.96)、外傷の既往(感度0.30、特異度0.85)、ステロイド使用(感度0.06、特異度0.995)。2
 理学所見では馬尾神経圧迫症状、特に肛門周囲のsaddle anesthesia、膀胱障害(尿閉、頻尿、overflow incontinence)、下肢のひどい神経症状、肛門括約筋の弛緩などに注意する。

3、赤旗兆候のない腰痛では、1カ月は画像診断不要

 以上の症状がなければ、とりあえずただの腰痛と考え、画像診断などの精査は1カ月はしなくてよい。

4、腰痛の性状から、多くの腰痛を鑑別できる

 脊椎由来の腰痛であれば、だいたい動作と関係する。一方、内臓由来の腰痛、たとえば膵炎、十二指腸潰瘍、腎盂腎炎、尿管結石などは動作とあまり関係がない(ただし膵炎の場合、丸くなった方が楽ではある)。この点が、腰痛が脊椎由来か内臓由来かの大きな鑑別点である。
 ただ大動脈解離の場合、多少動作と関係することがある。
 また安静時痛(寝返りの時でなくじっと寝ていても痛い)は、赤旗兆候に入っているように、炎症や癌を疑う重要な症状である。普通腰痛は安静で楽になるが、強直性脊椎炎では安静にしても痛むため、患者は夜歩き回るのが特徴である。
 腎盂腎炎なら、発熱、CVA(costovertebral angle)の打痛がある。尿管結石なら、腰から鼠径部、陰嚢への放散痛を伴う仙痛(colic pain)があるし、エコーで水腎症があれば有力な根拠となる。腎梗塞なら、たいてい心房細動、血尿があるし、疑ったら造影CTを行う。
 腹部大動脈瘤破裂は、腹痛、腰痛を伴うショック状態であるが、脊髄へのAdamkiewicz artery(Th10からL3の間で、大動脈から起こる主要な神経根動脈で下部胸髄から腰髄を栄養し前脊髄動脈となる)の破綻で、両下肢麻痺を起こすこともある。また腹部大動脈瘤破裂で、腸腰筋に血液が流れ込み股関節を屈曲する、いわゆるpsoas positionをとることがある。腸腰筋膿瘍でも、同様にpsoas positionをとることが多い。
 胸部大動脈瘤解離は、前胸部から背部、腰へと痛みが移動することがある。
 皮膚表面のピリピリした(やけどの時のような、電気が走るような)痛みの時は、いまだ発疹がなくとも帯状疱疹の可能性を考える。胸腰椎移行部の骨折の場合、痛みは腰部下方に感じることが多いので(関連痛)要注意である。
 特に老人で尻餅の後、腰部下方や側腹部を痛がる場合、腰椎下部のみのX線が撮られ、第12胸椎や第1腰椎の圧迫骨折が見逃されることがよくある。また、内科で肋間神経痛などと診断されているものの多くは、脊椎の圧迫骨折である。
 下肢への坐骨神経痛があれば、腰椎椎間板ヘルニアなどの神経根障害が疑われる。間欠性跛行がある場合は、血管閉塞による場合と腰椎脊柱管狭窄症のように、馬尾神経圧迫による場合がある。
 脊柱管狭窄症の時の坐骨神経痛は立っただけでも生じるが、血管閉塞による下肢の痛みは歩行により出現する。坐骨神経痛は下肢近位では痛み、遠位ではシビレが主体となることが多いが、血管閉塞では下肢遠位の歩行時痛が主体である。
 鑑別は、脊柱管狭窄は下肢神経症状の存在により、血管閉塞は下肢の血管の触診、ドップラーにより推定できるし、足関節の収縮期血圧/腕の収縮期の血圧(ABI)〈0.9の時は下肢血管閉塞を考える。
 足背動脈が触れれば、血管閉塞が否定できるわけではないことに注意しよう。
 両下肢のシビレでは、多発性神経炎も考える。坐骨神経は最も長い末梢神経だから、一番やられやすい。シビレが下腿の2分の1より上行すると、両手のシビレも起こりやすいといわれる。
 多発性神経炎の鑑別診断は、DANG THERAPISTである。
 すなわち、DM、Alcohol、Nutritional、Guillain-Barre、Toxic(heavy metals、drugs)、Hereditary(Charcot-Marie-Tooth、Dejerine-Sottas、Refsum)、Renal、Amyloidosis、Porphyria、Infectious、Systemic、Tumorである。
 また多発性神経炎のように、両下肢と両上肢のシビレが脊髄症(myelopathy)で起こることがあり、腱反射の亢進、Babinskiに注意しよう。
 また下肢麻痺がある時、脊髄の変化のみを考えがちであるが、脳の頭頂部病変(前大脳動脈の脳梗塞、髄膜腫など)でも起こりうることを思い出そう。Babinskiの有無に注意!
 癌の脊椎転移で多いのは、乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がん(乳の前の俳人と覚える)であり、消化器癌(胃、結腸、直腸、膵、肝、胆)の転移は少ない。前立腺がんの99%、乳がんの20%は造骨性である。

5、歩く姿で、かなりのことがわかる

 診察室に入ってくる患者さんを、横目で観察しておく。急性腰痛では少し前屈み(腰椎前弯減少:急性腰痛でなぜこうなるのか実は分かっていない)で歩くし、股関節病変で股関節の外転筋である中臀筋筋力が弱いとアヒルのように体を左右に振りながら歩く(Trendelenburg跛行)。大臀筋が弱いときは、体を後ろへ反らして歩く(筋ジストロフィ-)。下肢に痛みがあるときは、患肢への荷重時間を最小限にするようにヒョコヒョコ歩く(疼痛性跛行)。
 老人で腰椎椎間板変性がひどいと前屈し、進行すれば手を膝の上に置いて歩くが、軽度のうちは股関節、膝関節で代償して脊椎を後ろへ反らして歩くこともある。美人なら、モンローウォークかもしれない。さすがに、ムーンウォークで入って来る患者は見たことがない。

6、診察は、パンツ一丁にして行う

 診察は、必ずパンツ一丁にして行う。さもないと、帯状疱疹を見逃したりする。
 椎間板ヘルニアが神経根の内側にあるときは健側凸の側彎、ヘルニアが神経根の外側にあるときは患側凸の側彎になるといわれる。
 図1を見て大体の骨の位置関係を把握し、自分の骨を触ってみよう。
 両腸骨上縁を結ぶ線はJacoby線といわれ、第4腰椎棘突起あるいは第4/5腰椎棘突起間になる。仙腸関節は、後方のごく限られた範囲(後上腸骨棘の下方)で直接触診できるところがある(図1の○の部分)。強直性脊椎炎(日本全国で1000例位ある)などで、ここに圧痛がないか確認する。坐骨結節は、股関節を屈曲させたほうが触れやすい。
 前方の上前腸骨棘、側面の大転子も位置を同定できるようにしておく。
 体の前後屈、側屈、捻転などをみる。腰椎由来の痛みであれば、体動と関係する。棘突起の打痛は、圧迫骨折など脊椎の限局した病変を疑う。CVA(costovertebral angle)の打痛は、腎盂腎炎などの腎疾患を疑う。腹部は、特に動脈瘤がふれないか触診する。
 股関節を動かし、股関節病変がないか確認しておく。股関節では特に内旋障害が起こることが多いので、内旋障害があったら股関節病変を疑う。これは股関節前面に腸骨大腿靱帯(Lig.Iliofemorale)があり、関節包前面を補強しているが、これは伸展・外転・内旋(サッカーでボールをキックする時の格好)で最も緊張するため、股関節疾患ではこれとは逆の屈曲・内転・外旋位(サッカーでインサイドキックするときの格好)をとり、この位置で拘縮することが多い。
 従って、内旋ができにくかったら股関節疾患を疑うのである(図2)。
 変形性股関節症なのに腰椎椎弓切除が行われた例があるから、腰椎正面X線は必ず股関節も含めて半切フィルムで撮るとよい。
 仙腸関節病変に対してはNewton'stest((1)仰臥位で腸骨を後方へ圧迫、(2)恥骨を後方へ圧迫、(3)伏臥位で仙骨を圧迫)やfabere test(股関節を flexion、abduction、external rotation、extensionを同時に行う)、fadire test(股関節をflexion、adduction、internal rotation、extensionを同時に行う)などで確認する。(次号に続く)

〈参考文献〉
1.Primary Care Collection from The New England Journal of Medicine 伴信太郎訳 p39-50 南江堂 2002
2.Jeffrey G.Jarvik et al.Diagnostic evaluation of low back pain with emphasis on imaging.Ann.Intern Med.2002;137:586-597.
3.Agency for health care policy and research.Acute low back problems in adults:Assessment and treatment.Quick reference guide for physicians、No.14.Washington、DC:US Dept of health andhuman service、1994:AHCPR
4.Evaluating and managing acute low back pain in the primary care setting.J Gen Intern Med.2001;16:120-131

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