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学術・研究

医科

百日咳の実験室診断
-お父さん・お母さん!その咳大丈夫?- [診内研より]

北里生命科学研究所所長 中山 哲夫先生講演

はじめに

 2007年の成人麻疹の流行、2007~08年の大学キャンパスでの百日咳の流行、2009年のパンデミックと、感染症の流行が続き、昔からある感染症がいまだにコントロールされず流行を繰り返し、医療費の高騰から予防医学としてワクチンに対する期待が高まっている。
 しかし、ワクチンで撲滅できた疾患は天然痘だけである。
 最近増加している成人百日咳について、解説する。

1、百日咳のサーベイランス

 百日咳は、乳幼児にとって窒息による呼吸障害や脳症を合併する重要な感染症である。百日咳のサーベイランスとワクチン開発に関して、図1に示した。
 1950年代には、百日咳による死亡例は毎年2千例近くの報告が認められており、1950年から百日咳ワクチンが開発され接種が始まり、ジフテリア、破傷風のトキソイドとの三種混合ワクチンが開発され、1968年から定期接種のワクチンに組み込まれた。
 開発当初の百日咳ワクチンは、全菌体不活化ワクチンで、接種後の局所反応、発熱を含めた全身反応が強かったが、百日咳が流行している時期には受け入れられ、接種率の上昇と共に患者報告例数は減少し、1974年には死亡例の報告はなくなった。
 しかしながら、1974~75年と立て続けにDPTワクチン接種後の死亡例が2例報告され、DPTワクチンの接種は一時中断され、DTもしくはDPTで2歳からの接種となった。接種率は低下し、百日咳の報告例数は増加に転じた。
 ワクチンには高い安全性が求められ、副反応の少ないワクチンへの改良が進み、1981年には百日咳菌の感染防御に関連する百日咳毒素(pertussis toxin:PT)、繊維状赤血球凝集素(filamentous hemagglutinin;FHA)等を精製した無細胞型百日咳ワクチンとジフテリア・破傷風トキソイドとを混合した沈降精製三種混合ワクチン(DTaP)が開発された。DTaP接種後では発熱等の副反応の出現率は極めて低く、DTaP接種率も90%近くになり百日咳患者報告数は減少してきた。
 しかしながら、新たな問題点として免疫能の持続は5~10年で、成人層での百日咳が増加し、家族内感染でDTaP接種前の乳幼児、新生児への感染が増加している。

2、百日咳の診断

 近年、成人百日咳の増加が注目され、大学キャンパスでの流行も報告されている。成人百日咳は典型的な症状を認めることは少なく、2週間以上続く慢性、遷延性の咳で医療機関を受診することは少なく、受診しても百日咳は乳幼児の疾患で、成人では百日咳の疑いすら抱かれていない。
 また、確実な診断法はなく、遺伝子診断法も開発されてはいるが一般には普及していないため、的確な診断がなされていない。そのため、成人百日咳の実態が明らかとなっていないのが現状である。
 典型的な家族内感染の例の遺伝子診断の結果を、図2に示した。百日咳の遺伝子診断は、Loop mediated isothermal amplification(LAMP)法で60分以内に結果を判定できる。
 3週の新生児で、発熱と咳で受診し気管支肺炎の診断で入院した。入院後whoopingとともに無呼吸を起こし、百日咳が疑われた。患児の後鼻腔拭い液からは、発症26日まで百日咳菌のDNAが検出された。
 家族内感染で、姉と母親は患児の入院前から長引く咳を認めていた。しかし、姉と母親の後鼻腔拭い液から遺伝子は検出されなかった。
 成人、年長児では過去にDTaPワクチン接種の既往があり、感染しても排出期間、菌量も少ないために菌分離、遺伝子検出率は低い。乳幼児では、抗体反応は鈍く直接的な菌分離、遺伝子検索が有用であるが、成人では血清診断に頼ることになる。
 しかしながら、ワクチン接種の既往があるために、単一血清ではワクチン免疫か自然感染か判定することは困難であり、ペア血清での凝集素価の上昇、PT抗体の上昇を確認することにある。ワクチン成分に入っていない抗原に対する抗体価を測定することで診断が可能であるが、一般には普及していない。

3、DT接種時期にDTaPが使えるようにするために

 成人の百日咳は、ワクチン接種前の乳幼児への感染源となり、成人百日咳の制御は大きな課題となる。欧米では、成人百日咳の増加とともに乳幼児への感染が明らかとなり、米国ではDTaP初回免疫3回、初回免疫の追加接種1回、6歳時の5回目の接種だけでなく、10歳代を対象に破傷風の成分は同量で百日咳、ジフテリアの成分を減少させたTdapワクチンの追加接種を推奨している。
 わが国では、乳幼児期の初回免疫と追加接種の計4回の接種以降は、百日咳のコンポーネントを含んだワクチン接種は行われていないため、成人に達するまでに追加接種を検討する必要がある。
 新たにTdapを開発するには時間がかかるため、現状のDT接種をDTaPに変更し百日咳成分を含んだワクチンを追加接種することが有効な方法と考えられ、その有効性と安全性を評価するために臨床試験を実施した。
 かつて、DTaPは5社が製造しており(現在4社)、ジフテリア、破傷風トキソイド成分は各社同じ濃度であるが、百日咳の成分は2成分が2社、多価抗原タイプが3社(現在2社)と抗原の種類だけでなく濃度にも差が認められる。
 DT0.1mlは安全に接種されており、DTaPを0.2mlにすると破傷風トキソイドの量は同量でPT(1.2-9.4ug)、FHA(9.4-20.6ug)となり、外国のTdap PT(2.5-8ug)、FHA(5-8ug)とほぼ同等となる。DTaP0.2ml接種群での局所反応の出現頻度は、DT0.1ml接種群と比較してそのリスク比は1.13(95%CI;0.97-1.30)で差は認めなかったが、DTaP0.5ml接種群では1.34(95%CI;1.18-1.53)とDT0.1ml接種群より局所反応の出現率が高くなる。
 個々の局所反応として、発赤、腫脹、疼痛、熱感、かゆみの出現頻度を図3に示した。DTaP0.2ml接種群とDT0.1ml接種群の有害事象の出現頻度のリスク比を検定し、DTaP0.2ml群はDT0.1ml接種群に比べて腫脹の出現率が1.31倍(95%CI;1.04-1.65)高くなるが、他の症状の出現率には差を認めなかった。
 一方、DTaP0.5ml接種群はDT0.1ml接種群と比較して発赤の出現頻度は1.33倍(95%CI;1.10-1.60)、腫脹の出現頻度は1.40倍(95%CI;1.12-1.75)となり、熱感、疼痛は1.62倍(95%CI;1.33-1.98)、1.59倍(95%CI;1.19-2.13)に増加した。
 臨床試験の結果、DTaP0.2ml接種は現行のDT0.1mlの接種と同等の安全性を示し、ジフテリア、破傷風に対する抗体もDT0.1ml接種と差は認めず、百日咳に対する抗体反応も0.5ml接種と同等の免疫原性を示し、DTaP0.2ml接種に移行することで百日咳のコントロールに貢献できるものと考えられる。

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