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学術・研究

医科2011.08.25 講演

虫による皮膚疾患 [診内研より]

兵庫医科大学皮膚科学准教授 夏秋 優先生講演

はじめに

 「虫」の代表は昆虫類であるが、実際には、昆虫以外の節足動物の多くが「虫」と呼ばれる。
 皮膚疾患を引き起こす虫は大変多く、皮膚に対する刺咬、吸血、または接触によって皮膚炎を引き起こす虫、皮膚に寄生する虫、そして病原微生物の媒介によって感染症を発症させる虫などが挙げられる(表)。

刺咬虫と皮膚疾患

 刺す虫の代表はハチで、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどが問題となる。ハチ毒に含まれる刺激成分によって、刺された直後に痛みが出現するが、ハチ毒に対して感作が成立すると、即時型、あるいは遅延型のアレルギー反応を起こす。
 特に、即時型アレルギーの重症型であるアナフィラキシーショックで、死に至る例は決して少なくない。ハチに刺されて生じるアナフィラキシーは、生命の危険を伴うため、野外活動の際には肌を露出せず、ハチの巣を見つけたら不用意に近付かない、殺虫剤を携行するなどの適切な予防対策が必要である。
 また、次回ハチに刺された場合に、アナフィラキシー反応が誘発されるリスクのある人には、自費医療にはなるがアドレナリン自己注射薬(エピペン)を処方し、日常的に携帯させる必要がある。
 なお、ハチと同様に毒針を有するアリガタバチ、オオハリアリは、室内や庭などでも被害を受けることがあるので、注意が必要である。
 咬む虫としては、ムカデやクモが代表的である。トビズムカデは石や植木鉢の下などに生息し、時には室内にも侵入する。咬まれると牙から毒液が注入され、激しい痛みや腫脹が出現する。
 ムカデ毒にはハチ毒との類似性があり、毒成分に対して感作が成立すると、アナフィラキシーショックをきたす可能性がある。
 クモでは、近畿地方の湾岸地域を中心に生息し、分布を拡大している外来種のセアカゴケグモが強い神経毒を有しているので、注意する必要がある。

吸血虫による皮膚炎

 吸血によって皮膚炎を起こす虫としては、カ、ブユ、アブ、ネコノミ、トコジラミ、イエダニなどが挙げられる。いずれも、吸血の際に注入される唾液腺物質に対するアレルギー反応によって、皮膚炎が起こる。
 皮膚の症状としては、吸血の直後から痒みや膨疹、紅斑が出現する即時型反応と、吸血の1~2日後に紅斑や丘疹、水疱などが出現する遅延型反応があるが、皮膚症状の現れ方には個人差が大きい。
 一般に、カ、ブユ、アブ、ネコノミ、トコジラミは主に露出部から、イエダニは主に被覆部から吸血する。患者さんの多くは、刺されている場面を確認していないので、診断の際には個々の虫による皮疹の好発部位を考慮して、皮疹の分布を詳細に観察すること、患者さんの行動の範囲や内容について十分な問診を行うことが重要となる。
 近年では、各地の宿泊施設にトコジラミが蔓延しており、露出部を中心とした原因不明の虫刺症を診察した場合には、トコジラミ刺症を念頭に置く必要がある。

接触によって皮膚炎が生じる虫

 皮膚に接触することで皮膚炎を生じる虫としては、有毒毛を持つ毛虫が挙げられ、ドクガ類とイラガ類の幼虫が問題となる。
 特に、ツバキやサザンカの害虫であるチャドクガの幼虫には多数の毒針毛が付着しており、これに触れると激しい皮膚炎を生じる。
 また、各種の広葉樹の葉を食べるヒロヘリアオイラガの幼虫には、多数の毒棘があり、触れると激痛を生じるので知っておく必要がある。

基本的には非感染性の炎症反応

 虫による皮膚炎は、基本的には非感染性の炎症反応であり、ステロイド外用薬で対応できる場合が多いが、痒みや炎症反応が強い場合は、抗ヒスタミン薬やステロイドの内服を併用する。
 皮膚科臨床医としては、病歴や皮疹の分布、臨床像などから原因虫を推定し、駆除対策や回避方法などについても助言することが望ましい。

マダニによる感染症対策

 マダニは、野生動物に寄生する大型のダニで、野山などでの野外活動の際に、ヒトにも寄生することがある。皮膚に咬着したマダニは、約1週間吸血を続けて腹部が増大し、飽血すると脱落する。
 咬着したマダニを除去するには、いくつかの方法があるが、局所麻酔をしてメスで皮膚ごと切除するのが確実である。
 北海道や本州中部に生息するシュルツェマダニによる刺咬症ではライム病、西南日本でキチマダニなどによる刺咬症を受けると日本紅斑熱に感染する可能性があるので、注意が必要である。
 ただし、六甲山や北摂地方などでは、これらの感染症の病原体を保有するマダニ類は生息していないので、過度の感染症対策は不要である。

皮膚に寄生する虫による疾患

 皮膚に寄生する虫による疾患としては、疥癬とアタマジラミ症が挙げられる。疥癬の原因虫であるヒゼンダニは、主に人肌を通じて感染するので、性感染症として問題になっていた。しかし近年では、高齢者の介護を通じて感染が拡大する例が多い。
 早期の診断は難しい症例もあるが、専門医による正しい診断、ガイドラインに従った適切な治療が重要である。疥癬治療薬であるイベルメクチンは便利な薬剤であるが、使用の判断を適切に行うことや用法・用量を正しく守る必要がある。
 アタマジラミは頭髪に寄生する虫で、頭髪の接触や枕の共用などで感染する。正しく診断し、市販のフェノトリン粉剤、あるいはシャンプーで治療すればよいが、近年はフェノトリンに抵抗性を持つシラミも出現していることに留意する必要がある。
 アタマジラミ症は幼稚園児や小学生などの間で蔓延しており、決して不潔で生じる疾患ではないことを、保護者に理解させる必要がある。
(見出しは編集部)

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