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学術・研究

医科2011.12.05 講演

ポストパンデミックのインフルエンザ診療

沖縄県立中部病院 感染症内科 高山 義浩先生講演

はじめに

 インフルエンザは、毎年避けては通れない感染症です。新型インフルエンザへの対応も加わり、常に私たちは新しいエビデンスにあたりながら、この古くて新しい感染症との闘いを続けていかなければなりません。
 インフルエンザは流行性疾患であり、いったん流行が始まると、短期間に多くの人へ感染が広がります。例年、日本では11月から4月にかけて流行しますが、私が仕事をしている沖縄県では、夏でも流行を認めています。
 実は、夏と冬の流行により2峰性を示すのが、東南アジアのインフルエンザ流行パターンであり、沖縄の流行が東南アジアに一致するようになったとも言われています。その原因は明らかではありませんが、地球温暖化に伴い沖縄での流行が亜熱帯型に移行してきているのかもしれません。
 本土の気候も変わってきていますから、これからは夏場においても(沖縄や海外からの持ち込み事例を含め)、インフルエンザに十分注意する必要がありそうです。
 2009年の新型インフルエンザ発生前は、国内で流行しているインフルエンザは、A型のうちH1N1亜型(ソ連型)とH3N2亜型(香港型)、そしてB型の3種類でした。これに、H1N1/2009亜型(新型インフルエンザから呼称を変更)が加わるわけですが、抗原性が近い亜型が共存しながら流行しうるかどうかは興味深いテーマでもあります。
 H1N1亜型(ソ連型)かH1N1/2009亜型のうち、感染力の弱い方の亜型が、やがて淘汰されていくのではないかと筆者は考えています。

インフルエンザの治療薬について(表)

 2011年10月現在、国内で使用できるインフルエンザ治療薬は、5種類になりました。適応や用法も様々ですから、患者さんの状況に応じて使い分けることが大切です。効果はおおよそ共通していて、発熱期間を通常1~2日間短縮し、ウイルス排泄量を減少(周囲への感染力を低下)させます。
 なお、症状が出てから48時間以降に服用を開始した場合には、十分な効果は期待できないと言われていますが、それでも未治療に比べると、重症化や死亡率減少に貢献するかもしれないというエビデンスもあります1)
 オセルタミビルの適応に、「インフルエンザウイルス感染症と診断された患者」とあることから、迅速検査で陽性を確認しなければならないとの誤解が一部にあるようです。しかし、臨床的に診断がされれば、迅速検査の結果によらずともオセルタミビルの処方は可能です。
 ザナミビルの適応に年齢制限はありませんが、実際は吸入薬が使える年齢(おおよそ5歳以上)でなければなりません。吸入がうまくいかず、口の中に残ったものを飲み込んでも、消化液で分解されてしまうので効果はありません。自力で吸入できない小児や高齢者、重症患者などに、ネブライザーで吸入させることがあるようですが、これは適応外の使用法であり、危険なので試みないようにしてください。
 海外では、同様の方法で投与された妊婦が死亡するという事故が発生しており、米FDA(食品医薬品局)は「定められた使用法以外でザナミビルを投与しないように」と医療関係者に注意を呼びかけています2)。ザナミビルに含まれている乳糖の粘着性が、気管支を詰まらせる可能性があるようです。
 最も安価なのはアマンタジンですが、耐性ウイルスが広がっているなど、すでにインフルエンザの治療には適さないと考えられています。残念なことです。
 ペラミビルは唯一の点滴静注薬という特徴がありますから、重症例の入院治療で選択されることになると思います。ただ、経管であればオセルタミビルも投与可能ですから、あえて新薬であるペラミビルを選択しなければならない状況があるのかは疑問があります。
 ペラミビル、ラニナビルともに、投与方法は異なるものの、どちらも1回の投与が特徴であり、患者さんにとってコンプライアンスの面でメリットになると思います。ただ、新薬だからと飛びつくことなく、耐性を誘導しないよう、適応を考えながら大切に使っていきたいところです。

薬剤耐性ウイルスについて

 薬剤耐性ウイルスは、ウイルスが増殖する過程において、特定の遺伝子に変異が起こることにより生じると考えられています。本来有効である治療薬に対し有効性の低下(耐性)を示しますが、薬剤耐性のウイルスだから病原性が強くなるということは知られていません。また、耐性遺伝子の変異は、ワクチンの効果に影響を及ぼしません。
 日本では、アマンタジンの耐性ウイルスが広がっていますが、加えて、H1N1亜型(ソ連型)においてオセルタミビル耐性のウイルスが分離されるようになりました。また、H1N1/2009亜型でもオセルタミビル耐性が国内で発見されています。一方、H3N2亜型(香港型)とB型ウイルスについては、現在のところ、オセルタミビル耐性は確認されていません。
 個別の患者さんについて、ウイルスの亜型や薬剤耐性についての検査を実施することはできません。迅速診断キットの結果を参考に、地方衛生研究所や国立感染症研究所が実施している最新のサーベイランスの情報などから、総合的に勘案することが求められます。
 都道府県別のウイルス分離・検出状況、そして薬剤耐性のインフルエンザウイルスの最新の状況は、国立感染症研究所のホームページで参照できます3)

文 献
1)Lee N et al:Outcomes of adults hospitalised with severe influenza. Thorax, 2010;65, 510-515.
2)FDA:Relenza(zanamivir)Inhalat-ion Powder;http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm186081.htm
3)国立感染症研究所感染症情報センター:インフルエンザウイルス分離・検出速報 http://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html

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