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学術・研究

医科

人獣共通感染症 [診内研より]

神戸大学大学院微生物感染症治療学分野講師
神戸大学都市安全研究センター講師
大路 剛先生講演

1.人獣共通感染症とは

 人獣共通感染症の定義は、おおざっぱには"人間と人間以外の動物の双方に"、または"いずれかに"疾患を起こす病原微生物による感染症とされている。
 感染経路としては、(1)Direct zoonosis(人→動物と直接感染するもの)、(2)Cyclo-zoonosis(寄生虫などの生活環の中で人間に感染するもの)、(3)Meta-zoonosis(人→動物や人→人の感染の間に無脊椎動物のベクターを挟むもの)、(4)Sapro-zoonosis(生活環の中に非生物〈土壌など〉を含み、動物→人などのように感染するもの)などに分類される。
 これらの分類は、主に病原微生物の観点からのものであるが、逆に病気になった人間側から見た分類ではない。
 一般に、疾患を診断する際に医師が根拠として利用する情報は、(1)病歴や自覚症状、(2)身体所見、(3)臨床検査や画像検査という3種類に分けられる。
 この中で、人獣共通感染症ではルーチンの(2)身体所見や(3)臨床検査や画像検査では鑑別診断に加えられないことが多く、(1)の病歴が非常に重要であると考えられる。
 病歴を重視する観点から、筆者は(1)動物やベクターを人が食べることで感染発症するタイプ、(2)動物(やベクター)と密接に接触することで感染発症するタイプ、(3)動物と密接に接触するわけではないが、動物が主役のエリア(ジャングルや山など)に立ち入ることで感染発症するタイプの三つに分けている。

2.各タイプの人獣共通 感染症の代表例

 ここで、各タイプの人獣共通感染症について、簡単に代表例を述べる。
(1)人が摂食することで感染する人獣共通感染症の問題となる病原微生物
 ・熊のレアステーキ、生食→旋毛虫
 ・猪のレアステーキ→E型肝炎ウイルス、肺吸虫
 ・牛の生食→腸管出血性大腸菌
 ・海産魚の生食→アニサキス(多くの近海魚)、ヒラメのKudoaseptempunctata
 ・淡水魚の生食→顎鉤虫
(2)動物と密接に接触することで感染発症するタイプ(ペット、家畜や職業上曝露)
 ・犬→Capnocytophaga属、Pasteurella属、Toxocalacanis感染症、狂犬病
 ・猫→Bartonella henselae(猫ひっかき病)、Toxoplasma gondii
 ・牛→Q熱
 ・爬虫類→Salmonella属の感染症
 ・熱帯魚→非結核性抗酸菌による軟部組織感染症
 ・豚→有鉤条虫(豚の便中の虫卵と接触)
 ・ネズミ→レプトスピラ症(下水工事や水田での農作業)
(3)動物が主役のエリアに立ち入ることで感染発症するタイプ
 ・ジャングルに入る→マラリア、黄熱病、エボラ出血熱
 ・山歩き→リケッチア感染症、バベシア症
 ・洞窟に入る→ヒストプラズマ症、クリミアコンゴ出血熱
 (1)のタイプは、「何を食べましたか」という病歴をとることを心がけていると、鑑別診断にこれらの人獣共通感染症をきちんと加えることができる。
 (2)のタイプは、「ペットを飼っていますか」「お仕事は何ですか」「動物との最近の接触歴はありませんか」という、動物接触歴の問診が有用だろう。
 (3)のタイプは、行動様式として、渡航歴や山歩き歴を問診することが有用である。

3.ペットなど日常の接触で感染する人獣共通感染症

 さて、上記(2)のタイプの人獣共通感染症の中でも、ペット由来の感染症は日本でも目にすることが多い。代表的なペットについて、述べていく。
 まず犬由来のものからあげていくと、やはり犬咬傷による細菌感染症の対処が重要である。上記のPasteurella感染症などは、特定の臓器の感染症を起こすというよりは、"いきなり敗血症"で発症するので厄介である。
 診断には血液培養がカギとなり、治療は3世代以上のセファロスポリン系抗菌薬を使用する。犬咬傷後には洗浄、デブリドメントに加え、アモキシシリン・クラブラン酸などを3〜5日ほど投与することが一般的であろう。
 また、破傷風予防のための破傷風トキソイド(汚染外傷の場合は破傷風グロブリンも)の投与がより重要である。なお、破傷風は3回の初期接種をしていないと免疫が構築されないので、初期接種がされていない患者さんでは、受傷後に残りの2回も接種してしまう方がいいだろう。
 Toxocalacanisは、いわゆる犬回虫である。免疫不全患者では重症化することが問題だが、健常者でも眼内炎や視神経炎を起こし、時に視力低下につながる。
 狂犬病は、日本で狂犬病のリスクのある犬への曝露はまずないと思われるが、渡航前の予防接種や危険地帯での曝露後予防が重要である。
 次に猫由来の感染症としては、Bartonella henselaeによる猫ひっかき病が代表である。発熱と所属リンパ節の腫脹が特徴で、治療にはマクロライド系抗菌薬を使用する。猫ノミにかまれることによっても、この疾患には罹患することが知られている。
 また、犬と同様、Pasteurella属やCapnocytophaga属による敗血症も問題となる。牙が細いことから、猫咬傷の方が犬咬傷より重症化しやすいとされる。
 妊婦の初感染で胎児の先天異常の原因となるToxoplasma症も、猫由来の感染症として重要である。Toxoplasma未感染の妊婦さんは、猫との積極的な接触は避けた方が無難ではと考えられる。急性感染では伝染性単核球症様の症状をきたすが、免疫不全者や妊婦症例以外では、あまり治療の対象にはならない。
 まれなペットの中では、爬虫類はSalmonella属を保菌していることが重要である。亀や蛇などを飼育している患者が発熱してきた場合には、鑑別診断にSalmonella属の感染を加える必要がある。前述のCapnocytophaga属などと同様、敗血症や血管内感染症で発症するので厄介である。
 熱帯魚は魚そのものより、循環水槽からの非結核性抗酸菌症が重要である。Mycobacterium marinumによる軟部組織感染症は培養がカギであるが、どこの施設でもルーチンにできるわけではない。専門家への相談が治療も含め、望ましいだろう。
 ペット以外では、豚の飼育環境での日本脳炎や有鉤条虫症、牛や羊の飼育によるQ熱やネズミ曝露でのレプトスピラ症などがあげられる。酪農家の職業歴、家屋内での接触歴や水田業務、下水道工事などの職業歴が疑うカギとなる。

4.摂食による人獣共通感染症

 日本では様々なものを生食するため、この経路の人獣共通感染症を目にする機会は多い。
 海産物からでは、多くの近海魚の刺身ではアニサキス症のリスクがある。またサクラマスなどの生食で、日本海裂頭条虫の感染症もまれではない。これは、プラジカンテルで治療する。
 これらの感染症は、ある程度の時間、魚を凍結することで予防できる。しかし、凍結することで刺身の味がおちるとされており、悩ましい問題である。
 川魚の生食では、アユの生食による横川吸虫以外に、時に脳内病変を作る顎鉤虫が重要である。淡水魚の刺身からくる顎鉤虫は、重篤な後遺症を残しうるので注意が必要だろう。
 日本以外ではあまり摂食しない獣肉の生食も、様々なリスクがある。
 まず、牛の生食では腸管出血性大腸菌感染症が問題である。溶血性尿毒素症候群は発症すると治療は困難であり、予防がカギとなるだろう。猪や豚の生食では、E型肝炎発症例が複数、日本国内から報告されている。また、熊の生食やレアステーキでは旋毛虫症のリスクがある。
 これらの生食歴は、鑑別診断にこれらの疾患を加えるカギとなる。

5.動物が主役のエリアに立ち入って感染するタイプ

 このタイプは、日本では主に山歩きで感染するリケッチア感染症が重要である。発熱、皮疹、山歩きの病歴は、必ずリケッチア感染症を疑う必要がある。
 治療は、テトラサイクリン系抗菌薬を使用するため、漫然とベータラクタム系などの抗菌薬を投与していると時に致死的となる。また、海外ではマラリアなどのリスクが上がるので海外渡航歴の聴取、できれば海外での行動歴も非常に重要である。

6.最後に

 このように、人獣共通感染症の診断には病歴聴取がカギとなる。一方、診断学の面白味がつまったジャンルでもある。
 ぜひ、病歴聴取で人獣共通感染症を疑って診断していただければ、幸甚の至りである。

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