兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2012.02.15 講演

[保険診療のてびき] 漢方治療はまず冷えから ―冷えによる諸疾患の漢方治療―

東灘区・いが漢方内科 金のさじ診療所
伊賀 文彦先生講演

まず冷え症治療で症状改善

 私が普段診療していて実感することは、男性も含めて、冷え症の人が非常に多いということです。約8割の人が、冷え症ではないかと思います。
 そういった患者さんの場合、症状のいかんに関わらず、まず冷え症を治療することで症状の改善が期待できます。中には、冷え症の治療だけで症状が治ってしまうということもあります。逆に、冷え症なのか暑がりなのか、温めればいいのか冷やせばいいのか、これが間違っていると治療効果は非常に低くなります。
 ですから、今回のタイトルは決して大げさなものではなく、私自身がいつも一番重要視していることです。

冷え症の診断
 一般的に、漢方薬の本などには、漢方で考える基本物質として「気・血・水」の三つが載っています。日本ではこれが一般的ですが、私がおこなっている中国式の漢方(中医学という)では、「陰・陽・気・血・津液・精」の六つを基本物質と考えます。
 この中で、陰というのは体を冷やす、潤す性質のもので、陽は体を温める、各組織の働きを活発にさせる性質のものです。冷え症というのは、中医学では「陽が不足している状態=陽虚」と考えます。
 この冷え症=陽虚について、中医学の教科書に書かれている診断項目は、主に(1)顔色が蒼白い、(2)舌の色が白っぽい、(3)脈が沈んでいる、(4)寒さを嫌う、の四つになります。
 舌の色は、正常よりも赤みが少ない、寒色系の色味です。正常の舌の色というのは、小さいお子さんの舌の色が正常なことが多いので、それを参考にしてください。
 脈は、細かく言えばたくさんの種類の脈があり、正確に脈を取るのは非常に難しいです。ここでは、大雑把な目安として、橈骨動脈の上に軽く指をおいて脈が触れにくいな、と感じたら脈が沈んでいると考えていただいていいと思います。
 それから、上記の項目には出ていませんが、温めると症状がよくなる、逆に冷やすと症状が悪化する、という情報が得られれば非常に重要な手がかりとなります。よく、「お年寄りの神経痛は天気予報のよう」と言われますが、これは天気が悪くなって冷えてくると痛みが出てくるからです。ですから、陽虚の症状と分かります。
冷え症の処方
 次に、処方についてですが、冷え症の処方として比較的私が耳にするものに、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散があります。これらは、特に婦人科で使用される代表的な処方だと思います。
 しかし、私からみれば、どれも冷え症の処方とは言いがたいものです。もちろん、これらの処方が患者さんに合っていれば、気血の巡りがよくなり二次的に冷え症が改善することがあります。しかし、冷え症が強い場合は、これらの処方で改善させていくことは困難です。
 それでは、どういった処方がよいのでしょうか。単純ですが、体を温める働きの強い生薬がたくさん入っているものがよいのです。
 そういった生薬の代表として、乾姜、桂皮、附子の三つがあります。乾姜とは、乾燥させた生姜のことです。漢方薬に使われている生姜というのは、実際は全て乾燥させていますから、事実上乾姜になります。それから桂皮ですが、これとよく似たものに桂枝があります。同じ木の幹と枝の違いなのですが、働きが少し違います。
 桂枝湯をはじめ桂枝の入った処方はたくさんありますが、実は桂枝は保険適用になっていません。それでは桂枝湯には何が入っているかというと、桂皮が代わりに入っています。ですから、桂皮が入っている処方は、実際にはたくさんあります。
 それから附子ですが、これはトリカブトの塊根です。もちろん生では毒性が強いので、保険適用になっているものは、いろいろな処理をして減毒しています。附子は、漢方医でも怖がってあまり使わない先生もいますが、うまく使えば非常にいい効果を発揮します。
 これらの生薬を使った処方で、陽虚に使う代表的なものに四逆湯という処方があります。これは保険適用のものがありませんので、それに近い形の処方として、人参湯+附子末があげられます。附子理中湯という別名で出ているものもあります。これがエキス顆粒で、陽虚を治療する場合の基本方剤となります。
 あとは、症状の出現している部位によって処方を変えていきます。
 麻黄は肺を温める働きがあり、肺から上部の症状には麻黄附子細辛湯を用います。腹部は、人参湯+附子末が適しています。腰から下の症状に対しては、八味地黄丸が適していますが、温める働きが少し弱いので、私はいつも附子末を加えて用いています。
 それから四肢末端の冷えに対しては、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が適しています。四逆というのは、漢方用語で四肢末端の冷えのことですが、それが処方名の中にも入っています。
 臨床的には状況に応じて、例えば下半身が冷えるなら八味地黄丸に附子末、あるいは附子末と人参湯を加える、といった調整をしていくと、より高い効果をあげることができます。
 特にこの時期は、冷えでお困りの方も少なくありませんから、患者さんのためにもぜひ日常診療に、冷えの治療を取り入れていただければと思います。
(2011年12月3日、西宮・芦屋支部漢方講座より。中見出しは、編集部)
冷え症(陽虚)
 体が本来持っている陽が衰えている状態で、それにより実に様々な症状が引き起こされる。
 通常右記の特徴を持っているが、中にはほとんど持っていないこともある。また冷えを自覚していない場合もよくある。
冷え症の一般的な特徴
(1)寒がり
(2)顔色が蒼白い
(3)舌の色が赤みが少なく潤っている
(4)脈がふれにくい
(5)触ると冷たい
(6)冷えると悪化し、温めると軽快する
冷え症におすすめの方剤
部 位 方 剤 解 説
肺から上 麻黄附子細辛湯 肺を温め、肺気を巡らす。
通常2.5~5g/日でよい。それ以上使用すると動悸、胃痛などが生じやすくなる。
小青竜湯 肺を温めると共に水気をとる。
配合生薬の違いで麻黄附子細辛湯より動悸は生じにくい。長期に使用すると口渇が生じることがある。
心臓から臍まで 人参湯+附子 最も温める効果の強い処方で、心臓から臍まではもちろん全身を温める効果を持っている。 冷えが強い場合に他の方剤に加えてもよい。
臍から下 八味地黄丸 下半身の冷えに対する基本的な処方。
牛車腎気丸 八味地黄丸に牛膝と車前子を加えたもので腰痛、膝痛、頻尿、むくみなどがある場合には八味地黄丸より効果が期待できる。
四肢末端 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 温めながら血行をよくする働きがある。
四肢の冷え、しもやけなどによい。
また頭痛にもよい。
※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)