兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科

[保険診療のてびき] スギ花粉症について

明石市・永本医院院長
永本 浩先生講演

近年増加したスギ花粉症

 スギ花粉症は、近年増加している。特に若年者、小児に増加している。人口に対する有病率、患者数はきわめて高く、関東・東海地方で成人の25%、近畿圏でも20%近くの抗体保有率である(発症患者ではない)。
 世界に、3大花粉症あり。(1)北米のブタクサ花粉症、(2)ヨーロッパのカモガヤ花粉症、(3)日本のスギ花粉症である。
 注意すべきは、スギ花粉症の中にはハンノキ、ヤシャブシ等も同時期に飛散するので、混在している可能性もあることである。スギは日本杉として、日本特産で一属一種である。ヒマラヤスギ等は、スギの仲間でなく、松の仲間である。
 しかし、スギとよく似た桧(ヒノキ)は、スギと共通抗原性があるために、スギより約1カ月遅れてヒノキ花粉症を発症する。近畿地方は、ヒノキが多い(図1)。
 戦前、日本には欧米のような花粉症はないとされてきたが、それは誤りで、当時の文献を注意深く調査すると、関東地方で早春期に、春期カタルとして(特に栃木県の地方会誌に)報告がある。1930年代から1945年まで、日本はドイツ医学一辺倒で、花粉による鼻症状を、鼻粘膜の自律神経の異常とみなしていた。間違った思い込みのため、花粉症を無視していた。
 戦後まもなくして、全国植樹祭が開催され、北海道・沖縄を除く全国に、早く、まっすぐに育ち、住居用の建材にもなるので、大量のスギの苗木を植林した。すし詰め状態に、ぎゅうぎゅう詰めの不自然な状態に、スギという単一の常緑針葉樹を植林したため、日光が山林の下まで届かず、下草が生えず、真っ暗な不気味な森林となっている。狭いところに押しこめられた大量のスギは、自らの生存競争に勝ち抜くために、それぞれ今まで以上にきわめて大量のスギ花粉を飛散し始めた。
 植林後、昭和40年代になり、東京医科歯科大学の斉藤助教授が、日本で最初のスギ花粉症患者を発表し、その後患者は激増している。自然の雑木林でなく、人工林という異常な環境で育ったスギは、前年の夏が高温であると、自分自身の種属保存のため、大量の花粉を飛散するようになった(図2)。3月初め、杉山では山火事と間違えるほどの黄色の花粉飛散が見られる。
 スギ花粉症は、人間が経済至上主義(杉は成長が早く、住居用の建材になる)の結果起こった人災とも言える。花粉症は、工業化による大気汚染とも関係がある。

病態・病因
 スギIgE抗体が、鼻粘膜の肥満細胞(mast cell)等の好塩基性メタクロマジー細胞に固着して、感作が成立すると、スギ花粉(抗原)の再侵入により、肥満細胞上で抗原抗体反応が起こり、肥満細胞が破れ、中からヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサンA2等の多様なケミカルエディエーターを遊離させる。
 遊離されたヒスタミンは、知覚神経にあるヒスタミンH1受容体に結合して神経を刺激する。刺激は脳幹部のくしゃみ中枢に達し、くしゃみ発作を起こす。さらに遠心性の神経反射によって、アセチルコリンが分泌され、腺細胞に働き、鼻汁が出る。これが、I型即時型アレルギー反応である。
 ロイコトリエン、トロンボキサンA2は血管透過性を亢進させ、鼻粘膜細胞間の浮腫を起こし鼻閉となる。同時に、好酸球遊走因子により好酸球の細胞浸潤が誘導されて、Ⅳ型遅延型反応により鼻閉がさらに強くなる。
 ところで、IgE抗体は、日本人医学者・石坂公成(Ishisaka Kimishige)博士の発見である。IgEの名称について、IgG、M、A、Dに続く5番目であるから、アルファベット順に「E」になったのか、発見者の名前の中にkimishIGEというIgEが含まれるのは偶然か?
 肥満細胞(mast cell)のmastには英語では支柱、船の帆柱、橋の意味しかない。これは、オーストリアの医師Pirquetが名付けた、ドイツ語の肥育Mastからの由来である。Mast zellenというのが正しいが、今では英語化されて、mast cellと学会でも認知されている。
 余談だが、筆者が大学卒業後、基礎の大学院で比較解剖学という古い文献(ラテン語・ドイツ語)を頼りに研究生活を送っていた時期があった。その時、あることに気づいた。英米系の専門雑誌に1914~18年、1930~45年においてドイツ語文献が記載されず、ドイツ語の参考資料にも同様に英語の文献が記載されていなかった。
 戦争中とはいえども、自然科学の研究に政治が介入するのは、間違いのもとになる。前述した戦前の日本における花粉症の存在も、同様のことと考えられる。科学に、先入観は禁物であろう。
症 状
 くしゃみ、鼻汁、鼻閉、眼や鼻のかゆみである。
 直接鼻粘膜を視診しない内科、小児科医は、感冒と似た症状であるので誤診しないように。感冒とアレルギー性鼻炎は、治療法が全く異なる。
 感冒のように倦怠感や微熱を認めることがあるが、スギ花粉症は毎年同じ時期に症状を訴える。眼のかゆみを問診で得たら、スギ花粉症と鑑別診断してよい。
 IgE RASTや皮内テスト、または鼻粘膜誘発テストで陽性なら、確定診断となる。家族歴や既往歴も、参考になる。
治 療
 最近では、眠気のない第2世代抗ヒスタミン剤アレグラの内服が有用であるが、効果は個人差が大きい。
 局所的には、ナゾネックス等の噴霧ステロイドを使用。鼻閉型にはオノンやシングレアを使用。レーザー等の治療は、耳鼻科専門医に委ねる(図3)。
 特異的免疫療法(減感作療法)は根治的治療可能な唯一の方法で、理論的にはIgE抗体に対する遮断抗体を作ることになる。保険適用外であるが、舌下免疫療法も近日可能になるであろう。
 何よりも花粉との接触を避ける、天気予報等により花粉大量飛散時には外出を控えるか、マスク、めがね、帽子を着ける、洗濯物を外で乾かさない、花粉を室内へ持ち込まないことが重要。予防は、治療にまさる。
(2月4日姫路・西播支部研究会より)
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