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[保険診療のてびき] 薬剤師が関わる新しい肺炎の診断と治療

大阪大学医学部附属病院感染制御部教授
朝野 和典先生講演

はじめに
 感染症の診断と治療は、大きく変わってきている。これまで、医師が診断と治療を行ってきた。検査技師、薬剤師、看護師は、それぞれに医師の指示や処方を実施してきた。しかし、複雑化する医療の中で、いったいどれほど感染症に詳しい医師がいるだろうか?
 一方、感染症は抗菌薬が治すと考える医師もいる。抗菌薬がどんどん開発され、感染症で困ることはないという希望的な考えが、20年前までは確かにあった。しかし今、感染症は抗菌薬で治るという楽観的な考えをしている感染症専門医はいない。
 感染症は、どのような患者にも起こる。自身の専門分野以外の病気を、今ではあまり頼りにならなくなった抗菌薬で治せるのだろうか? 感染症の専門家でも難しいのに、専門以外の医師にとっては、大変困難な状況になってきた。もちろん感染症の専門家は、それ以外の疾患には素人同然だからお互い様ではあるが。
 そこで、これからの時代、感染症専門の薬剤師が大きな役割を果たす時代であることは自明である。感染症の専門薬剤師とは何か? PK-PDを理解し、抗菌薬の副作用を熟知した薬剤師だろうか? そうではないと思う。
 感染症の専門薬剤師に求められるのは、専門医のいない状況で、感染症の診断から治療まで助言できる薬剤師である。そのような薬剤師が求められるとすれば、今の薬剤師に何が欠けているのか、何を習得すべきかは自ずから明らかとなる。
 そこで今回は、呼吸器感染症の診断、治療の現場での考え方を研修し、薬剤師として何が求められるか考えてみたい。
呼吸器感染症の診断治療
 実は、呼吸器感染症の診断治療は、とても難しい。血液培養が陽性であれば、汚染菌を除けば原因菌である。ところが、呼吸器感染症の原因菌が分からない。原因菌を決定することは、極めて難しい。というか、いまだに決定的な原因菌の確定方法がないのである。
 それでも、治療をしなければならない。そこで、呼吸器感染症の治療には、総合的な検査成績の解釈が求められる。ここでは、肺炎について考えてみたい。
1.病歴聴取
 既往歴、症状が重要である。年齢、喫煙の有無、基礎疾患の有無とその治療状況を最初に聴取する。肺炎の場合、さらにペットの有無、周囲に同様の症状の人がいないかどうか、海外、国内旅行の有無、誤嚥の有無を聴取する。
 症状では、発熱等の症状の出現時期、咳嗽の程度、喀痰の有無、喀痰の性状、先行する呼吸器感染症の有無などを聴取し、病態と原因微生物に迫っていく。
 また、呼吸困難の有無、意識障害の有無を鑑別し、直ちに治療が必要か、検査を行う余裕があるかを判断する。
2.診察所見
 呼吸数、チアノーゼおよび脱水の有無、血圧、体温を測定し、聴診等の診察を行う。
 痰の貯留した状態か、間質性の病変を示唆しないか、などの鑑別を行う。
3.細菌学的検査
 喀痰が採取できれば、喀痰の検査を行う。高熱があれば血液培養も同時に行う。
 尿中抗原にて肺炎球菌の検査、必要があればレジオネラの検査を行う。喀痰が膿性であれば、グラム染色を行い、喀痰の品質評価および原因菌の推定を行う。
 さらに、喀痰の炎症細胞の形態や線維成分の混じり具合などによって病態の推定もできるが、これは高度な経験が必要である。
4.レントゲン画像の解釈
 胸部レントゲン写真は極めて重要であり、1枚の写真に多くの情報が詰まっている。薬剤師の方にもぜひ、必ず抗菌薬の処方が出たら、レントゲンをチェックしていただきたい。そして、呼吸器あるいは放射線科の先生にその所見の読み方を確認してもらっていただきたい。
 肺炎の診療に、レントゲンなくして興味をもつことは絶対にできない。これまで、肺炎の診療に薬剤師として抗菌薬のみで関与していたとすれば、それほど面白くない診療はなかったと思う。
 レントゲンをみて、熱の経過をみて、かつ検査結果をみて、可能であれば患者さんの診察に付き添ってこその診療であると思う。感染症専門の薬剤師とは、そこまで行って初めて専門と言えるのではないだろうか?
5.抗菌薬選択
 抗菌薬の選択は、患者を診てこそ可能である。年齢、性別、体重、腎機能、肝機能、基礎疾患を知り、症状、診察所見から感染症の重症度を判断し、推定される微生物を狭域あるいは広域にカバーする抗菌薬を選択する。
 医師の処方する抗菌薬ではなく、医師と一緒に選択する抗菌薬である。
6.抗菌薬の調整
 経過観察を行い、抗菌薬を変更あるいは追加することも、患者病態を知ってこそであり、発熱、食欲、尿量、栄養状態、腎機能、炎症反応などを日々チェックし、抗菌薬の調整を行う。
 食欲が増し、解熱し、炎症反応が改善すれば、抗菌薬の中止時期を指示し、観察をオフにして、次に感染症が発生するまで基礎疾患の治療に専念してもらう。
薬剤師も感染症診療に参加を
 このように、感染症は治療開始時の診療に始まり、毎日の観察を怠らず、抗菌薬を調整していかなければならない。それを薬剤師であるあなたが行うのである。
 感染症とは何か、どう向かい合うのか、薬剤師であるあなたの医療が変わるチャンスです。今日からでも、ダイナミックな感染症診療に参加しませんか?
(1月14日・薬科部研究会より)
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