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アトピー性皮膚炎診療が楽しくなる [診内研より]

金沢大学大学院医学系研究科皮膚科学教室教授
竹原 和彦先生講演

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Ⅰ はじめに
 アトピー性皮膚炎の治療をめぐっては、ステロイド外用薬に対する不信感の広がりなど、わが国においては不幸な混乱が続いており、結果として不幸な経過に甘んじている患者が少なくない。
 本講演では、演者が2011年5月に上梓したアトピー性皮膚炎治療の実践書「アトピー性皮膚炎診療が楽しくなる!」(南江堂、右図)の内容の一部を紹介したい。本書は、右側のページにおいてケーススタディの形式から5択で正解を選び、見返りの左側のページに正解と解説が記述されている。
 初診の対応、再診時の対応、ステロイド外用薬、ネオーラル、プロトピック軟膏、抗ヒスタミン薬、生活指導などについて、ガイドラインやエビデンスにとらわれない実践治療学を、筆者の長年の臨床体験をもとに紹介した。
Ⅱ 設問の抜粋
 上記の書籍より、Question2「私のアトピー性皮膚炎はいつ治る?」、Question32「ステロイド外用薬・軟膏かクリームか?」の設問部分を紹介する。
Question2 私のアトピー性皮膚炎はいつ治る?
 症例:24歳、女性。フランス料理店のパティシエ兼シェフ。オーナーシェフと2人で、1軒のフランス料理店を運営している。
 小児期よりアトピー性皮膚炎と診断され、今日に至っている。これまでいろいろな医療機関を転々としたが、今ひとつ改善しない。最近徐々に増悪し、睡眠不足となり仕事に集中できないが、店の事情で休みを取れない。休職も考えているが、それは店の休業を意味するのでオーナーの同意を得られない。これまでどの医療機関でも十分に話を聞いてもらったことがなく、治療法について細かく指導されたこともない。
 最近加療を受けていた皮膚科からは、体幹・四肢に対してアンテベート軟膏®とヒルドイドローション®、顔面に対してはプロトピック軟膏®が処方されていた。外用の方法についての細かい指導がなく、外用の仕方がよく分からないままに適当に使用しており、その結果、症状は悪化する一方となった。
 全身の診察終了後、患者より「私のアトピー性皮膚炎はどのくらいで治りますか?」と聞かれた。さて、どのように答えるのがベストか? a~eのうち、最も適切なものを一つ選べ。
a.3カ月で治るよ。君の考え方次第で。
b.数年で多分自然治癒するだろう。
c.あせらないで病気と付き合っていくことが大切だよ。
d.多分治らないけど、治らないものと思って生活の質を落とさないようにすることが大事だよ。
e.治らない。それがどうしたの。世の中に治らない病気って、いろいろあるじゃない。

Question32 軟膏かクリームか?
 症例:すべての患者。
 同じ成分のステロイド外用薬で主成分が同一の濃度の場合、軟膏とクリームはどちらの効果が強いか? a~eのうち一つ選べ。
a.軟膏の方が少し強い。
b.クリームの方が少し強い。
c.軟膏もクリームもほぼ同一の効果である。
d.ステロイドごとに軟膏の方が強い、同一、クリームの方が強い、のどれかが調べられているので、成書を参考にする。
e.患者の個体によっても軟膏とクリームの効果が異なる可能性があるので、個々の患者で軟膏とクリームを比較するのが良い。
Ⅲ 正解と解説
Answer2
正解:a.3カ月で治るよ。君の考え方次第で。

 私は嘘ではなく、すべての初診患者に対しaの説明をしている。具体的には、アトピームンテラの最初に、「もし、私が『今から3カ月であなたたちアトピーが治る』と言ったら信じられる?」と奇襲攻撃をかける。まさかこのような質問が飛んでくるとは予想していない無防備な患者は、「信じられません」と答えるのが通常だ。「信じたいと思います」と言う人もいるが、本心から信じていないのは明白である。
 そして、以下の患者の話を紹介する。何となくキツネに騙されたかのような顔をして聞いているが、3カ月後に「『3カ月で治る』って言った意味、今では理解できる?」と聞くと、半分近くの人がうなずくようになる。パティシエ兼シェフも「アトピー性皮膚炎に対する見通しがついたこと自体治ったようなもので、今では治ったのも同然と思って毎日楽しく料理を作っています」と言っている。
 以下の事例を紹介して、「もしあなたが19歳のこの患者が『私はアトピーじゃありません』と言ったのと同じ気持ちになれれば、あなたのアトピーは治ったも同然でしょ。早い人で3カ月で同じ気持ちになれるみたいだよ」と説明しているのだ。アトピー性皮膚炎は、気持ちの持ち方だけで「治った」と思えることを、以下の事例の女の子より教えられたのだ。
 初診時:14歳時:女子中学生。数カ所の医療機関で脱ステロイド療法を受け、著しく悪化。全身の皮膚が著明に苔癬化し、さらにびらんを伴うようになり、診察時に空気が滲みると言うまでに悪化した。そのまま入院となり、約3週間後に良好なコントロールが得られ退院。
 17歳時:高校2年生の際、1年間オーストラリアへ留学することとなり、出発の直前に受診。母親より「海外へ行って環境が変化して、悪化するのではないかと心配で夜も眠れません。先生、行かせて大丈夫でしょうか?」という訴えがあった。「多分大丈夫でしょう」と答えたものの、母親の安心は得られず、気まずい雰囲気が残った。
 ところが、この女の子は明るく「お母さん、大丈夫。竹原先生に教えてもらった薬の使い方を理解しているので、世界中どこへ行っても悪化させないで帰ってくる自信あるよ」と言ってくれた。皮膚科医になって良かったと、心の底から思った。そして1年後、彼女は良好な状態で帰国した。
 19歳時:大学1年生で受診。皮膚の状態は極めて良好。「大学の新しい友達に、以前重症のアトピーだったと言っても信じてもらえないよね」と言った私に、「私はアトピーじゃありません。重症のアトピーだったこともありません」との答えが返ってきた。
 私の頭の中は真っ白になった。意味が分からなかった。「ごめん、意味が分からない」。彼女は笑って、「1年に1回、病院を受診するその日だけアトピーを自覚しますが、残りの364日はアトピーってこと忘れて生活しています」。
 23歳時:彼女は夢であった航空会社のキャビンアテンダントの職を得て、湿度0%の苛酷な職場でも悪化することなく、笑顔で働いている。
 正直、キャビンアテンダントの職場環境で悪化しないだろうかと当初は心配したが、それはなかった。確かに彼女は1年に1回程度とはいえ通院し、ステロイド外用薬の処方も受けている。しかし通院時の診察時ですら皮疹を確認できないまでにコントロールされている彼女の、「私はアトピーじゃありません」という気持ちは誰も否定できないだろう。

Answer32
正解:a.軟膏の方が少し強い。

 教科書的には、dが正解であろう。一部の成書には確かに
・軟膏>クリーム
・軟膏=クリーム
・軟膏<クリーム
に分類されたステロイド外用薬の一覧表が記載されている。
 しかし私は、これまでにこの表を暗記しようと思ったこともないし、コピーして外来に貼ろうと提案した教室員もいない。その必要がないことを、誰もが実感しているからである。
 医師としての経験上でも患者の訴えでも、ステロイドの種類のいかんに関わらず、軟膏の方がよく効く。なぜなのか。
 実は、繰り返し患者に対して行っている外用指導の中で解答を得た。ちなみに、私はすべての初診患者に対して、自分の肘関節を使用してステロイド外用を実演している。左肘関節では、握り拳範囲に対して米粒大ぐらいの軟膏を実際塗って指導する。一方、右肘節でのクリームの外用指導では、同じ量でもより広い面積(約1.3倍)に塗れることに気付いたのだ。
 したがって、同じような塗り方をすると、単位面積当たりに付着する外用薬の主成分の量が軟膏でクリームより多いことになり、結果として軟膏の方が良く効くのである。
 すでに現役を引退されたご高名な先生でeを主張されていた方がいたが、私は自分の体験に基づく法則を信じているのでeの方法は実践していないし、その気もない。
Ⅳ まとめ
 アトピー性皮膚炎の治療に関する医療関係者向けの本を単著で書くのは、これが3冊目であり、2冊は約10年前に書いたものである。これらの著書を読みなおす機会があったが、「堅い」「息苦しい」「力の空回り」と感じ、この10年の間に自分の何が変わったのだろうかと考え続けた。そして約1カ月考え続け、ようやく一つの回答に辿り着いた。
 10年前の私は、患者を診察しながらも様々な敵と戦っていたのだ。アトピービジネス、脱ステロイド療法、ストロイドバッシングのメディア報道...。患者の向こう側に存在する別の敵と戦いながら、診療していたのである。すなわち、目の前にいる患者を「暗黒面」から取り返そうと、「熱くなって」戦っていたのだ。
 しかし約10年の歴史を経て、アトピービジネスや脱ステロイド療法は衰退し、メディアの論調もかつてほどには異常なものでなくなった。もはや、現在の私は診察室の中で戦っていないのである。
 そしてアトピー性皮膚炎治療について、徹底して患者サイドに立って考え直してみると、これまで常識とされていた治療の数多くが必ずしも正しくないことに気付いたのである。ガイドライン全盛の世の中であるが、臨床のがちんこの現場ではガイドラインは必ずしも有用でない。
 正直に告白すると、最近は各種アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインを、細部にわたって真剣に読んではいないのだ。アトピー性皮膚炎診療においては、患者と心と心で向かい合うことの方がより重要であり、無味乾燥なガイドラインは無用の長物だと思うからだ。
 もしこの本を読んだ人が、竹原の回答は間違いである、自分であれば別のものを正解とすると考えたとしても、それはそれで構わない。アトピー性皮膚炎の治療について、読者が今までとは異なる角度で考え直すチャンスとなれば、それでこの本の使命は果たせると思うからだ。
 アトピー性皮膚炎の診療を「楽しい」と感じながら診療している医療関係者には、この本は必要ない。しかし「辛い」「苦しい」「煩わしい」「うっとうしい」と感じている医療関係者には、ぜひ読んでもらいたい。ひょっとして、明日からあなたの診療が「楽しく」なるかもしれないから...。  そして、あなたの「楽しさ」は、患者の「幸せ」へとなるかもしれないから...。
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