兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2012.07.15 講演

[保険診療のてびき] 当薬局での睡眠薬服用患者における満足度調査

尼崎市・薬局リベルファーマシー  滝本 桂子氏(薬剤師)

はじめに
 当薬局での2011年9月の来局患者のうち、睡眠薬としての向精神薬を処方されている患者30人について直接聞き取り調査を行ったものを、2011年の第20回日常診療経験交流会で話題提供した。
 調査のサンプル数が少なかったと考えるが、患者の生活背景に踏み込んだ調査ができたものであり、今回は、その後のエピソードも交えてまとめさせていただく。
調査結果
 当薬局における睡眠薬服用患者の年齢分布は図1の通りであり、70歳以上が53%を占めている。男女比は60%、40%であり、同月の総来局患者の男女比56%、44%と一致している。
 服用歴については、長期にわたる患者が多く、58%が「5年以上」と答えた(図2)。
 服用のきっかけは、「入院」が27%と一番多く、「人間関係によるストレス」「飲酒に関する事例」と続いている(図3)。服用方法は、「毎日」と回答した患者が83%であり、「屯用」の5人を大きく上回っていた。
 何種類の薬を服用しているかとの問いに対しては、「単剤」が83%であり、かかりつけ医(精神科専門医ではない)からの処方がほとんどであることを考えると、なるほどと思える。しかし、90歳以上で「4剤服用」が1例あった。
 服用薬については、図4の通りである。レンドルミンに代表されるブロチゾラム、ハルシオンに代表されるトリアゾラム、マイスリーに代表されるゾルピデム、デパスに代表されるエチゾラムと続いている。
 満足度については、10から100までの10段階のスケールで示してもらった(図5、図6)。「80以上」の回答が57%を示している。服用年数と満足度をみると、「1年未満」の患者では80以上の満足度であり、「5年未満」「10年未満」の患者になると、満足度が落ちてくることがわかった。「10年以上」の服用患者でも、満足していないと回答した患者が2人もあり、首をひねってしまった。
考 察
 今回の調査を通じて、同じ内容の質問に答えていただく手法をとったことで、今まで聞き漏らしていた「今さら聞けない」事項について知り得たことが、一番の収穫であったかもしれない。マイナスイメージの強い薬の調査で、回答が得られるかとの不安があったが、ほとんどの患者が自分の思いを語っておられた。
 病気や生活について不安を抱え、薬を飲み続けることにも不安を感じておられるのかと考えていたが、プラス思考で「薬を飲んで眠る方が、健康に良い」と回答される方が多く、長期連用となる実態が理解できた。
後日談
 調査後1年近く経過した。後日談を二つ紹介する。
 90歳代で、4剤の眠剤を服用し、それでも眠れないと訴え続けていたAさん。漢方薬をアドバイスしても効果なく、何とか良眠を得る方法はないものかと考えていたところ、毎日の生活を見守っているヘルパーから、「転倒することが増え、通院歩行の介助も危うくなった」「睡眠薬の副作用では?」という相談を受けた。Aさんも車椅子によらず生活することをモットーにしていたため、減薬することに納得し、現在は2剤になっている。眠れないとの訴えは続いているが、100歳を目前にする現在も、歩行器で外出できている。
 もう1例のBさんは失敗談。腎機能の低下であるのに、睡眠薬が増量されていた。入浴していて浴槽から出られなくなったり、ベッドから転落して車椅子に首を挟んだりという事故が続いた。基幹病院から在宅医にバトンタッチされたのをきっかけに、睡眠薬の減量に取り組んだ。
 Bさんは不満であったが、日中に居眠りしていることが多いので、夜間眠れなくても大丈夫と押し切った。すると、20年近く断酒していたのに、アルコールを飲み始めて精神的に不安定となってしまった。精神科医や地域保健の職員にも相談しているが、今のところ解決の道筋が見えていない。「昼に眠っていても、夜も眠りたい。眠っていることが一番平穏だから」と言っているBさんの言葉どおりに、眠らずに暴れるさまに振り回される毎日である。皮肉にも「お願い、これを飲んで眠って!」となだめて睡眠薬を服用してもらっている。薬剤師・ケアマネの苦い体験である。

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