兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2012.10.28 講演

[保険診療のてびき] 復職支援の心理学的評価と援助

たつの市・室井整形外科・心療内科  清水 純也(臨床心理士)
【共同研究者】高森信岳、飯田安亮、山根亮子、赤松京子、高森眞理子

はじめに
 1982年以降の労働省(厚生労働省)の調査で、職揚におけるストレスは増加しており、それに伴って近年、職場不適応で精神科・心療内科を受診する例が少なからず報告されている。
 職場不適応症の包含する病態は、幅広い。職場内容や対人関係といった環境要因に加え、性格傾向や就職動機、知的能力といった個人要因も影響する。これらの要因によって、就業に対する不安や焦燥が強まり、仕事に対して抑うつ症状を呈し、職場の適応が困難となり、受診するに至ったものを言う。
 うつ病の病前性格として、真面目・几帳面で責任感が強いメランコリー親和型が典型的なタイプと言われていた。ところが近年、メランコリー親和型とはいささか異なる、自分勝手・わがままといった未熟とも言える性格傾向のタイプが増加している。このような就労における態度の違いにより、人材育成の見地からの援助が求められている。
 SDSやBDI-Ⅱの実施だけでは、有効な復職につながらないケースが散見されたため、MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)を導入してうつ症状の多様性を検討した。
方 法
1.対象
 室井整形外科・心療内科外来に受診もしくは入院した、職場不適応で休職ないし離職した60人の患者(男性26人、女性34人)と、室井整形外科・心療内科に勤務する12人(男性4人、女性8人)を対象に、MMPIを実施した。
 妥当性尺度における無回答、虚偽のどちらかにおいて70点以上のT得点を示した解答者は除き、65人(男性28人、女性37人)を検査対象とした。
2.MMPI検査
 パーソナリティ特性を調べるために、MMPI日本版冊子Ⅱ型様式を使用した。
 MMPIは、精神医学的診断に客観的な手段を提供する目的で作成された質問紙法人格検査である。
 MMPIは550の質問項目があり、4種類の妥当性尺度と10種類の臨床尺度によって、構成されている。
 妥当性尺度は、受験態度に偏りがなく、検査の結果が意味のある人格情報を導き出せているかどうかを吟味する尺度であり、疑問尺度(?)、虚偽尺度(L)、妥当性尺度(F)、修正尺度(K)が存在する。
 臨床尺度には、心気症尺度(Hs)、抑うつ尺度(D)、ヒステリー尺度(Hy)、精神病質的偏倚(Pd)、男子性・女子性(Mf)、パラノイア(Pa)、精神衰弱(Pt)、精神分裂病(Sc)、軽躁病(Ma)、社会的内向性(Si)が存在する。
結 果
 職場適応群と職場不適応群の各尺度において、t検定により平均値を比較したところ、下図に示すプロフィール結果が得られた。
 適応群と比較すると、不適応群はF(p〈0.01)、Hs(p〈.01)、D(p〈.01)、Hy(p〈.001)、Pa(p〈.01)、Pt(p〈.001)、Sc(p〈.001)、Ma(p〈.01)、Si(p〈.01)が高く、K(p〈.01)が低かった。
考 察
 職場適応群では、正常とされる40点から60点の間におさまっているが、不適応群においては、プロフィールにバラつきが確認された。ここから、不適応群においては、人格すなわち「ある特定の文化における平均的な人間が知覚し、考え、感じ、そしてとりわけ他人に関わる仕方(ICD・10)」には特徴的な偏りが確認される傾向にあると言える。
 図は、あくまでも平均値であるので、様々な人の特性を反映しているためにまとまりがない可能性や、うつから統合失調症の患者のデータがあることによる多様な症状を反映している可能性を考慮せねばならない。今後の課題である。
 表に、古典的なうつのケースと、発達の偏りから不適応を示し、2次反応としてうつを呈した症例を示した。
 前者ではDがやや高く、他の臨床尺度は適応群とおおむね一致していた。対して、後者においては思考のバランスが悪く、柔軟性に欠け、心理的な問題を認めようとせず、身体的な問題として処理しようとする傾向がある。
 同じくうつ症状を呈しているが、細かく見ていくと、この2ケースのように差異が確認される。
 このような特徴を把握することが、個別の支援体制をとっていく上での重要な手掛かりとなるのではないだろうか。
まとめ
 職場不適応症の心理評価の一環として、MMPIを実施し、適応群と不適応群での差を検討した。
 その結果、F、Hs、D、Hy、Pa、Pt、Sc、Ma、Siが職場不適応群では有意に高く、Kは有意に低かった。MMPIは、臨床的なうつ症状におけるうつの多様性を反映している。
 こうした指標から、個々人の認知の偏りに焦点をあて、認知療法を導入している。会社では集団での対応が求められているため、集団認知療法などの復職支援プログラムを実施している。
文 献

1)Benjyamin J. Morasco, Jeffrey D, Gfeller, John T.Chibnall(2006)「The relationship between measures of psychopathology, intelligence, and memory among adults seen for psychoeducational assessment」

2)志水 彰他(1999)『精神医学への招待』㈱南山堂

3)永田 俊代(2004)「職揚不適応者にみられるうつ状態について」『臨床教育心理学研究』vol.30 No.1

4)夏目 誠他(1982)「職場不適応症について-受診状況調査発症要因と治療を中心として-」『産業医学』24巻 pp.455-464

5)夏目 誠他(1986)「職場不適応症について(第3報)-治療的対応システムと産業医の役割を中心にして-」『産業医学』28巻 pp.160-169

6)日本臨床MMPI研究会(2011)『わかりやすいMMPI活用ハンドブック-施行から臨床応用まで-』野呂浩史、荒川和歌子、井手正吾編 ㈱金剛出版

7)村井 俊哉(2009)『脳は利他的にふるまいたがる-報酬と行動のナゾを解く脳科学-』PHPエディターズ・グループ

8)村上 宣寛、村上 千恵子(2009)『MMPI-1/MINI/MINI-124 ハンドブック-自動診断システムへの招待』 学芸図書株式会社


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