兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2012.10.28 講演

[保険診療のてびき] 右片麻痺患者へのインスリン自己注射に向けての関わり

北区・真星病院  須田 順子(看護師)

目 的
 現在、糖尿病患者は全国で890万人いると言われている。JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータによると、インスリン治療を受けている患者は、治療患者の約2割である。糖尿病は動脈硬化疾患の危険因子の一つであり、何らかの血管病変を有する患者が、インスリン治療を受けている現状があると予測される。
 今回受け持ったA氏は、2型糖尿病でインスリン治療が必要であったが、脳梗塞後遺症のため右片麻痺を有していた。インスリン注射に関しての家族の協力も得られそうではあったが、「他人に針を刺すのは怖い」「できれば自分でしてほしい」という言葉も聞かれていた。
 A氏自身は右片麻痺を有しているも、左手の残存機能・理解力はインスリン自己注射(以下、自己注射と略す)を行うには、十分であると判断できた。そのため、自己注射手技の獲得に向けて、看護介入することにした。
 その結果、自助具を作成・練習することで自己注射が可能となったため、ここで報告する。
事例紹介
 対象:A氏 70歳代 女性
 病名:2型糖尿病・脳梗塞後遺症(右片麻痺)
 入院期間:2012.7.30〜2012.8.20
 ADL:車椅子自躁・左手使用にてほぼ自立
 家族構成:配偶者なし・弟夫婦と同居
 使用薬剤:ランタスソロスター*R* 朝8単位(8/7〜朝4単位へ減量)
 介入前のA氏の言動:「ここに来た時に、インスリンを自分で打たないといけない覚悟はできています」「針は怖いですよね」
 介入前の義妹の言動:「他人に針を刺すのは怖い」「主人は忙しい人だから、家にいないこともあって、私がしないといけないのかしら」「できれば自分でできるようになってほしい」
 実際の介入:
≪A氏に対して≫
○自助具の作成(図1)
○写真入り自助具使用方法説明書作成(図2)
○針の施注と自助具の練習を分けて実施
○自助具の使用に慣れてから、自己注射へ移行
≪家族に対して≫
○A氏が自己注射できなかった場合には、単位合わせまでは協力してもらえるように依頼
○A氏の自己注射場面を見学してもらう
≪スタッフに対して≫
○指導を担当する看護師に、自助具を実際に使用してもらう
○写真入り自助具使用方法説明書作成
○A氏の進行度がわかるように、チェックリストの作成
結 果
≪A氏≫
○自助具を使用して、自己注射が可能となった
○「インスリン、もうできるよ」と笑顔が見られた
○自己注射を家族に見学してもらう時には、自ら家族に説明を行っていた
≪弟≫
○自宅でも血糖測定を行いたいと話し、器械の説明を受けた
≪義妹≫
○自己注射を見学する場面では「何度か見てたら大丈夫かも」と発言あり
○栄養指導を受けたいと申し出があった
考 察
 介入当初は、左手でインスリンの単位合わせができれば、自己注射は可能であると考えていた。しかし、実際に行ってみると、針の着脱が困難なため自助具の作成を試みた。
 自助具の作成をするにあたっては、複雑ではないこと、針刺しのリスクが少ないこと、保管・移動がしやすいこと、安価であることを考慮した。
 次に、自助具を用いての自己注射の練習が必要であったが、病棟スタッフも経験はなく、スタッフ教育も必要であった。スタッフに対し自助具の使用方法説明書を写真入りで作成し、同様の患者指導ができるようにした。また、片手用の自己注射チェックリストを作成し、A氏の手技の獲得状況を把握した。
 A氏自身は、自己注射当初「自分で針を刺すのは怖い」と話しており、針を刺すことに慣れてもらう必要もあると考えた。そのため、自助具の練習と針を刺す練習を分けて実施した。そして、自助具の使用に慣れてきたころに、自己注射へと移行した。自助具の練習と穿刺の練習を分けたことで、病棟スタッフも自助具の使用方法をゆっくりと説明でき、双方にとって焦りのない環境を作ることができたと考える。
 また、自己注射手技の獲得ができた際、家族に依頼し自己注射を見学してもらった。そして、体調不良時などA氏が自己注射できない場合には、家族の協力が必要であることを説明し、インスリン注射の手順を覚えてもらうように働きかけた。
 そのことでA氏は、「自分でできない時でも安心」と話しており、家族も「何度か見てたら大丈夫かも」とインスリン注射に対しての言動の変化が見られた。片方だけの負担にならないように働きかけることも、インスリン注射を継続していく上で重要であると考える。また、A氏が自己注射できるようになったことで、家族の負担が軽減し、血糖測定や栄養管理などの新たな支援も得られるようになったのではないかと考える。
 以上の介入を通して、A氏は作成した自助具を用いての自己注射手技が獲得でき、退院することができた。
結 論
○残存機能・理解力があれば、自助具を用いての自己注射が可能である。
○使い慣れない自助具に関しては、スタッフを含めた指導が必要である。
○患者・家族のどちらか一方の負担にならないように働きかけることで、治療の継続が望めることが分かった。

図1 作成した自助具
1718_5.jpg
図2 写真入り使用方法説明書
1718_6.jpg
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