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学術・研究

医科

見逃してはいけない血算(上) [診内研より]

聖路加国際病院 血液内科  岡田 定先生講演

不定愁訴とプライマリ・ケア

 血算は数ある臨床検査の中で最も基本的な検査ですが、実に豊富な情報をもっています。しかし残念ながら、血算の情報は臨床現場で必ずしも十分に活かせていないように思います。
 とりわけ血算が重大な病態や疾患を示唆していても、その情報が見逃されていることも少なくありません。
 ここでは、(1)高齢者の貧血、(2)著明な大球性貧血、(3)網赤血球増加を伴う貧血、(4)赤血球増加症、(5)進行性の白血球増加症、(6)白赤芽球症、(7)異型リンパ球を伴う白血球減少症、(8)高度の出血傾向を伴う血小板減少症、(9)慢性の高度血小板増加症、(10)高度の汎血球減少症の10症例を取り上げます。
 もし、このような患者さんが先生のクリニックを受診されたら、先生はどう考えて、どう対応されるでしょうか。

〈症例1〉71歳男性 労作時息切れ
 半年前から心窩部と右季肋部に違和感が出現し、3カ月前から疲れやすさと労作時息切れあり。当院受診時の血算。
WBC 5,600 Hb 6.2
MCV 67.7 PLT 30.3万

貧血の鑑別のポイント
 MCV(正常81〜100)が67.7flと高度小球性であり、鉄欠乏性貧血を最も疑う。 高齢者の鉄欠乏性貧血であれば、慢性の消化管出血による鉄欠乏性貧血の可能性が高い。
 貧血の鑑別には、MCVが有用。(1)80以下(小球性貧血)、(2)81〜100(正球性貧血)、(3)101以上(大球性貧血)の三つに分類して鑑別する(下表)。
診断と経過
 鉄欠乏性貧血。
 Fe9μg/dl↓ TIBC444μg/dl↑ フェリチン6.3ng/ml↓であり、典型的な鉄欠乏性貧血。上部消化管内視鏡で出血の原因である進行胃癌(図1)が見つかり、腹部CTでは多発性肝転移とリンパ節転移(図2)が判明した。
見逃してはいけない
 高齢者の貧血を見たら消化管出血、特に消化器の癌を見逃してはいけない。
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〈症例2〉72歳男性 原因不明の貧血
 進行性の貧血があるが、上部・下部内視鏡検査で異常なし。3カ月で15㎏の体重減少もある。2カ月前と今回の血算。
2カ月前の血算→今回の血算
WBC 4,200 4,300
RBC 308万 226万
Hb 12.1 9.7
Ht 35.2 27.5
MCV 114.2 121.7
MCH 39.3 42.9
PLT 19.4万 20.5万
貧血の鑑別のポイント
 MCVが121.7flと高度大球性であり、まず巨赤芽球性貧血を疑う。胃切除の病歴はないので、悪性貧血(ビタミンB12欠乏性貧血)を最も考える。
診断と経過
 悪性貧血。
 ビタミンB12120pg/ml↓ 抗内因子抗体陽性。
 ビタミンB12の投与を開始したところ約1カ月で貧血は消失し、数カ月で体重は元に戻った。
見逃してはいけない
 高齢者で高度の大球性貧血(MCV〉120)を見たら、悪性貧血を見逃さない。

〈症例3〉64歳男性 黄疸
 黄疸(T.Bil3.0㎎/dl、I.Bil2.2㎎/dl)を指摘されて入院。入院時の血算。
WBC 9,200 RBC 155万
Hb 6.6 Ht 18.6
MCV 119.8 MCH 42.3
PLT 31.1万 Ret 34.0%
Ret 52.7万    
貧血の鑑別のポイント
 Ret(網赤血球)が34.0%と著明に増加し、間接ビリルビンが高値であり、溶血性貧血を最も疑う。
診断と経過
 自己免疫性溶血性貧血。
 クームズテスト 直接3+、間接3+。
 ステロイド開始1カ月後には、Hb11.3g/dlまで改善。
見逃してはいけない
 貧血で網赤血球増加を見たら、まず急性出血か溶血性貧血を見逃さない。

〈症例4〉37歳男性 Hb18.6g/dl
 人間ドックでHb18.6g/dlと多血症を指摘。人間ドックの血算。
WBC 6,000 分画正常
RBC 638万 Hb 18.6
Ht 55.8 MCV 87.3
MCH 29.2 PLT 14.0万
赤血球増加症の鑑別のポイント
 白血球・血小板はほぼ正常であり、真性赤血球増加症は否定的。低酸素血症をきたす基礎疾患もなく、二次性赤血球増加症も否定的。喫煙と大量飲酒あり、ストレス赤血球増加症を疑う。
診断と経過
 ストレス赤血球増加症。
 SpO2、エリスロポエチンとも正常。
 禁煙と節酒の指導を行った。
見逃してはいけない
 赤血球増加、白血球・血小板正常を見たら、まずストレス赤血球増加症を疑う。
 最も多い原因が喫煙。

〈症例5〉74歳男性 進行性白血球増加症
 6年前に冠動脈バイパス術、4年前に大腸癌手術。進行性の白血球増加あり紹介。
 2年前と4カ月前の血算。
2年前の血算→4カ月前の血算
WBC 14,500 20,000
骨髄球 0.5 3.5
後骨髄球 1.0
桿状核球 0 0
分葉核球 80.0 77.0
好酸球 0.5 1.0
好塩基球 3.5 4.0
リンパ球 12.0 11.5
単球 3.5 2.0
Hb 13.6 13.8
PLT 31.1万 30.3万
白血球増加症の鑑別のポイント
 特に誘因なく白血球が増加し、骨髄球や後骨髄球の出現、好塩基球の増加あり、慢性骨髄性白血病を最も考える。
診断と経過
 慢性骨髄性白血病。
 フィラデルフィア染色体陽性、BCR/ABL融合遺伝子陽性。
 イマチニブ(グリベック®)の使用により、血液学的寛解を得た。
見逃してはいけない
 白血球増加症で骨髄球・後骨髄球・好塩基球増加を見たら、慢性骨髄性白血病を見逃さない。
文献
岡田 定:「誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方」医学書院、2011(次号につづく)
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