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学術・研究

医科

見逃してはいけない血算(下) [診内研より]

聖路加国際病院 血液内科  岡田 定先生講演

(前号よりつづき)
〈症例6〉61歳男性 高度疼痛と紫斑

 3週間前より腰部、胸部、腹部に鋭い疼痛が出現。全身性に多発性の数㎝大の紫斑もあり。
 受診時の血算。

WBC 14,600
 赤芽球  16
 骨髄球  9.5
 後骨髄球  6.0
 桿状核球  6.5
 分葉核球  69.0
 好酸球  1.5
 好塩基球  0
 リンパ球  3.5
 単球  4.0
Hb 4.7
MCV 95.3
PLT 1.1万
Ret 13.4%
Ret 19.97万

白血球分画異常の鑑別のポイント
 癌の全身骨転移を考える全身性の疼痛、DICを疑う血小板減少と出血傾向があり、幼若な好中球と赤芽球の出現(白赤芽球症)から、癌の骨髄転移を疑う。
診断と経過
 癌の骨髄転移、DIC。
 骨髄検査で集塊した癌細胞あり、骨シンチで全身の骨に転移巣を認めた。
 明らかな原発巣は不明であり、原発不明癌として化学療法を施行。2カ月後に退院。
見逃してはいけない
 白赤芽球症を見たら、癌の骨髄転移や造血器腫瘍を見逃さない。
〈症例7〉30歳男性 下痢と発熱

 1週間前から、水様便と38℃台の発熱が続く。近医で、シプロキサンとカロナールを処方。解熱したが、脱水状態となり入院。
 入院時の血算と生化学。

WBC 1,700
 好中球  51.0
 好酸球  0.5
 好塩基球  0.5
 リンパ球  43.0
 単球  3.0
 異型リンパ球  2.0
Hb 14.8
PLT 5.7万

CRP 0.36mg/dl、AST 176IU/L、
ALT 104IU/L、LDH 592IU/L
白血球減少症の鑑別のポイント
 異型リンパ球を見たら、まずウイルス感染症を疑う。通常の感冒にしては、白血球減少や血小板減少が高度で、肝障害もある。
 よく面接すると、MSM(男性と性交渉をもつ男性)であることが判明。急性HIV感染症を疑った。
診断と経過
 急性HIV感染症。
 HIV抗体陰性、HIV-RNA1.0×106コピー以上/ml、CMV IgM抗体陽性。
 急性CMV感染症の共感染が判明。入院6日目には白血球3,800/μl、血小板10.5万/μlまで回復。肝機能も正常化。
見逃してはいけない
 異型リンパ球+ウイルス感染症状+HIVリスクを見たら、急性HIV感染症を見逃さない。
〈症例8〉66歳女性 腰痛、血小板減少

 3カ月前から腰痛あり、他院のCTで多発性骨転移疑い。口腔内に粘膜下出血、全身性に多発性の紫斑あり。
 入院時の血算。

WBC 7,200
 骨髄球  1.5
 後骨髄球  1.5
 桿状核球  2.5
 分葉核球  61.5
 好酸球  0
 好塩基球  1.5
 リンパ球  21.0
 単球  10.5
Hb 11.4
MCV 83.4
PLT 7.7万
血小板減少症の鑑別のポイント
 血小板7.7万/μlの減少だけで、これほど高度の出血傾向は生じない。病歴から基礎疾患に進行癌が考えられ、DICの病態を最も疑う。
診断と経過
 癌の骨髄転移、DIC。
 FDP 168μg/ml↑。消化管内視鏡検査で胃癌と診断され、胸腰椎MRIで椎体の広範囲にびまん性骨硬化性骨転移巣を認めた。
見逃してはいけない
 基礎疾患+血小板減少+FDP増加を見たら、DICを考えよう。
〈症例9〉74歳女性 高度の血小板増加

 2カ月前の健診で血小板数が約100万/μlを指摘。
 紹介受診時の血算。

WBC 8,900
 好中球  70.5
 好酸球  4.5
 好塩基球  3.5
 リンパ球  16.5
 単球  5.0
Hb 13.6
PLT 90.5万
血小板増加症の鑑別のポイント
 基礎疾患がなさそうで、軽度の白血球増加と慢性的な著明な血小板増加あり。まず、本態性血小板血症を疑う。慢性骨髄性白血病の可能性もある。
診断と経過
 本態性血小板血症。
 BCR/ABL融合遺伝子は陰性、JAK2遺伝子に変異を認めた。
見逃してはいけない
 慢性的な高度の血小板増加症を見たら、まず本態性血小板血症と慢性骨髄性白血病を見逃さない。
〈症例10〉38歳男性 関節痛、発熱、出血

 10日前から右肩関節痛が続き、8日前から紫斑、口腔内出血が徐々に悪化。前日から38.5℃の発熱が出現。
 ER受診時の血算。

WBC 600
Hb 6.8
MCV 94.6
PLT 1.1万
汎血球減少症の鑑別のポイント
 高熱と高度の汎血球減少症からは、重症感染症、造血器疾患、血球貪食症候群を最も疑う。高度の出血傾向からはDICを考える。汎血球減少症+DICからは、急性前骨髄球性白血病を最も疑う。
診断と経過
 急性前骨髄球性白血病(APL)、DIC、敗血症。
 すぐに抗菌薬を開始したが、数時間後に敗血症性ショックとなり集中管理を要した。APLと診断後、レチノイン酸+化学療法を施行。約10年間寛解持続。
見逃してはいけない
 好中球数が500/μl未満時の発熱は、短時間で重症敗血症に陥る可能性が高い。
 高度の汎血球減少症と高熱を見たら、重症感染症、急性白血病、血球貪食症候群を疑う。
おわりに

 以上、10症例をご紹介しましたが、血算のもつ情報にお気づきいただけたでしょうか。
 血算には、意外なほど重要な情報が隠れています。どうかお見逃しなく。

文献
岡田 定『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』医学書院、2011
(おわり)

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『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』
著:岡田 定
判型・B5、200頁、2011年4月発行
定価4,200円(本体4,000円+税5%)

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