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学術・研究

医科2013.02.05 講演

意外に教わらない風邪の診かた(気道症状編) 〜風邪を風邪と診断する方法〜[診内研より]

手稲渓仁会病院 総合内科・感染症科 感染症科チーフ  岸田 直樹先生講演

はじめに
 急性上気道炎はよく使われる病名ですが、ゴミ箱診断として利用されることも多いでしょう。それは、急性上気道炎の定義を明確にしていないために起こります。
 成書によりその定義に幅はありますが、シンプルに定義することで、他疾患との区別、特に細菌かウイルスかの判断に役立ちます。
 明日から急性上気道炎と言ってよいときと、よくないときをはっきりさせ、その定義による区別から、見逃してはいけない疾患群も理論的に区別できるようになるでしょう。
急性上気道炎のイメージって何でしょう?
 急性上気道炎という言い方は医師の間でよくされますが、急性上気道炎とはいったい何でしょうか?
 急性上気道炎は風邪と言われることもありますし、風邪を急性上気道炎と言う場合もあります。記述はどちらでもいいのですが、大切なことはその定義をしっかりつけ、そういうときといわないときを明確にすることが重要です。
 この定義がいまいちはっきりしないと、何でも急性上気道炎(風邪?)と言ってしまう医師になってしまいます。
 急性上気道炎というと、言葉のイメージから上気道(解剖学的には気管・気管支より上の気道)に急性に炎症があれば何でもよいことになり、それが細菌やウイルスといった感染症だろうが何だろうが炎症があればいいという感じになってしまいます。
 これでは、何でもありになってしまい、何だかよく分からないときに使ってしまうのも分からなくはありません。この言葉自体がもつイメージがあまりよくないのですが、大切なことは、その定義を明確にすることです。
急性上気道炎(風邪)の定義
 急性上気道炎の定義は、成書によって記載にばらつきがあり、しかもあいまいな記載が多く、そこも混乱を招いている大きな要因とは感じますが、ここはシンプルに、次のように定義することで見えてくることがあります。
急性上気道炎(風邪)の定義--
自然によくなる上気道のウイルス感染症
 自然によくなるウイルス感染症というと、ウイルス性胃腸炎やウイルス性髄膜炎も、そのカテゴリーにあたります。確かに、ウイルス性胃腸炎は腸感冒とも言われることがありますが、ここはシンプルに「自然に(勝手に)よくなる上気道のウイルス感染症」のみを急性上気道炎(風邪)とすることが、臨床的にそれ以外を見極めるうえでも重要です。
 では、急性上気道炎(風邪)とは、どのような患者さんのことでしょうか?
急性上気道炎(風邪)の特徴は?
 急性上気道炎を「自然に(勝手に)よくなる上気道のウイルス感染症」と定義しましたが、気道に感染するウイルスのほとんどは、それを同定することは実臨床ではできません。
 よって、症状や身体所見、その他検査から診断しなくてはいけませんが、ウイルス性上気道炎に特異的な身体所見や検査というのは、皆無に等しいでしょう。ではどうしたらよいでしょうか?
 みなさんが外来診療をしていて、ウイルス性上気道感染の患者さんには、ある特徴があることに実は何となく気がついていると思いますが、どうでしょうか? 何か、訴えが多くないでしょうか? 微熱、咳、痰、鼻水、関節痛(節々の痛み)、倦怠感、目脂、咽頭痛(喉のイガイガ)、味覚異常、時に嘔気・下痢も...。
 その印象は正しく、ウイルス感染症は細菌感染症と違って、多領域に症状を出すという特徴があります1)。この多領域を、何でもありとするとわけが分からなくなり、何でも急性上気道炎と言ってしまうようになるので、次のように考えるとよいでしょう。
 咳症状、鼻症状、喉症状の3領域の症状に注目し、その三つが急性に、同時に、同程度存在する場合はウイルス性上気道炎(風邪)である。
 この3領域にまたがる多彩性が、ウイルス感染の特徴とされます。それに対して、細菌感染は一つの臓器に一つの菌の感染が原則で、鼻水がだらだら流れた細菌性肺炎というのはほとんど見かけませんが、その理由はここにあります。
 この定義をきちんと満たしている患者さんは、急性上気道炎(風邪)であり、そこにPitfallとなる疾患は意外にありません。
3領域でも特にPitfallが少ないのは鼻症状があるとき喉症状、咳症状が強いときは注意
 喉症状、咳症状が強い場合は、重篤な疾患を含めPitfallがたくさんあります。たとえば咽頭痛が強いと、そこには細菌性咽頭炎に加え、扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎といった重篤な細菌感染症もあります。また咳が強いと肺炎との鑑別が必要となります。
 ところが、3領域の症状の中でも特に鼻症状が強い場合は、それほど重篤な疾患は存在せず、そのほとんどは抗菌薬は不要な鼻かぜ(ウイルス性鼻炎)です。
3領域でも特に鼻症状が強いときの鑑別
 3領域の症状の中でも鼻症状(鼻水・鼻づまりなど)が強い場合に、鑑別疾患で重要なのは細菌性副鼻腔炎くらいです。アレルギー性・季節性鼻炎であれば、朝方にくしゃみや鼻水がある(日中は大丈夫なことが多い)、季節性の経過、視診で鼻粘膜が蒼白に見える、といった病歴・身体所見があればより疑います。
 また、鼻汁好酸球もチェックしてみてもよいかもしれません(鼻汁好酸球は喘息、鼻ポリープ、Nonallergic rhinitis with eosinophilia syndrome:NARES、でも陽性になります)。
 一方、ウイルス性鼻炎(急性上気道炎の一型)であれば、鼻症状に加えて発熱や咳、咽頭痛といった多症状があることが多いと考えればよいのです。
細菌性副鼻腔炎として治療が必要な場合とは?
 ひとことで言うと、「症状がとても強いか、我慢してもよくならない場合」ということです。安易な抗菌薬処方はせず、ウイルス性の場合は7〜10日程度で改善するため、Watchful Waiting for Acute Bacterial Rhinosinusitisとして、症状が軽い場合(痛みが軽度で38.3度以下の発熱)は抗菌薬なしでの経過観察を推奨しています。
 細菌性副鼻腔炎として治療が必要な状況は、以下とされています3)4)
【初診の時点で以下の条件を満たす場合】
 (1)強い片側性の頬部の痛み・腫脹、発熱がある(症状の持続期間によらない)
 (2)鼻炎症状が7日間以上持続、かつ頬部の(特に片側性の)痛み・圧痛と、膿性鼻汁、2峰性の病歴がある
【うっ血除去薬や鎮痛薬を7日以上処方して経過を診ている場合】
 (1)上顎、顔面の痛み
 (2)発熱が持続する場合
 副鼻腔炎に対する治療の目標は、菌の全滅ではないというのが重要です。肺は無菌環境ですので、全ての菌を殺すことが目標となってしまいますが、副鼻腔はもともと無菌環境ではないので、菌の全滅が目的ではありません。そのため、少々菌が薬剤耐性であってアモキシシリンの効きが弱くても、治癒することが多いとされます。
 また先ほども述べたように、「解剖学的にからだの表面に近い細菌感染では、抗菌薬なしでも自然に治ることが多い」という原則もあります。
 例として細菌性副鼻腔炎以外に、膀胱炎(尿路の浅い場所の感染)や気管支炎(気道の浅い場所の感染)、腸炎(腸管内はからだの外!)などがあり、これらは抗菌薬がなくても自然寛解することが多いです。
 つまり、一見抗菌薬投与で改善したように見えても、その多くは抗菌薬投与のおかげで治癒したのではなく、抗菌薬投与により治りが早くなったという言い方が正しいとされます。
 逆に、肺炎(気道の奥の感染)や腎盂腎炎(尿路の奥の感染)などのように、解剖学的にからだの奥におこる細菌感染では、ほとんどの場合に抗菌薬を必要とします。
さいごに
 急性上気道炎の定義を上記のようにシンプルに考えると、急性上気道炎と言えるときと言えないときが明確になります。さらに、咳症状、鼻症状、喉症状の三つに注目すると、それぞれにまぎれる重篤な疾患も分類しやすくなります。
 より詳細に関しては、『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた(医学書院)』(下掲)を参考にしてみてください。

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【参考文献】
1)Epidemiology, pathogenesis, and treatment of the common cold. Ann Allergy Asthma Immunol. 1997 Jun; 78(6): 531-9; quiz 539-40.
2)Williams JW Jr, Simel DL. Does this patient have sinusitis? Diagnosing acute sinusitis by history and physical examination. JAMA. 1993 Sep 8; 270(10): 1242-6.
3)EPOS Primary Care Guidelines: European Position Paper on the Primary Care Diagnosis and Management of Rhinosinusitis and Nasal Polyps 2007-a summary. Prim Care Respir J 17(2): 79-89, 2008.
4)Rosenfeld RM, Andes D, Bhattacharyya N, Cheung D, Eisenberg S, Ganiats TG, et al. Clinical practice guideline: Adult sinusitis Otolaryngology-Head and Neck Surgery, 2007 Sep; Volume 137, Issue 3, Pages S1-S31.
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