兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2013.02.15 講演

[保険診療のてびき] 在宅ケアにおける感染対策

済生会兵庫県病院 感染管理認定看護師  小川 麻由美氏講演

はじめに
 在宅ケアとは、在宅でのさまざまなケアの総称として使われる言葉です。利用者の健康状態のみならず、家族の介護力、経済的・社会的状況が時間の経過とともに変化するため、在宅ケアチームを構成するメンバーや、その支援方法も変化していくことが多い現場となります。
 利用者の価値観や自立を尊重し、利用者・家族の同意を得て、最もふさわしいケアをチームで分担、共同して実施していくため、在宅ケアチームを構成するメンバーは、感染対策も含めたさまざまなことを把握した上で、ケアを提供もしくはアドバイスしていくこととなり、その役割の重要性は言うまでもありません。
医療器具の感染対策
 在宅ケアは、長期間にわたることが多くなります。そのため、特にディスポーザブルの医療器具(経腸栄養具、気管内吸引カテーテルなど)などをどのように使用していくかを悩むこととなります。
 医療現場においては、医療が必要な多くの急性期患者さんが、狭いスペースでの生活を余儀なくされます。そのため、院内感染を引き起こさないために、ディスポーザブルの再利用は行ってはいけないことになっています。
 在宅ケアにおいても、ディスポーザブル製品は単回使用するのが一番望ましいのですが、経済面で切実なこともあり、リユース(再利用)している点が多いと思われます。リユースするには、家庭環境(ハード面)や家族も含めた介護力や理解力、価値観、経済力などを踏まえた上で方法を検討していく必要がありますが、在宅ケアといえども確実な消毒(あるいは滅菌)が必要となってきます(表)。
 どこまで清潔を保つことができるのかということを念頭に置き、「今まで使っているから大丈夫だろう」ではなく、正しく取り扱われているのか、不潔に扱われていないかと、確認作業をときどき行っていただきたいと思います。
手指衛生について
 在宅ケアでは、感染症が流行する前に予防や対策の指導を行うのが望ましいです。
 特に冬場が近づくと、インフルエンザやノロウイルス(感染性胃腸炎)などが流行します。利用者さんはほとんど外出しないから大丈夫...ではなく、家族を含めて予防策を講じてもらえるようにします。
 インフルエンザ予防には、まずはワクチンを、その年の12月までに家族全員で接種するように勧めましょう。
 もちろん、在宅ケアに携わるチーム内では、日ごろから感染対策は重要です。毎回必要な感染対策とは何でしょうか?
 皆さんが各ご家庭に訪問される時、手指衛生(手洗いまたは手指消毒)をされていますか? これは、エチケットに近い行為だと私は思います。さまざまな物を触って、各ご家庭までたどり着きます。他の利用者さんのところに行った後のときもあるでしょう(図1)。
 手を媒介しての接触感染を起こす感染症は数多く、インフルエンザやノロウイルスもその一つとなります。在宅ケアチームのメンバーが、感染症を各ご家庭に持ち込まないようにするためにも、手指衛生は重要な行為となります。
手指衛生の必要な五つの場面
 医療現場において、手指衛生の必要な五つの場面があります。(1)患者に接する前、(2)無菌的操作の前、(3)体液曝露の可能性があった後、(4)患者に接した後、(5)患者周囲の環境に接した後です(図2)。
 さまざまなケアを行っていく中で、このような場面においては手指衛生を行えるよう、携帯できる擦式手指消毒剤を持参するなど、工夫していただきたいと思います。
 防護具の使用についても同様に、湿性生体物質に触れる可能性のあるときは、使用していただきたいです。在宅ケアでは、病院とは違って、ケアが家庭の中で繰り広げられるため、防護具(ディスポ手袋やガウンなど)を使用すると、ばい菌扱いされている思いを受ける利用者さんもいらっしゃるかもしれません。
 しかし、私たち医療従事者はその利用者さんだけをケアするのではなく、他の利用者さんにもケアを提供していく必要があります。別の利用者さんに感染症を媒介しないために、私たちも感染症をもらわないために、防護具を正しく利用していく必要があります。その辺りを充分に利用者、家族に理解していただき、対応していきましょう。
さいごに
 利用者を取り巻く職種は、個々によって違いますが、多くの職種が関与することも考えられます。
 感染対策は一人だけがするものではなく、みんなで行えて初めて成立するものです。日常の業務内容に応じた感染対策を具体的に示し、利用者に関与する他職種間でも共有できるように工夫し、在宅ケアチーム全員で感染対策を講じていきましょう。
(2012年11月10日北摂・丹波支部院内感染対策研修会より、見出しは編集部)

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