兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2013.02.23 講演

[保険診療のてびき] 北播磨地域における認知症治療の現状とこれから ~かかりつけ医から~

西脇市・はやし内科クリニック  林  武志先生講演

はじめに
 高齢社会を迎える日本にとって、認知症は今後増え続け、すでに社会的に問題になりつつある。
 プライマリー医は、認知症を早期に発見し適切な治療を行い、介護する家族を助ける必要がある。
認知症高齢者の状況
 わが国は、急速に高齢化が進展している(図1)。高齢化率(65歳以上の高齢者人口の割合)が急速に上昇するとともに、介護が必要となるリスクが高い後期高齢者の割合も高くなるなど、高齢化は急速に進展する。
 高齢者の増加により、認知症高齢者も増加する。厚生労働省の調査によると、認知症高齢者数は年を追うごとに増加し、2025年には300万人を超えると推計されている(図2)。
地域医療における認知症対応力の向上
 学会ホームページによると、兵庫県における日本認知症学会専門医は18人、認知症専門医のいる施設は13施設と、今後増加する認知症患者には、とても対応ができない。かかりつけ医の認知症対応力向上が望まれる。
認知症地域医療支援事業
 こういった現状に対して、厚生労働省は、『認知症サポート医養成研修事業』と、『かかりつけ医認知症対応能力研修事業』を行っている。
認知症サポート医の役割
 (1)医療支援の構築、(2)介護支援の構築、(3)認知症の人と家族を守るために、法律、医療知識にもとづく家族相談、市民への啓蒙などを行う。
かかりつけ医に期待される役割
【MCI~軽度】
○認知症の疑いを見逃さない
○専門医療機関との情報共有・連携、等
【中等度】
○日ごろからの適切な身体疾患管理
○必要に応じて専門医療機関と連携、等
【高度・終末期】
○早期の段階から診療に関わる
○高度認知症・終末期の状態像を把握し、十分な説明を行う
○終末期の開始の見極め・看取りの態勢の整備、等
現状と課題
 (1)かかりつけ医の認知症対応力は医療機関ごとにばらつきがある。
 (2)医療機関の受診を望まない人については、認知症の疑いがあると判断しても、医療機関に連れていきにくく、診断が遅れる。
 (3)専門医療機関においても単に病気を診断・評価するだけにとどまり、その後の生活や療養に関する助言を行っていないなど、生活を支援していく視点が欠けているケースがある。
当院で経験した認知症診療の症例
(症例1)訪問看護ステーションと連携を行ったレビー小体型認知症の84歳男性
 2009年11月、物忘れを主訴に初診。車の運転で軽い事故を起こすことあり。専門医受診は希望されず。
 ドネペジルを添付文書どおりの用量で開始、5㎎で維持。2011年3月、構語障害、意味不明の発語、はしが持てないなどの症状が出現し10㎎に増量。
 同年5月歩行困難、傾眠、易怒性増強しガランタミン4㎎×2に変更。一時的に効果あるも、2011年10月急に怒りっぽくなり、介護への抵抗、夜間徘徊、独言、幻視出現するため、西脇市民病院精神科紹介。臨床経過などからレビー小体型認知症と診断され、ガランタミン増量(8㎎×2錠/日)、抑肝散エキス(7.5g×3/日)追加となる。
【往診開始、訪問看護ステーションと連携】
 2012年3月歩行困難となり、訪問看護ステーションと連携し訪問診療開始。徐々に歩行可能となるも転倒の危険性が高く、夜間徘徊するなどの危険行動あり、メマンチン追加。
 このころより、献身的であった妻が過労でダウン。
【介護サービス利用】
 2012年9月デイサービス利用。2012年12月グループホーム入所となり、介護者の負担軽減につながった。
症例1を経験して
 ドネペジル等には、興奮性、易怒性に注意。ケアをするのは、認知症の患者本人だけではなく、介護する家族も助けなければならない。訪問看護ステーションやケアマネジャー等、多職種と連携し、特養、デイサービス、ショートステイなどといった施設の利用を積極的に行う必要があると考えられた。
(症例2)認知症疾患医療センターと連携診療を行ったアルツハイマー型認知症の80歳女性
 2012年4月、家人より、物忘れが多いと指摘あり、加東市民病院認知症疾患センター紹介。同センターより、神経学的所見、血液検査、頭部MRI/MRA、頚動脈エコー、脳波等、総合的にアルツハイマー型認知症と判断され、治療方針を助言いただき、状態安定。家人の介護負担が軽減した。
症例2を経験して
 認知症医療センターの専門医による正確な診断、助言が得られ、安心感がある。ただし、患者を診察する機会が多いのはかかりつけ医であり、疾患に対する知識を習得し、スキルアップをめざさねばならない。
まとめ~かかりつけ医に期待される役割~
 高齢者は生活習慣病などで定期的に診察を受けていることが多く、認知症の早期発見はかかりつけ医がその徴候に気づくかどうかにかかっており、一般開業医の役割が非常に大きい。
 かかりつけ医は、(1)早期段階での発見・気づき、(2)日常的な身体疾患対応・健康管理、(3)家族の介護負担・不安への理解、(4)専門医療機関への受診誘導、(5)地域の認知症介護サービス諸機関との連携など、認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人や家族を支援することが期待される。
(第29回地域医療を考える懇談会、2013年2月23日・三木より)
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