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学術・研究

医科2013.04.27 講演

呼吸器感染症の診断と治療 ―肺炎ガイドラインの問題点も含めて―(下)[診内研より]

琉球大学大学院 感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)教授  藤田 次郎先生講演

(前号よりつづき)
4.マクロライド系薬の併用により市中肺炎患者の生存率が改善
 市中肺炎の治療にマクロライド系薬を併用する意義は、非定型病原体をカバーしうるという利点からである。
 Arnoldらは、非定型病原体をカバーする肺炎治療の重要性について検討している。CAPOデータベースに登録された市中肺炎患者を、非定型病原体をカバーする治療を施行した群と施行しなかった群とに分けて、両群の死亡率を比較したところ、非定型病原体をカバーする治療を施行した群で有意に死亡率が低かったと報告している。
 これまでに、マクロライド併用療法の臨床的意義を検討した報告が数多くなされている(表、引用文献省略)。いずれの結果を見ても、マクロライド系薬を含む併用療法の有効性が示唆されている。
 Brownらが、HBSIデータベースに登録された18歳以上の市中肺炎患者44,814例を対象に、β-ラクタム系薬またはニューキノロン系薬単独で初期治療を行った群と、それらにマクロライド系薬を併用して初期治療を行った群とで比較検討した結果、各薬剤とも単独療法群に比べてマクロライド系薬併用療法群で30日間の死亡率が有意に低下したと報告している。
 これらの結果は、非定型病原体をカバーすること、または併用療法による相乗効果で市中肺炎の予後が改善すると解釈される。
 表のさまざまな報告において、重症例を対象にしているものを網掛けで示す。これらの報告は敗血症を伴う肺炎球菌性肺炎、ICUへの入室者、および挿管患者などを対象としている。臨床試験の結果を見ると、マクロライド系薬を併用すると重症市中肺炎の予後が改善するという報告が数多くなされつつある。これらの報告の中で、prospective studyが特に重要であるので(筆頭著者名の右肩に*を付記)、それらを含めて紹介する。
 まずBaddourらは、敗血症を伴う肺炎球菌性肺炎を対象に、2剤併用療法と単剤療法の治療効果を検討している。これによると、重篤な患者において、併用療法が予後を改善すると報告している。
 次に、Rodriguezらも同様の解析を実施し、ICUに入院した市中肺炎患者において、2剤併用療法と単剤療法とを比較している。この研究においても、ショックを合併した患者においては、併用療法の治療効果が優れていることが示されている。
 これらの二つの研究において、多くの併用療法はマクロライド系薬+β-ラクタム系薬が用いられている。
 さらにRestrepoらは、retrospectiveであるものの、きわめて興味深い結果を得ている。すなわち肺炎に合併した重症の敗血症において、全ての症例を対象にして、マクロライド併用群の治療成績が、マクロライド併用なし群より良好であることを示している。驚くべきことに、この差はマクロライド耐性菌による肺炎でも認められており、抗菌力以外の作用機序によるものであることが示唆されている。
 Martin-Loechesらは、欧州9カ国27施設のICUにおいて48時間以上人工呼吸器が装着され、重症肺炎と診断された218例のうち、重症敗血症または敗血症性ショックを伴う92例を対象に、ATS/IDSAガイドラインで推奨されている治療法の用量・用法に従い、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬(アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン)を併用した群と、フルオロキノロン(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン)を併用した群でICUにおける生存率を比較検討している。
 その結果、投与開始後30日間での生存率はβ-ラクタム系薬+フルオロキノロン系薬併用群に比較して、β-ラクラム系薬+マクロライド系薬併用群が有意に高い生存率を示した。さらに生存率の推移をみると、治療開始早期から両群間に差が認められ、重症肺炎に対しマクロライド系薬の併用は、投与初期から救命率の向上に貢献していることがうかがえる。
 この結果を踏まえると、重症市中肺炎の初期治療において、マクロライド併用療法を選択すべきだという考えが提唱されている。
5.医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン
 2011年に日本呼吸器学会から医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドラインが発刊された3)。NHCAPの定義は以下の4項目である。
 (1)長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している、(2)90日以内に病院を退院した、(3)介護を必要とする高齢者、身障者、(4)通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等による治療)を受けている、とされている3)
 その治療指針を、図に示す。一般外来において有用なのはA群、およびB群で示される治療薬である。ただし、A群の内服薬として、レスピラトリーキノロンであるグレースビットが含まれるべきである。またB群は、一般臨床において重要な薬剤が示されているものの、このB群にはアジスロマイシン注が含まれるべきである。
 このガイドラインが発刊されたことで、肺炎のガイドラインが市中肺炎、院内肺炎に加えて3冊となり1)~3)、現場の混乱を招いている。
 またこのガイドラインで示されるC群、D群の治療方針に対しては批判もあり、今後の改訂が求められる。このNHCAPの多くは誤嚥性肺炎であることから、腎機能に影響を与えず、かつ口腔内常在菌にも有効なアジスロマイシン注の効果が期待できる。

文 献
1)日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会.呼吸器感染症に関するガイドライン:成人市中肺炎診療の基本的考え方.日本呼吸器学会、東京、2000
2)日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会、東京、2005
3)日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会編、医療・介護関連肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会、東京、2011

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