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[保険診療のてびき] 地域包括ケアで医療はどうなる〜地域包括ケア・システムの論点と課題〜

佛教大学社会福祉学部教授  岡﨑 祐司先生講演

住民の願いとはほど遠い「地域包括ケア」
 患者・利用者が住み慣れた家で、専門性の高い医療や福祉を受けながら、地域生活を送るためのケア・システムが求められている。実際に、「地域包括ケア・システム」の名のもとに、医療関係者、介護保険事業者、社会福祉協議会、行政が連携し、各専門職の役割と機能を強化し、総合的なケアを提供しようとする取り組みが、地域でさまざまに取り組まれている。
 しかし、政府・厚生労働省、つまり政策主体が打ち出している「地域包括ケア・システム」は、住民の願いを実現する内容とはほど遠いものである。議論を混乱させないためには、住民が望み専門職がめざしている「地域包括ケア・システム」と、政策主体の打ち出すそれとは明確に区別しておく必要がある。
産業に効率のよい環境づくりが目的
 政策側の打ち出すケア・システムは、医師から看護師、看護師から介護福祉士、介護サービスから生活支援サービスへとより低コストの受け皿をつくり、高齢者の集合住宅つまりサービス付き高齢者向け住宅への住み替えを前提に、高齢者向けサービス産業にとって効率よい環境をつくることにあり、専門性の薄い、あるいは専門職の出番の少ないシステム構想になっている。
 筆者の記憶が正しければ、「地域包括ケア・システム」がとりあげられたのは、2002年6月の高齢者介護研究会報告「2015年の高齢者介護」であり、その後、地域包括ケア研究会が立ち上がり、2008年5月、2010年3月、2013年3月に報告書が出されている。今年8月6日に出された社会保障制度改革国民会議の報告書においても、医療費抑制策や医療供給体制の統制と並んで、「地域包括ケア・システム」が医療改革のキーワードの一つになっている。
公助の役割を制限し介護保険の縮小、給付抑制
 政策主体の打ち出すシステムの特徴は、以下のとおりである。
 (1)問題対応の優先順位・役割の順番として、自助→互助・共助→公助をあげ、社会保険を共助とし、公助の役割を制限する構想になっている。
 (2)介護から生活を切り離し、部分的、身体的な介護のみをケアと位置づけ、病気や障害を持ちながら暮らす人間像や生活像がない構想になっている。
 (3)地域ケアの中核として医療が位置づけられておらず、保健(保健師)の役割も出てこない。
 (4)介護保険縮小改革、つまり給付の抑制・制限の裏打ちになる説明を繰り返すものとなっている。
 とくに、施設抑制は明確であり、逆にサービス付き高齢者向け住宅への「住み替え」を促進する内容になっている。また要支援や要介護1を介護保険給付の対象外にすることや、高齢者・家族の意向よりケア・マネジャー主導で、給付抑制や目標管理を強いるケア・マネジメントも打ち出している。
 言うまでもないが、ケアとは身体介護に限定されるものではない。日常生活を維持するためのケア、その人らしい文化的な生活を可能にするケア、地域社会への参加や市民としての権利を保障するケアが重層的に提供される必要がある。そして、(1)必要充足、(2)対象者と専門職のコミュニケーション確保、(3)ケアを提供する時間と空間の社会的保障、(4)保健・医療との十分な連携を原則に提供されなければならない。
 研究会報告は「地域包括ケア・システム」を、ニーズに応じた住宅が提供されることを基本に、医療・介護・生活支援サービスが日常生活圏域で適切に提供できる体制としている。この方針に、異論を唱える人はいないだろう。問題は、提供体制がどう組まれ、必要なケアを必要なだけ、要介護の高齢者が受けられるのかどうかである。提供体制でいえば、「最後まで可能な限り医療依存度を高めない」(2013年の報告。ちなみに2010年の報告では「病院に依存せずに...」であった)ために、できるだけ医師の役割や往診などは限定し看護職の役割を拡大し、在宅医療は在宅療養支援診療所や在宅療養支援病院に重点化することがめざされている。
 社会保障制度改革国民会議の報告における、急性期に特化した医療機関再編の提起と、医師の多忙化の原因を看護職がやるべき仕事までやっているからだという記述とを重ね合わせれば、地域医療への資源投入を極力抑制しながら、看護師さらに介護職に依存した体制づくりをめざしているものといえる。住み慣れた家で医療・福祉を受けるために地域医療に大きく資源を投入し充実させるという方針ではない。
 そして、施設ケアには否定的な評価を下し、施設増設を抑制する代わりに、サービス付き高齢者向け住宅での介護保険の利用を前提にしている。
 さらに、介護保険は対象者をさらに制限し、おそらく現行の要支援、要介護の給付限度額やサービス内容は制限される。生活上必要なサービスは、市町村によってレベルの異なる有料の生活支援サービスか、全額自己負担の民間サービスに依存せざるを得ない。ちなみに、2013年の報告では通所介護の報酬が高額だとして、報酬抑制・自己負担強化や、場合によっては介護保険対象外の居場所サービスをつくる方向を述べている。
住民とともに専門職が政策主体側の構想に対抗を
 本来の「地域包括ケア・システム」は、地域医療を中核の一つに位置づけ(もう一つの中核は相談援助、ケアを含む社会福祉)、第一線の医科・歯科の診療所、中小病院の役割機能を再評価し、診療報酬上の改定を行う必要がある。有床診療所の機能強化や、在宅の口腔ケアを充実させる報酬改定も欠かせない。そして、医師には患者の生活にも関心をもって、トータルに患者を把握する姿勢が求められる。それらとともに、個別ケースをめぐって医療・社会福祉が連携できる実質的な体制や、会議の設置を小地域単位で行う必要があろう。
 なお、サービス付き高齢者向け住宅は今後の地域ケアの焦点になってくるが、居住環境とケアの格差、コミュニティづくりができるかどうかが課題である。営利ベースで発展させず、社会的使命をもった事業体がケア保障型居住をめざして参入するべきであろう。
 住民とともに専門職が、草の根から「地域包括ケア・システム」の実践を示し、政策主体側の構想に対抗する必要があろう。
 (9月7日地域医療部「地域医療研究会」より、小見出しは編集部)
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