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一般臨床医のためのすぐに役立つ精神科知識 [診内研より]

東京都立 多摩総合医療センター精神科  児玉 知之先生講演

はじめに
 身体的には検査上問題ないとされる患者群のなかで、精神科的な疾病によって症状を発症している患者の割合がかなり高いことは、臨床上、実感として経験されていることと思います。その中のうちのかなりの部分は、抗うつ薬の適切な使用によって改善が期待できるうつ病・適応障害であったり、抗不安薬の効果が期待できる心因性愁訴であって、精神科を標榜されていない先生方であっても、かなりの患者群には対応可能であるのが実情と考えております。
 今回の講演では、プライマリ・ケア領域において、初期治療として間違いの少ない抗うつ薬・抗不安薬の導入や継続使用のコツを、元非精神科医(内科医)であった立場から、明日からすぐに使用できるような形で提示することを心がけました。
 今回は、文字数の都合上、うつ状態の薬剤使用の原則の項に絞って、講演内容の概略をご紹介したく存じます。
うつ状態(うつ病・適応障害含む)について
 元気がない=うつ病、ではありません。
 うつ病と精神科医が診断する場合、それ相当の根拠や診断基準があります。
 正確を期すのであれば、DSMやICDといった診断の国際基準がありますが、煩雑であり、非専門の先生方にとって使用しやすいものではありません。
 旧来、大うつ病のスクリーニングにおいては、2質問法と呼ばれるスクリーニング法があります。2週間以上続く、「喜び・興味の消失」と「抑うつ気分」の存在にスポットを当て、どちらも基準を満たす場合には、感度・特異度ともに90%以上を有するといわれているスクリーニング法です。
 この方法は、エビデンスの上でも確立されているもので、否定するつもりは全くありませんが、内科外来診療に携わっていた経験から述べる限りは、よほど誰がみてもうつ病とわかるような患者でないと、スクリーニングにかからない印象が強く、いわゆる仮面うつ病といわれるような、身体愁訴が前景に立ち、プライマリ・ケアをまず受診するような患者群には不適当なスクリーニング項目かもしれません。また、スクリーニング後の治療という観点から鑑みても、2質問法でとりあげる「喜び・興味の消失」「抑うつ気分」という項目は、直ちに導入した抗うつ薬の効果判定に役立つような症候ではありません。
 それでは、どのようなスクリーニング項目が、プライマリ・ケア領域では適当でしょうか?
 今回お勧めしたいのは、うつ状態をみたら「睡眠欲・食欲・意欲」の三つの項目の障害の有無をスクリーニングして、うつ状態かどうかを判断しましょう、ということです。
 この3項目は、うつ状態の発症早期には、質的な障害から始まり、病勢の進行とともに、徐々に量的な意味でも障害されていくという傾向があります。
 睡眠を例にとって述べれば、発症早期には、「眠れているが、睡眠が浅い・何回も目が覚める」などが代表的な訴えであって、病勢が進行してくると「全く眠れない・睡眠時間が明らかに減った」というように量的にみても明らかとなります。量的な障害にまで進行している症例は、少なからず精神科や心療内科に自ら赴く確率は高くなりますから、プライマリ・ケア領域でのスクリーニングという観点からみれば、上記3項目について質的な障害の有無について検討していくと、より有用であろうと考えます。
 さて、身体的に異常所見がなく、上記スクリーニングにて、うつ状態の可能性が高いと判定された症例に対して、抗うつ薬を使用する場合には、どのような点に注意をしたらよいのでしょうか?
 最も強調したいポイントとしては、「漫然と抗うつ薬を開始・継続しない」ということです。
 うつ病を含めたメンタルな疾患を治療する場合、肺炎を例にあげるところの「XP所見」、「採血上の炎症反応の上昇」など、現在行っている加療方針が有効かどうかを判定する他覚所見がないため、薬剤を漫然と投与しがちとなる傾向があります。
 抗うつ薬を導入するのであれば、うつ病と診断した根拠そのものを、抗うつ薬によって治療すべき症状=(治療の)標的症状として設定して、効果判定を行っていくと分かりやすいです(表1〜2・カルテ記載例を参照)
 標的とすべき症状の設定は、薬剤による効果が分かりやすい、スクリーニングで述べた3項目が適当と考えます。
 カルテ記載例の通り、うつ病と判断した根拠そのものを、導入した抗うつ薬で経時的にみて反応するかどうかを検討するという、フォローアップ方法が望ましいです。
 反応しない場合は、導入した抗うつ薬の副作用がなければ、反応するまで2週間程度ぐらいの間隔で、1錠ずつ程度、保険容量程度まで増量していく、効果があった場合は、最低でも半年程度は効果のあった投薬内容で維持する、なるべく主剤として設定した抗うつ薬は単剤で用いるなど、抗うつ薬導入後に注意すべきポイントはいくつかあります。
 当日の講演では、各種抗うつ薬の副作用や注意すべき点を含めた、ある程度細やかなプロフィールも述べさせていただきましたが、どの抗うつ薬が効果が強いのか、不安焦燥を改善する、意欲の改善効果が強いなど、薬剤の特長の面に関しては患者間の個人差が大きく、投与前には予測がつきません。実際に導入し、保険容量程度まで漸増していかないと、効果判定しがたいというのが実臨床の限界であるということも、併せてご記憶いただければと思います。
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