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学術・研究

医科

寄生虫症診療の基本的アプローチ [診内研より]

奈良県立医科大学 病原体・感染防御医学講座
奈良県立医科大学附属病院 感染症センター    中村(内山)ふくみ先生講演

はじめに
 最近の日本における寄生虫症は、(1)食品媒介性寄生虫症(アニサキス症、日本海裂頭条虫症など)、(2)輸入感染症としての寄生虫症(マラリア、有鉤嚢虫症)、(3)免疫不全に関連した寄生虫症(トキソプラズマ脳炎、糞線虫症)、(4)性行為感染症としての寄生虫症(赤痢アメーバ症)、(5)土壌媒介性寄生虫症(回虫症、鉤虫症、鞭虫症)の五つにまとめられる。
 日本の寄生虫症の様相は、時代とともに変化し複雑化しているが、「寄生虫症を容易に想起できる」場合と、「寄生虫症を想起しにくい」場合の二つに分けて考えると、理解しやすい。
 個々の寄生虫・寄生虫症の詳細は成書を参照していただくとして、本稿では「寄生虫症を容易に想起できる」場合と、「寄生虫症を想起しにくい」場合について、寄生虫症の基本的アプローチを概説する。
「寄生虫症を容易に想起できる」場合
 寄生虫が体から出てきた、あるいは移動性の皮膚病変は、寄生虫症を想起しやすい症候である。前者の代表格は、日本海裂頭条虫や無鉤条虫である。後者の例は、顎鉤虫、旋尾線虫、マンソン孤虫、肺吸虫、イヌ鉤虫などが挙げられる。
 寄生虫そのものが得られたら、形態学的・遺伝子学的同定で確定診断がつく。寄生虫の皮膚病変といっても、原因となる寄生虫は複数あり、その鑑別には詳細な問診、生検、免疫診断の結果を総合して判断しなければならない。
 また、下痢が遷延する時(2週間以上続く)や血便が見られたときも、寄生虫症を考えなければならない。ジアルジア、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバ、糞線虫、横川吸虫などが鑑別にあがる。
 下部消化管内視鏡検査を行う前に、便の虫体検査を考慮してほしい。検便で寄生虫が見つかれば、即、確定診断である。
「寄生虫症を想起しにくい」場合
 非特異的な症候を示す寄生虫症は多い。
 中でも見逃してはならない寄生虫症は、マラリアである。マラリアの初期症状は、発熱、頭痛、関節痛、下痢など感冒様症状で受診する。見逃してしまったら、診断の遅れは致命的であり、毎年1700万人もの日本人が海外へ渡航している今日では、発熱患者に海外渡航歴を問診することは必須である。
 寄生虫症の症状が非特異的あるいは無症状であっても、画像検査から感染臓器が判明することがある。例えば、肺吸虫症では肺が標的臓器となるが、典型的な呼吸器症状を示す患者もいれば、健康診断の胸部レントゲン写真で異常を指摘され、診断に至った患者もいる。
 非寄生虫症の方が鑑別の優先順位は高いが、末梢血好酸球増多が寄生虫症、特に蠕虫症(多細胞の寄生虫による感染症。線虫症、吸虫症、条虫症)を疑うきっかけとなることが多い。
 種々の寄生虫と寄生虫が好む居場所(標的臓器)の関係を、表1にまとめた。
寄生虫症のアプローチ
 最も重要なことは、今日の日本にも寄生虫症が存在し、鑑別疾患として考えておくことである。
 寄生虫を想起したならば、患者背景(年齢、性別、基礎疾患、食歴、居住歴、渡航歴など)を理解し、感染臓器(=標的臓器)を突き止め、考えられる原因寄生虫に適した検査を進めていく。
 寄生虫症でも、感染臓器に依存した症状が出現する。表1を参照し、それぞれの寄生虫でどのような事項を問診すれば良いか、具体的にまとめておくと良いかもしれない。
 寄生虫症の診断に必要な検査は、それほど多くはない。寄生虫そのものを検出するか、免疫診断で抗体を検出するかである。前者には、寄生虫が体から出てきた場合にその虫体を形態学的に同定するほか、検便による虫卵・虫体(幼虫、栄養体・嚢子・オーシスト)の検出、生検による虫体の検出、血液塗抹標本の観察による検出がある。
 便の検査方法には、直接法、ホルマリン・エーテル法、ショ糖浮遊法、蛍光抗体法などがあるが、目的の寄生虫に応じた方法を選択しなければならない。検査を依頼する際には、目的の寄生虫を明記し、適切な方法が選択されるように配慮したい。形態学的な同定が困難な場合は、遺伝子学的同定を行うこともある。
 免疫診断が有用な寄生虫症は、腸管外に寄生する寄生虫が多く、幼虫移行症または組織移行性をもつ寄生虫が原因の場合である。血清だけでなく、胸水、腹水、髄液、前房水などの体液を用いることができる。
 最近の日本で主流の食品媒介性寄生虫症は、ほとんどが幼虫移行症であり免疫診断の重要性が高まっている。
 寄生虫症と診断に用いる検査を、表2と表3にまとめた。
おわりに
 そもそも寄生虫症を考えたとしても、どこに相談すれば良いか分からないという声も聞く。この機会をきっかけとして、筆者にお問い合わせいただいて構わない(E-mail:idfukumi@naramed-u.ac.jp)。
 本稿が、寄生虫症を改めて勉強しようというきっかけとなり、日常診療の一助となれば幸いである。

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