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学術・研究

医科2013.10.15 講演

インフルエンザ 2013/2014シーズンに向けて [特別研究会より]

川崎市健康安全研究所 所長  岡部 信彦先生講演

はじめに
 わが国のインフルエンザは、毎年11月下旬から12月上旬頃に発生が始まり、翌年の1〜3月頃にその数が増加、4〜5月にかけて減少していくというパターンである。
 流行期に入る前の流行の規模、主流となるインフルエンザウイルスの型などの予測は、医療関係者のみならず社会的な関心事でもあるが、いろいろな要素が複雑に絡み合うため、現在のところ正確な予測は困難である。しかし、流行が小規模であっても、1シーズン数百万人、大きければ千数百万人を超える患者が短時日に発生し、基本的には自然に回復するインフルエンザであっても、母数が増えれば重症者数・死亡者数も増えてくるので、規模の大小にかかわることなくインフルエンザに対する一定の警戒と備えは必要である。
 そのためには、例年の流行状況を知り、また最新の流行状況を常に把握できるようにしておくことが、重要である。
インフルエンザ患者の発生動向
 国内のインフルエンザの発生の様子は、全国5000カ所のインフルエンザ定点医療機関(内科定点2000カ所、小児科定点3000カ所)から、週ごとに地域の保健所に報告され、地域および国内のインフルエンザの発生動向が分かるようになっている。
 インフルエンザ定点の約10%は検査定点として、インフルエンザ様疾患患者から得られた検体を、所属する地域の衛生研究所(地衛研)に提出し分析が行われ、国立感染症研究所においてさらなる分析と国内のインフルエンザウイルスの状況がまとめられている。これらの情報は、世界保健機関(WHO)に提供され、世界のインフルエンザ情報の一部となっている。
 図1は、インフルエンザ定点からの報告に基づいた、最近10年のインフルエンザの発生動向である。
 季節性インフルエンザの患者年齢分布は、幼児学童に多く、年齢とともに減少する傾向にあるが、重症者は高齢者と小児に多くなる。インフルエンザの重篤な合併症であるインフルエンザ脳症は、幼児に多い疾患であるが、最近は高齢者での報告もみられるようになってきているので注意が必要である。
 原因ウイルスは、そのシーズンでの流行ウイルスの分布を反映しており、A/H1、A/H3、B型のどの型でも発生があり得る。
インフルエンザウイルスの分布状況とワクチン株、薬剤耐性ウイルスの状況
 2012/13シーズンはA/H3が主流で、B型はA/H3の流行のピークが過ぎて現れてきているが、山形系統のB型が多くを占めている。A/H1N1 pdm09はほとんど検知されていない(図2)。
 海外では、A/H1N1 pdm09がかなり多数を占める地域もあり、欧米においてA/H1N1 pdm09による重症者の増加が話題となった。
 2013/14シーズンのインフルエンザワクチンウイルスは、これらを反映して以下のようになっている。A/H1N1 pdm09については、発生時からこれまでに抗原性の変異がないところより、同一のウイルスタイプがこれまで用いられているが、A/H3、B型については変更が行われている。
 A/California/7/2009(H1N1)pdm09
 A/Texas/50/2012(H3N2)
 B/Massachusetts/2/2012(山形系統)
 なお、国内において分離されたウイルスについて、抗インフルエンザウイルス薬耐性ウイルスに関する分析が行われている。現時点ですでに使用されなくなったアマンタジンを除いて、耐性ウイルス株の出現はほとんどないといえるが、引き続きその動向には注意を払う必要がある。
http://www.nih.go.jp/niid/images/flu/resistance/20131011/dr12-13j20131011-1.gif
鳥インフルエンザH7N9、MERSなど
 2013年4月、中国上海で3例の重症呼吸器不全(ARDS)患者から、鳥インフルエンザウイルスA/H7N9が検知されたという報告が、中国から報じられた。H7N9のヒト感染例は初めてであり、しかも3例とも死亡したということは、強い衝撃であった。
 その後、中国南部を中心にH7N9患者発生が確認され、4月24日には確定例は109例(うち23例死亡)となった。明らかなヒトからヒトへの感染の拡大は確認されず、直接の感染源となったであろう生鳥市場(live bird market)などの閉鎖、鶏の殺処分などによって、新たな患者発生は5月以降一時おさまった。
 しかし、8月1例、10月3例の新たな感染患者が報告されており、完全に収束したわけではなく、注意が必要である。
 現時点で中国への渡航を中止する必要もなく、また中国から帰国あるいは来日した人への過剰な警戒もまた必要ではないが、一般の旅行者が生鳥市場や養鶏場、医療機関への立ち入りをすることは勧められない。
 H7N9ウイルスが、鳥や人から検知されたような土地から帰国あるいは来日した人で、急性呼吸器症状があって、鳥あるいは患者との接触歴がある人については、重症であれば入院の上個室隔離、軽症であれば自宅での安静として、H7N9のウイルス検査を行う必要がある。
 検体は、喀痰・咽頭ぬぐい液・できたら下気道検体などで、現在国内のほぼすべての地方衛生研究所等でPCR検査可能となっている。
 中東では、Middle East Respiratory Syndrom(MERS)と命名された、SARSウイルスに似た新たなコロナウイルスによる重症呼吸器感染症の発生があり、注意されている。
 これも現時点で、広くヒトへの感染拡大を深刻に警戒することではないが、事態を注視していく必要がある。なお、本ウイルスに関しても現在国内のほぼすべての地方衛生研究所等でPCR検査可能となっているので、中東地域に関連した重症呼吸器感染症患者に関しては、保健所を通じて検体を提出し、鑑別診断を行う必要がある。(10月5日特別研究会より)
資 料
国立感染症研究所感染症疫学センターホームページ「インフルエンザ」
 http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
WHOホームページGlobal influenza program
 http://www.who.int/influenza/en/index.html

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